強襲! 星雲大帝!

 優月と共に、湖へ向かう。


 鋼鉄製の流星刀を、ハンガーの形に変化させる。


 その時、ガガガガ……と金属音が公園内に鳴り響いた。


「なんだよ、コイツは」


 現れたのは、銀色の装甲で全身を固めた二足歩行のマシンだ。サイズは人間の大きさだが、フォルムはゴツゴツ。足が太く、重量感がある。


『ギャハハ! 星雲大帝様のお通りよぉん!』


 やたら甲高いダミ声が、拡声器のように鳴り響いた。鎧がしゃべっているらしいが、いわゆるオネェ系だ。


「星雲大帝ですって!?」


 おいおい、こんなにものどかな場所に、敵さんの大ボスがおでましかよ!


『待って下さい。内部に生体反応が見られません。遠隔操作と思われます!』


 バスケットと自身を結ぶ紐を切り、ロンメルが臨戦態勢を取る。


『ですが、油断できません。戦闘力は未知数です』


「いいから変形しなさい! 敵が目の前にいるのよ!」


 優月の指示で、ロンメルがマシンガンに武装した。


『何? 誰よ、アタシ様を知っているのは?』


 オレ達の会話に、銀の甲冑はこちらに向き直る。


「待てよ、闇雲に突っ込むな」


 優月が熱くなっている。


 落ち着かせようと、オレは優月の肩に手を置く。


「手をどけなさいよ! あんたには関係ないでしょ!」


『アタシ様の名声は、遙か田舎くさい星にまで轟いているのね?』


 バズーカの銃口が、オレたちに向けられた。光の粒子が、銃口で収束していく。


『よくご存じね。ご褒美にアンタから消し炭にしてあげるわん!』


 耳を劈く音が鳴り響き、光でできた弾丸が、バズーカから撃ち出された。野球ボール大の弾が、通行人を襲う。


「ヤバいぞ、伏せろ!」


 優月と通行人の女性をかばうように、二本の刀を交差させる。刀に弾が着弾したと同時に、斬り伏せた。


 どうにか打ち負けず、刀は弾丸を切り裂く。


『ほほう。少しは腕の立つヤツもいるんじゃない。でも、星雲大帝様には敵わないわよ!』


「オレが食い止める。その人を、早く安全な所へ」



「わかったわ」と、優月は物陰へと隠れた。



 安全を確認して、オレは刀を構え直す。


「さあ、続きと行こうぜ。星雲大帝さんよ」


『アタシ様とやろうっての、クソ忍者? いいわよ、その度胸。嫌いじゃないわん。この身体の実験台に不足はないわ!』


 オレの挑発を確認したか、ロボットの眼がオレを捉え、点滅する。

 マシンはバズーカを持ってない方の手を大きく開き、握り込む。

 拳がハンマーのように、オレめがけて襲う。


 刀をクロスさせて、攻撃の軌道を変えた。

 衝撃で身体が一瞬宙に浮いたが、まったくダメージはない。

 

