第6話 試験を受けよう

「そんなに厳しいのか?」


「ああ。戦士や魔法使いならわかるが、テイマーは正直厳しい。なんせ魔法を取得すらしてないからな」


ん?俺は魔法を扱えるが……?


「俺は魔法を扱えるぞ?」


「使えるのか?それならテイマーじゃなくて魔法使いになるが……」


「賢者という職業があるんだ」


ズールは首を傾げ「賢者?知らない職業だな」と言った。

どうやらこの世界では賢者という職業は存在してるか分からないらしい。

この状態の時、魔法が扱えるテイマーという感じか。


恐らくこの世界ではぶっ壊れビルドって奴だな。

俺も前世では狂ったような職業ビルドでボスを狩りに行った事もあった。

周りのプレイヤーからはぶっ壊れと言われたりと散々だ。


だが、このぶっ壊れのおかげで俺が無課金勢だとバレずに済んだがな。


「後、倒した魔物とか素材を売るにはどうしたらいい?」


「それなら、冒険者ギルドに行けばいいぜ」


「そうか、ありがとう」


礼を言った後、ズールは俺に「登録するには試験に受かる必要があるが、受かる事を祈ってるぞ」と声をかけてくれた。


なんやかんやでズールは見た目に寄らず良い人だな。


「良い人だったね。にぃに」


「そうだな」


俺達は門をくぐり、街の中に入る。割と大きくない街だが、それなりに賑わいが見える。物を売る商人、通り抜ける亜人の子供達。


この街を守る兵や街の冒険者の存在は結構大きいようだ。


歩いて数分、建物の上に「冒険者ギルド」と書いてある看板を見つける。ここが冒険者ギルドだろう。


扉を開け、中に入る。

即急に受付に行き、手続きをする。


「では、お二人の職業は?」


「俺はテイマーと賢者だ」


「アタシは武闘家グラップラーだよ」


「け……賢者?」


受付の女性は俺のもう一つの職業に違和感があるようだ。

そんなに知らされてないものだったのか?この職業。


「ま…まぁ良いでしょう。試験は明日からですが、良いですか?」


明日?随分と速いな。レベリングの時間を与えない気か?徹底してるな。


「それとレンジ様。もしかしてその子、人竜族ですか?」


「そうだが、それがどうかしたのか?」


その会話を聞いた周りの冒険者達が騒めき始める。


「あ…あのですね。人竜族の子供を手懐けるテイマーは数少ない存在なんですよ?つまり、あなたはテイマーとしての素質があると同時に類稀の天才って意味です」


色々と聞いたところ、どうやらティアの種族を手懐けられるテイマーは100年に3人しかいないというものらしい。


登録するには試験を受ける必要がある。それはズールの言う通りだな。ただ、費用に15万アピアという大金が必要らしい。無論、そんな金はない。


「なぁ?登録されなくても倒した魔物の素材は売れるのか?」


「え?はい。売れますよ?」


俺はストレージからバスターウルフの死骸を全部取り出す。


「これは!」


「バスターウルフ!?しかも5体だと!?」


「どの辺が売れるのか分からないから、遺体事持ってきたんだが……大丈夫だよな?」


受付の女性は専門家を呼び、素材を引き取る。

話によると体の状態も綺麗なため、高く買い取ってもらえるらしい。値段は何と


「25万アピアです」


初手から金持ちになってしまった。まぁ15万払って、試験には参加するつもりだ。


「では集合場所はこちらになります」


受付の女性が一枚の紙を渡す。渡された紙を見て確認する。

集合地点はギルドで管理している森のようだ。ここからそう遠くはない。


「わかった」


「では、また明日」





それから数時間、俺達は装備を買いに行って、準備を整える。

要は怪しまれなければいい。それだけのことだ。


そして宿屋に行き、宿をとる。

早速部屋に行くと二人分のベッドが用意されていた。


俺は椅子に座り、部屋全体を見渡す。

それとは逆にティアは騒いでいた。


「わーい!ふかふかのベッドだー!」


ベッドにダイブし、ベッドの上で飛び跳ねる。

初めてホテルに泊まりに来た子供のようにはしゃぐ光景は可愛いものだな。


「一度こういうベッドに寝てみたかったんだー」


何がともあれ、喜んでいる。


そう言えばティアは自分がグレイトドラゴンに進化してる事に気づいてるんだろうか?念のために聞いてみるか。


「え?アタシ進化してるの?ぜーんぜん気づかなかった」


気付いてない?まさか山賊を倒す時に常に身についていたと感じてるのだろうか?

【魔力進化】ってヤバいな。仲間モンスターを無意識に進化させる性能を持っていたのは意外だ。


いや、過信しすぎか。こういう能力には必ずしも落とし穴が存在するもんだ。けど進化できるなら退化もできるのか?


ちらりとティアを見つめる。知らないうちに寝てしまってるが、もう夜だ。よい子は寝る時間だからな、無理もない。


「じゃあ、俺も寝よう」


釣られるように俺も寝る。明日は冒険者になるための試験があるんだ。寝坊はできない。




翌日、俺はティアに起こされる。早起きの体質なのだろうか?

いつも通り、食事を与える。


そして愛情度を確認すると。


ティア・キリシマ

LV5

愛情度:150


いきなり50も上がってるんだが、えーと、確か愛情度は高ければ高いほどすごいバフが付与されるとかか?150になっても変化がない。200になってから発生するのだろうか?


取りあえず、準備を済ませて試験会場に行かねば……。


俺達は装備や物資を確認した後、試験会場へと足を進めた。

正直、テイマーだと難しいと聞いたが、やるだけはやってみるか。





数分後、ギルドが管理している森に俺達は集合していた。


「全員集まったな?私は試験管のブリッグだ。今回集まってもらったのはお前ら全員に冒険者になる資格があるかの試験だ。落ちれば再入試は1年後になる。心してかかれよ」


まるで高校か大学の受験みたいな日数だな。だが落ちても1年後とは優しい。


「ではまずは魔法戦だ。杖を持ってる魔法使いは前に出ろ」


次々と杖を持った人が前に出てくる。そして魔法を詠唱しては岩に魔法をぶつけている。杖は持ってないが、魔法は十分使えるし、問題はないが…。


「レンジ、次はお前だぞ」


俺が前に出ようとするとブリッグが話しかける。


「魔法が使えるとは聞いていたが、杖無しで大丈夫か?」


「ああ、普通に使えるからな」


先ずは魔法を無詠唱で撃ってみるか。

魔法リストを確認し最弱の魔法を選ぶ。魔法の属性は炎属性にしておくか。


(【火炎弾フレイムバレッド】)


一直線に飛ぶ炎の弾が岩に直撃し、岩肌をごりっと削る。

今の攻撃を見た周りの人は「え…」という表情になった。

何か不味かっただろうか?


「レンジお前…今無詠唱で魔法を撃ったか?」


「そうだが?」


先に話しかけたブリッグは「そうか」と言って、気まずい顔になる。


「何か悪かったか?」


「いや、何も悪くない。むしろどうやって無詠唱でそんなに魔法の威力が強くなるんだ?」


成程、詠唱と無詠唱の違いは戦記系のファンタジー小説であったな。

詠唱は時間が少しロスする代わりに威力が上がって、逆に無詠唱は名の通り詠唱時間を短縮して魔法が撃てる代わりに、威力が低くなる設定だったな。


だが、さっきの言葉だとどうやら俺の魔法は無詠唱でもそれなりに強力だそうだ。


「すごーい!にぃにの魔法強い!!」


妹のティアが興奮してるがな。

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