【2-6f】自由の月と君のコトバ

 鈴虫の鳴く声が聞こえる。


 湿った土が匂い、ジャリと小石が擦れる音がするこの場所で迅は目をゆっくり開いた。


 空は夜。満月が登りこの地を照らしていた。


 見違うまでもなく、琳音神社の境内の中だった。ここから、あの世界の生活が始まったと思いを馳せる。


 そして、幾多の戦いを経てここへ帰ってきた。


 手に霊晶剣はない。袖を捲くってみると剣印も残っていなかった。あの転移でネイティブたちの魂を全て使い切ったのだ。


 すると、思い出したかのようにハッとする。


「先輩……? 先輩!!」


 周りを見回してひかるの姿を探す。しかし、呼びかけてもここにひかるはいないらしい。


「そんな……! まさか転送が……!?」




「ギャーー!!!! 照木くん!! 一年経ってるよ! 一年!」




 隣の社務所のドアからひかるが慌てて出てきた。新聞紙を迅に見せつけている。


 10秒の沈黙の後、迅は肩を落として安堵のため息を吐く。


「ビビらせないでくださいよ……! また離れ離れかと……!」


「ん? 照木くんのブレザーの裾掴んでたから大丈夫でしょ? てか、照木くんヤバいよ! ウチら留年決定だって!」


「……。そうですね……。でも分かりませんよ。政府が転移の被害者に何か措置をしてくれるかも……」


「はぁ……。もうそれに賭けるしかないねー。あ、イリーナたちは大丈夫かな?」


「きっと大丈夫ですよ。メアド交換しましたから後で確認してみましょう。それに、アイツと約束しましたから」


「ん? アイツって……?」


「それは秘密です」


「はっ!!」


「こ、今度は何ですか……?」


「そーだ! いや、ソーダじゃなくてコーラだよ、照木くん! 帰ったら決めてたんだ! 即行でコーラ飲むって!」


「わかりましたから! コンビニ行きましょうね、コンビニ!」


「おう、分かってるぅ! よっしゃーー!!」


 境内から走り去るひかる。その背中に呼びかけた。


「あの……!!」


「なーにぃ!? 早くコンビニコンビニ!!」


「その前に、先輩に……、言いたいことがあって……」


 バタバタと落ち着かずに足踏みするひかるに、迅は上手く視線を合わせられなかった。そんな迅を見て、1つため息をついて落ち着いた。


「しょーがないなー。何かな? 照木くん」


 ひかるがまっすぐ微笑みかける。満月が照らす静かな夜の中、迅は深呼吸をして言葉を紡いだ。




「俺は……、ずっと先輩のことが……!」








Sword Antinomie END

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ソード・アンチノミー Penドラゴン(案乃雲) @announ_unknown

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