驚愕! 欠片の実態が明らかに!

「凄えな、今の技」

 歩きながらオレは服を絞る。


「あたしの切り札、『彗星弓(コメツト・ボウ)』よ。調製できないから、一日一回しか使えないけど」


『ユーニス様の全精神力を消費して放つ技ですから』


「お、そうだ。こんなの拾った」


 唯一残った紋章のような破片を優月に見せる。


「すまん。情報が粉々になった。やつも取り逃がちしまった」

「いいのよ。ホントはここで決着をつけたかったけど」


「これは!?」

 オレが破片を差し出すと、優月が血相を変えた。


『蛇が流れ星に絡みついているマーク。海蛇座銀河団の紋章です』


 また、銀河団のお出ましとは。


「最近の珍走団はロボまで操るのか。贅沢になったもんだ」

「これで、銀河団が星雲大帝と繋がっている事が確定したわ」

「尖兵をやってるとかか?」

「そうみたい。あるいは実験材料か。とにかく、手を組んでいるのは確かね」

「それより、鏡華達は?」



 太一達に連絡を取ると、一足先に公園の出口に向かっていたそうだ。


 オレが向かうと、珍客を発見した。


「カガリじゃねえか」


 オレが呼びかけると、カガリは「やあ」と応える。


「それにしても、こんな山のない公園にイノシシが出るなんてね」

「何があるかわかりませんね」


 太一と鏡華が口々に言う。


 なるほどな。そういう設定にしたのか。


「周囲にも、同じような嘘の情報を記憶させているよ」と、カガリが説明した。


 こいつがいるとなると、他のMIBも出張っている。今頃、無数の黒服集団が、そこらじゅうで人々の記憶を消しまくっているのだろう。


「やあ、鏡華君。奇遇だね」

「十文字さん、お久しぶりです」


 カガリは、鏡華と挨拶を交わす。同業者なためか、頻繁に会っているように親しそうだ。


「あれ、カガリさんとも知り合いだったのかい?」


「ま、まあね。職業柄ね」と、カガリがはぐらかす。


「温泉宿だもんね、カガリさん家」


 とにかく、無事で何よりと言うべきか。


 しかし、また敵の襲撃でデートを台無しにされた。何か恨まれてるのか、こいつらは。


「悪いな太一、度々デートがダメになっちまって」

「ん? 虎徹が悪いわけじゃないのに?」


 あ、そっか。余計なことを言ってしまった。


「バカ」と、優月に肘で腕を小突かれる。


「仕切り直しってワケじゃないけど……」

 太一はパンフレットと、三人分のチケットを見せる。


「実は近々、僕と鏡華さんの家族が運営する展示場がオープンするんだ。そのお披露目に、二人も来てもらいたいんだよ」


 太一の家は、アトラクション運営を全般に扱う実業家だ。


「天体を主題にした、テーマパークだよ。その目玉が、ココナッツ型の隕石なんだ」


 スマホの電源を立ち上げ、太一は何かのファイルを探す。


 そこにはココナッツのような形をした石の塊が写っている。


「月の石とも違う、特殊な金属でできているんだよ」

 太一が、スマホの写真を見せてくれた。




 全身が総毛立つ。




「虎徹、これはマズいんじゃないかな?」

「ああ、かもな……」



 カガリの言い分からして、これは間違いなく欠片だ。


 多分『ヴォイニッチ手稿』に関わっている。


 どんな効果があるのかまでは、オレにはまったく想像もつかないが。



「おい優月、大丈夫か?」

「え、ええ」

 優月も、言葉をなくしている。


 オレと優月がヒソヒソと話していると、太一が割り込んできた。


「二人とも、隕石に心当たりあるのかい?」

「いやいや、何でもないぜ。それより食い物がいいってこいつが」

「宇宙食タイプのラーメン試食したいって言ったの、あんたじゃない!」


 パンフに書かれている数少ない情報を拾って、どうにか口論の内容をごまかす。


「ごめんね二人とも。もっとロマンチックな場所がよかったよね?」


 なぜか、オレ達が展示会をお気に召さないという流れになってしまった。


「いやいやいや、そんなわけねえだろ。むしろ楽しみだってんだよ。な?」

「そ、そうね。宇宙がテーマの展示会なんてロマンチックじゃない」


 どうにか、オレたちはその場を取り繕う。


「そうか。よかった。じゃあ集合時間とかは後日メールするから」


 しどろもどろな返答になってしまったが、どうにか太一は行為としてとらえてくれたようだ。太一はホッとした顔になる。


「それにしても凄かったね、今の爆発。あんなの、地球上の科学では再現できないはずなんだけどな」




 太一の言葉に、オレ達はハッとなる。いきなり何を言い出したんだ?



