第34話 温泉上がりのミルクアイス。接近遭遇付き

 その後も、部屋でごろごろ、ごろごろし、夕方は温泉から夕焼け鑑賞。

 太平洋に沈む夕日は幻想的だった。夏場、来てもいいかもなぁ。

 その後、夕食は部屋に運んでもらい、むしゃむしゃ。

 メニューは所謂、何でもありなやつだ。


「このお刺身、美味しい……やっぱり、明後日はお魚を差し入れて、お父さんに御寿司を握ってもらわないとっ! とっ!!」

「残念ながら、明後日、親父はいない」

「うーそーだー。雪継は嘘吐きだー。私、お母さんに聞いたものっ! 握ってくれるって♪」

「それは、反則だろうがっ!?」


 とか何とかやりながら、夕食を終え、布団を敷いて再びごろごろ。

 持ち込んだゲームをしていると、妹の幸雪が無言でグループに入って来たので、ボイスチャットを繋ぎ三人でFPSに興じる。


『待ってっ! 雪継、ステイっ!! ステイっ!! もしくは、一丁、銃を交換してっ!!!』

『……どっちも金武器なんですが、それは』

『お兄ぃ、そんな泥棒猫さんは、雑魚武器でいいよ。後半のこのタイミングで、復活しても肉盾だし。そして、私とお兄ぃは生き残るの。二人きりで☆』

『ブラコン妹猫っ! そんなことを私がさせる――! やばやばっ。雪継っ! へるぷっ! へるぷっ!! 助けてくれたら、ちゅーして』

『爆撃いきまーす』


 幸雪が、四月一日がいるにも関わらず容赦なく、範囲空爆。

 敵が倒れ、大エース様のキャラも殺害。


『あ、ごめんなさい』

『あ、ごめんなさい……じゃないわよっ!? 今のわざとでしょうっ!?』

『証拠は何処に?』

『ぐぬぬぬ……篠原幸雪さん★?』

『な、何ですか。気持ち悪い声を出して』


 幸雪の動揺する声が聞こえて来る。

 なお、チャンピオンまでもう少し。ここで勝てばランクも上がる。勝たねば。

 ……背後に妖気っ!


『ちょっ! お前、止め』

『!? お、お兄ぃ!? どうしたのっ!?!!』

『ふっふっふっ……ブラコン妹猫さん……貴女は一つだけミスを犯したわ。たった一つのシンプルな。雪継と、私は、今、同じ部屋にいるっ! しかも、お布団を並べてるっ!!』

『!?!!! ひ、卑怯っ! 卑怯っっ!! 殿中ですよっ!!!』

『ひと太刀ぃ~ひと太刀ぃぃ~』

 

 現在、俺は後ろから浴衣姿の四月一日に抱きしめられている。

 手元が狂い、プレイに乱れ。何で、途中から忠臣蔵!?

 幸雪も錯乱。敵に見つかり、速射。あっさりとやられる。ぐぅっ!

 嗤う黒四月一日。


『ふっふっふっ…………勝てばよかろう、なのよ……』

『あ、勝ったわ』

『んなっ!?』

『やったっ! 流石、お兄ぃっ!! 正義は必ず勝つんだよっ!!』


 俺は最後の敵を倒し、チャンピオンに。

 幸雪が喜び、四月一日はよろよろ、と後退。布団の上でぱたり。

 恨めし気。


「…………裏切り者ぉ」

「なんでだよ」


 時計を確認。そろそろ、いい時間だ。

 俺は妹に『ここまでだなー。明後日、帰るから。おやすみ』『うん。待ってる。四月一日泥棒猫さんは来なくてけど。あ、お兄ぃ、定時連絡しないとダメだからねっ! ねっ!! おやすみなさい』。ボイスチャットが切れた。あいつも元気だなぁ。勉強、大丈夫なんだろうか?

 俺は立ち上がり、タオルを取る。


「寝る前に温泉、行ってくるわ。お前は?」

「…………裏切り者とは行かない。機嫌を直してほしくば」

「よし、寝てろ」

「きー! かわいくないぃぃ。いいもんっ! 寝ちゃうもんっ!! ……襲ったら」

「襲わん、襲わん」

「さいごまで言わせなさいよぉぉぉ」


 うぜぇ。ぎゃーぎゃーと暴れる大エースを残し、部屋を出る。

 ……まぁ、帰りにアイスでも買っていけば機嫌も直るだろう。


※※※


 夜の太平洋を眺め、波の音を聞きながら露店風呂を楽しみ、売店へ。

 自販機で麦茶を買い飲む。


「ぷはぁ」


 思わず声が出る美味さ。案外と俺は、湯上りの冷たい麦茶が好きな男なのだ。

 次いでアイスを物色する。

 定番の小さな六個入りミルクチョコアイスやら、カップアイス。少しお高いやつまで、案外と種類が豊富だ。

 さて、何を買ったものか……。


「あ……篠原さんだ。こんばんは~♪」

「? あ、八月一日さん」

「えへへ~♪ 温泉、入ったんですかぁ?」


 俺が横を向くとそこにいたのは、会社の後輩である八月一日さちさんだった。

 湯上りらしく髪をおろし、浴衣姿。頬も赤い。口調からして、お酒の影響か?

 背が高くてスタイルも良いので……大変に色っぽい。

 四月一日よりも純粋な火力は明らかに上である。諸々、補正かかるので、最終的には何とも言えんが。

 俺は冷凍庫へ視線を戻す。


「うん。折角だしね」

「私もなんです~。あ、アイスですか?? 私も食べようかなぁ。篠原さんは何が好きなんですかぁ~?」

「あー俺は」


 シンプルなミルクバーとチョコバーを手に取る。お値段。なんと130円。安い。

 子供の頃からあるけど、飽きないのだ。

 八月一日さんは、俺に触れるくらいまで近づくと同じ物を手に取った。


「私もこれ、好きなんです♪」

「そうなんだ。それじゃ」

「え?」


 後輩さんの手からミルクバーを取り、レジへ。

 さっさと精算を済ませ、少し考えもう一本、麦茶を買う。


「ほい」

「え、ええ……その、そんなつもりじゃ、あの」

「いいからいいから。先輩の顔を立てておいてよ。あと、お酒の飲み過ぎは駄目だよ? 程々にね」

「……はい。ありがとうございます。えへへ♪」

「じゃ、おやすみ」

「あ、はい。おやすみなさいっ!」


 後輩女子が頭を下げる。

 ……胸元がですね。

 頭を掻きながら、携帯を確認。二匹の猫からメッセージあり。


『妖気!』『妖気!』

『こ、これは……あ、あざとい……』『そ、そんな……あ、あざとい……』

『……裁判だよ? 雪継』『……弁護人はいないよ? お兄ぃ』

『五月蠅いぞ。そういう裁判官にはアイスをやらん』

『……やっぱり、推定無罪、だよね☆』『! また、裏切りっ!?』


 今日も元気な猫達だ。

 ミルクバーを開け、齧る。

 甘い。けど、その甘さがいい。

 こういう時のアイスに、砂糖オフとかは不要なのだ。


『雪継~アイスまだぁ』『お兄ぃ……私にもアイスぅ』


 ほんと、ブレない猫達だっ!

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