 並の忍者なら軽く吹っ飛ぶところだろう。


 オレは修行まではサボっていたわけじゃないからな。この程度の攻撃をさばくなんざ、朝飯前だ。


 攻撃が当たらなかったのが予想外だったのか、ロボットは一瞬、動きを止めた。だが、すぐに第二の攻撃が繰り出される。


『大帝キーック!』

 太い足が、オレのいる方角へ突っ込んできた。


「そんなのんびりしたキックが当たるかよ!」

 岩場に身を隠してやり過ごす。


「うおっ!」


 岩が砂の城のように、あっさりと粉砕されてしまう。



 思っていたより強烈なキックのようだ。



 顔にかかった砂を、ペッと吐く。


『ギャハハッ! そんな柔い岩山がアタシ様の攻撃を防げるかってのよん!』


 大帝ロボは得意満面と言った様子で、オレの姿を捉えた。バズーカを向ける。


「だから、トロいっての」


 撃たれる前に、刀を垂直に構えて突進し、銃身を切り裂く。


 バズーカを捨て、マシンは肉弾戦へ移行する。


「それは悪手だ帝王さんよ。もう少し武装しておくんだったな」


 案の定、マシンの動きは鈍重で、オレに一発も当てられない。

 攻撃をかわす度に、オレはロボの間接部に指を突っ込む。配線を一本ずつ、たぐり寄せる。


『汚い手で触らないでよ、忍者! 灰にしてやるわよ!』


「うるせえ! テメエこそスクラップにしてやる!」


 敵ロボットの配線を適当にブチブチと抜いていく。


 オレの作戦に気づいたのか、ロボットはブーストを展開した。


 巨体がオレをまともにはね飛ばす。


 不意の体当たりによって、オレは大きく吹き飛んだ。ジョギングコースのアスファルトに激しく背中を打つ。


「虎徹!?」


 駆けつけようとした優月を手で制す。起きようとしたが、めまいが襲う。


『まだ生きてるの? アンタもう死んでいいのよん!』

 空中にいたロボットが、もう一度地面と水平になって、オレめがけて突進してくる。


 痛む身体を押して、オレは立ち上がる。


「もう一発くるわ!」



 分かってるんだが、脇腹が痛んで膝から崩れてしまう。



「こっちよ!」


 優月が肩を貸してくれた。


 一緒になって、アスファルトに倒れ込む。


 体当たりを逃れられた。


「次はあたしが相手するわ!」


 ロボに突撃しようとする優月の腕を掴んだ。


「何よ、あいつはあたしの敵よ! あんたは関係ないでしょ?」

「オレは大丈夫だから、優月は、オレの言うとおりにしてくれ」


「でもアンタ、ボロボロじゃない!」


 オレは首を振って、優月を突き飛ばす。

「オレが言ったことを覚えてるな。大丈夫、きっとうまくいくさ」


 赤い塊がオレを狙って突撃してくる。


『なーにを相談しているのか知らないけど、同じ事よん!』

 背後を見て、オレは覚悟を決めた。


「それは、オレの攻撃を見てから言うんだな。さあ、来い」


 低空飛行で、ロボットが間近に迫る。


 オレは、両手に持った刀を地面へ突き刺した。印を結び、柄を指でなぞる。


「忍法、武装七変化!」


 刀がスケボーへと変化した。


 スケボーを前に倒し、突撃してくるロボットをひらりとかわす。


「こっちだ」


 片方の足だけで加速し、池へと誘導する。ロボットが大砲を撃ってくるも、オレの背中を仰ぐくらいいしかできない。


「どうしたノーコン。そんなんじゃオレを捉えることはできないぜ」


『ええい! ちょこまかと、うっとうしいヤツね!』


 タイミングを計って、オレはロボットに潰されるギリギリでジャンプした。


 目の前にあるのは池だ。



 オレの狙い通り、ロボットは池の中へ巨体を投げ出す形になる。


「戻れ」とスケボーに指示を送り、刀へと戻す。


 刀を掴み、二本のブースターに突き刺した。


 体勢を立て直そうと、ロボットがもがく。自慢の怪力で浮き上がろうとしている。ブースターを潰したのに。


 体勢をくずし、オレは振り落とされる。






 空中で浮遊しながら、赤いロボはバズーカを構えた。

『これまでよ、忌々しい忍者のガキィ!』





 やられる……。一瞬オレは死を覚悟した。






『ギャハハ!』

 ロボの指が、バズーカの引き金にかかる。





 瞬間、一筋の雷光が、真横に降ってきた。流星のように突進し、ロボの上半身を焼く。





 ロボの上半身が、キレイさっぱり蒸発した。

 頭だけが、回転しながら上空へと飛ぶ。




 唯一残された頭部が、オレの手にすっぽりと収まる。




 稲妻の矢が放たれた方角には、優月がいた。肩で息をして、弓状になったムーンダンサーを構えている。


 三日月刀の中央が開き、長方形の砲身が顔を覗かせていた。



 どうやら、オレは優月に助けられたようだ。



『間一髪でしたね』


 ムーンダンサーは、クールダウンするかのように、ロンメルへと姿を変える。


「さてと、親玉を引きずり出してやる……ぜあ!?」


 頭を持って帰ろうとしたが、頭から時計の針の音が。

 こいつは爆弾だ。


「くっそ!」


 池の中央に、マシンの頭を投げつける。


 その瞬間、マシンは轟音を上げた。


 オレはとっさに跳躍し、飛び退く。


 岸に辿り着いた瞬間、池の中央に水柱が上がった。


『楽しかったわよん、忍者の小僧! けれど、もう会うことはないでしょうね! ギャハハ!』


 これで、敵の情報は完全に断たれてしまったな。

 星雲大帝の声も聞こえなくなった。


「さっきは、助かったわ」

 優月が、手を差し出す。


「どうってことねえよ。それより、ケガはないか」

「あんたのおかげで無傷よ」





「そうじゃなくて、ちょっとくらい隠せよ……」

 オレは視線を逸らした。



 白いシャツを着た優月は、とんでもないことになっている。


「え……きゃあああ!」


 優月が透けた胸を両腕で隠す。必然的に、オレの手を離す形に。



「おい、待て、手ぇ離すな!」

 当然、オレは背中から池にダイブした。

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