 続けざまに太一は、地球では分析されていない科学成分を羅列しだす。

 あの組み合わせはああでもない、この組み合わせである可能性は低いなど、オレからすればチンプンカンプンな論理を、太一は勝手に始めた。



「なんだ、これ?」


「ボクにも分からない」

 カガリにも意味不明らしい。


「あのね、太一君」

 鏡華は太一の顔を引き寄せる。


「おお……」

「え、ちょっと鏡華!?」


 オレと優月は、同じリアクションをした。



 あろうことか、二人はオレ達の前で堂々とキスをしたのだ。



 いくらなんでも大胆すぎるだろ。


 オレの隣で、優月とカガリが唖然としていた。


「ごめんなさい、いきなり。人前で」


 鏡華が謝罪すると、太一は「気にしないで」と首を振った。


「悪いね。なんか、熱くなっちゃって」


 ばつが悪くなった太一は「先に失礼するね」と、鏡華を伴って帰って行った。


「今の見たか、優月」

「ええ。何かに取り憑かれているみたいだった」


 カガリが、二人の背中を興味深く見守る。


「これが、鏡華君が太一君を自分の側に置いている理由かもね」



 それにしても、続けざまに襲撃を受けるとは。

 

 狙いは鏡華か、太一か、それともオレ達なのか。


 まあ、今回の事でわかったことはあるが。


「鏡華君について、ちょっと調べてみるよ」と、カガリも帰っていく。


 こうして、二回目のデートは終了した。




◇ * ◇ * ◇ * ◇






 帰宅後、オレは食卓で、ジイサマに事のあらましを伝えた。


「いくら重要人物だからと言って、星雲大帝に襲われるとは」


 ジイサマが焼き鮭をより分けずにかぶりつく。そのまま飯の上に置いて、急須の焙じ茶を注ぐ。


 献立は、コロッケとレタスメインのサラダ、アサリの味噌汁だ。メインディッシュは焼き鮭である。


「なんか、試されてるみたいだね。データ採取が目的みたい」

 味噌汁を啜りながら、亜也子が物騒なことを言う。


「それで、今度は展示会に欠片が公開されるじゃと?」

 飯粒を飛ばさん勢いで、ジイサマがわめく。


 焼き鮭茶漬けが顔にかかりそうになる。


「父さん、はしたない」と、義理の父がモニター越しに注意をした。


 義母がジイサマの顔を拭く。「そうですよ、しゃんとして下さい」


 二人は亜也子の両親で、オヤジの弟夫婦だ。

 といっても、義父さんは地球にはいない。

 モニターの向こうで食事を取っている。

 ただし、献立は一緒だ。


 ジイサマも「みっともなかったのう」と反省し、落ち着きを取り戻す。


「それにしても、海賊も狙っているなんて」

「しかも、デートなんてね」


 画面の向こうにいる義理の両親は、興味津々で質問してくる。


「危ない目に遭っているなら、私たちも監視しておいた方がいいかしら?」


「いや、すんません、義母さん、司令官。オレがカタをつけますから、二人は安心して」


 義理の両親に遠慮して、モニターに頭を下げる。


「虎徹、私たちの前でそういう態度はやめよう、って約束したろ」

「お義父さんのこと、家では司令官って呼ばないって」


 オヤジの弟夫婦は、『戒星』の司令官と副司令官という身分で、一族を束ねているのだ。


「すんません」と、また頭を下げた。


「お主、まだ根に持っておるのか、自身の出生を……」

 何を察したのか知らないが、ジイサマは咳払いをする。


「案外、寂しかったりしてねー」と、亜也子が味噌汁を啜った。


 反射的に、亜也子の頭をポンと叩く。痛くしない程度に。


「いったいなー、お兄ちゃん。頭へこむじゃん」


「うるせえ。黙って食え」

 イトコを窘め、オレはコロッケを口に含む。


 緊迫した食卓が亜也子のおかげで一気に和んだ。


 こういうとき、家族っていいなと思う。


「やっと笑ってくれたわね、虎徹」

 義母が、笑みを浮かべる。



「は、はい」

 オレは、家族に感謝しながら飯を噛みしめた。



「それはそうと、星雲大帝が動いてるとは」

 ジイサマが、茶漬けを食い終わる。


「あまり、いい状況ではないみたいね」


「うむ。ワシらも動かねばならんかもしれん」

 いつもスケベ顔のジジイにしては、珍しく発言がまともだ。


「なあ、星雲大帝って何者だ?」


 ジジイが真剣になるくらいの相手なのだろうか。


「銀河を荒らし回っていた星雲帝国の皇帝だよ。正体不明で、誰も姿を見たことがないらしい。組織は数年前に、銀河警察との争いで滅びた。その際、彼は行方をくらました」

 義父がモニター越しに説明した。


「で、手がかりは見つかったのかよ? 潜伏先とか」


「いいや、手がかりはゼロじゃ」


 オレは思わず立ち上がった。ますます厄介なことになってきたぜ。


「じゃあ、オレの任務は」


「左様。星雲大帝に欠片が狙われるかもしれん。なんとしてでも阻止するのじゃ!」


 了解だ。太一たちを危険に巻き込んでたまるかよ。

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