鈴音は電車から降りて三つ葉の元へ向かった。

 三つ葉は自分に近づいてくる鈴音に気がついて、そっと鈴音のほうに目を向けた。

 三つ葉は鈴音の顔を見てもとくに驚いた様子はなかった。

 その代わり、鈴音を見ている三つ葉は泣いていた。

 とても珍しい三つ葉の涙。

 その涙を見て、鈴音の胸はぎゅっと、なにかに心臓をつかまれたように痛くなった。

 鈴音は三つ葉の隣の席に腰を下ろした。ホームにはまだたくさんの人の姿があったけど、その席はまるで二人のために用意されていたかのように、ぽっかりと空いていた。

 暗い空からはまだ強い雨が降り続いていた。

 それからしばらくの間、鈴音は雨の降る空を、三つ葉は、さっきまで見ていた雨の降る空ではなく、ホームの上のコンクリートの地面を見つめながらお互いに無言のままだった。

 鈴音は三つ葉に声をかけることがなかなかできなかった。なぜなら鈴音には『三つ葉に対して感じる負い目』のようなものがあったからだ。

 鈴音は、『心の深いところで、三つ葉のことを裏切ってしまった。鈴音は三つ葉の心をとても深く、深く傷つけてしまった。そのせいで、三つ葉は鈴音からとても遠いところに、一人で、飛び去っていってしまったのだ』。

 そのことが、罪人である、鈴音には誰よりも強く、理解することができていた。

「雨、やまないね」

 小さな声で三つ葉が言った。

「うん」

 鈴音が言う。

 確かに三つ葉の言う通り、雨の降り止む気配は、今のところ、どこにもなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

真心 雨世界 @amesekai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