第27話 GW一日目。特急内の持ち込み珈琲とサンドウィッチ 上

 翌日早朝。俺は朝から珈琲を淹れていた。

 既に旅行の準備は完了。後は、珈琲を魔法瓶に入れるだけ。


「……おにぃ……おはよぉ……」

「おはよう。まだ寝てていいんだぞ?」


 寝癖を付けた妹が起きてきた。結局、昨日は泊まったのだ。

 俺はテーブル上に用意しておいた朝食を指でさす。


「サンドウィッチ、作っておいたから。後で食べな。鍵は閉めて出ろよ?」

「うん…………おにぃ」

「駄目です。というか、昨日、お前も確認したろ? 宿が取れなかった。それに着替えもないし」

「うぅぅぅぅ~! …………GW中、こっちに帰って来て」

「持ち帰って検討します」

「おにぃのいじわるっ!」


 近づいて来た妹が俺の腕をぽかぽか殴る。

 魔法瓶に珈琲を入れ、カップをお湯で温め。


「ほら。起きるなら顔を洗って、歯を磨いてきな。珈琲淹れたから」

「…………ん」


 むくれながら妹が洗面台へ。

 俺は携帯で通話。鳴るも出ず。おそらく寝ておる。

 ――果たして、四月一日幸さんは待ち合わせ場所の東京駅にやって来れるのだろうか。だから、あれ程、一緒に出た方がいい、と。

 カップのお湯を捨て珈琲を淹れる。妹のはミルクと砂糖あり。俺はブラック。


「――……はっ! お兄ぃ! 私、良いこと思いついたよっ!! 四月一日泥棒猫さんより早く、向こうに着いちゃえば、問題は解決!! あの人が路頭に迷って一件落着だよっ!!!」

「……幸雪。その発想法は正しく、四月一日のそれだぞ?」

「!? ち、違うもんっ! こ、これは可愛い妹の甘えだもんっ! あの人のは、私を排除する悪意に満ちてるんだよっ!!」

「まー」


 俺は戻ってきた妹へ珈琲カップを手渡す。

 頭をぽん。


「今度は、何処か連れてってやるからさ」

「…………ほんとぅ?」

「四月一日に嘘はついても、お前に嘘はつかない」

「……それはそれで、ちょっと嫌なんだけど……」

「? どうした?? 朝から、お菓子もほしいか?」

「ちーがーうー! もうっ! お兄ぃのバカ! 着いたら定時連絡してよねっ! ねっ!!」

「ほいよ」


※※※


 東京駅は相変わらず入り組んでいた。

 それでも、色々な弁当や土産物を売っているのを見るのは楽しいものだ。

 お昼は豪華なので、あまり重いのはなぁ……。

 そんなことを思いながら、悩みに悩み、結局、某セレクトショップの普段はまず買わないお高いサンドウィッチを購入。カレーチキンと野菜。少し考え、贅沢卵も買っておく。

 それと、適当にお菓子。列車に乗るのだ。この手の物を食べずして、何を食べるというのか。ビールはあいつが買って来るだろう。朝から酒は偶にすると良いものだ。

 本当は、新幹線内で売ってる固いアイスも買いたいけれど、新幹線のホームまで行く根性はない。今度、乗る時は買わねば。

 買い物を済ませ、携帯を確認。メッセージを送っておく。


『東京駅。そっちは?』


 反応無し。既読にもならない。これはもしや、幸雪を連れて来た方が良かった流れか? まぁそうしたところ、でだが。先に行ってればいいだけだし。

 東京駅のエスカレーターを下に下に降りていく。

 ホームに到着。そんなにお客がいるとは思えなかったけれど、グリーン席を取っておいた。案の定、そこまで人はいない。

 携帯を取り出す。既読がついている。


『起きたか』

『……私、四月一日さん。今、東京駅にいるの』

『ほぉ、今、到着か。そろそろ、特急が来るが?』

『…………私、四月一日さん。お弁当を買っている暇がないの』

『そうか。列車の楽しみを一つ喪ったな。因みに、俺はこう言った筈だ。『自分ちで作って持ち込んだ方がいいんじゃないか?』。それに対して、何処かの四月一日幸さんはこう言った。『はぁぁ……篠原雪継君は、旅の素人だよねー。ねー』と』

『………………いじめないでよぉぉぉ。起こしに来てくれれば良かったのに』

『お前の家の鍵はない』

『あれ? そうだっけ?? 旅行帰りに作る???』

『いらん』

『またまた~。美人で可愛い四月一日さんの合鍵だよ? ほらほら~欲しいでしょ? でしょ?』

『特急来た』

『! 急ぐ』


 ホームに銚子行きの特急しおさいが滑り込んできた。

 ……ギリギリ間に合うか。

 この分だとビールを買う暇はなさそうだ。特急内で移動販売あるかな?

 肩を叩かれ、振り向くと――頬に細い指。


「ふふふ~。引っかかったぁ~。おはよ、雪継」

「…………おはよう」


 後ろに立っていたのは四月一日幸だった。薄化粧。

 服装はめかしこんでおらずラフな格好にスニーカー。こういう時は歩きやすい恰好が一番だ。ただし、何故か眼鏡

 俺は指摘。


「……コンタクトをする時間もなかった、と」

「ち、ちがいますぅ~。偶に眼鏡をかける女の子って可愛いと思いませんか? 篠原雪継君?」

「あざといと思う」

「む~。あ、取り合えず乗ろっか」

「だなー」


 特急に乗りこみ、席を確認。俺達しかいないって。

 四月一日が笑顔。


「独占だねー。あ、雪継、窓側でいい? 私、お化粧しに行くし」

「別にそのままでもいいんじゃないか? そのままでも十分――……さて、朝飯を食べよう」

「ん~? んん~?? んんん~??? 篠原雪継君~今、何て言いかけたのかなぁ??」


 うぜぇ。

 窓側の席に座り、サンドウィッチを取り出し、卵の方を四月一日に手渡す。

 通路側に座った大エース様は一瞬きょとん。その直後、狼狽。


「え?」

「買っといた。弁当、買えなかったんだろ? ま、経験の勝利だな」

「…………あ、ありがと……えへ。あ、でも、ビールは持ってきたよっ! プレミアム!! 褒めて褒めて」

「偉い偉い」

「こころがこもってな~い!」


 携帯が鳴動。確認すると幸雪からだ。

『お兄ぃ! 今、何か泥棒猫さんが凄くニヤニヤしてる気配を感じたんだけどっ! どっ!! 甘やかし過ぎちゃ駄目だよっ!!!』

 あの妹は何処へ向かっているのか。

 特急が動き出した。

 東京から銚子まで約二時間の小旅行だ。

 俺は魔法瓶を取り出し、早くも俺が買ってきたスナック菓子を検分している四月一日へ聞いた。


「温かい珈琲、飲むか?」

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