第19話 交流

 「どうしてあの子は私と話をしてくれないんだろう?」

そう話す私の声を、みんなは熱心に聞いてくれた。今日はママ友とのおしゃべりお茶会だ。みんな子供が不登校のママさんたちだった。

 「そんなものよ。思春期の男の子って難しいわよね」

 「あら、女の子も大変よ」

談笑しながら美味しい紅茶を飲む。2回目ともなると、少し気心も知れてくる。

 「子どもとの関係が変わった瞬間ってあったよね」

とリーダー格の明美さんが話をしてくれた。

「学校に行かせなきゃって思ってたうちは、子供との関係ってすごく悪かったよね。なんとかしなきゃ!この子、このままじゃダメだって。でもね、どこかで諦めるって言ったらおかしいけどさ、そのままを受け入れちゃう瞬間ってのがあったのよ。この子にとって、学校に行くことってそんなに大事じゃないのかもなって。

 この子の学校に行かない選択を認めるって感じかな」

「学校に行かない選択?」

明美さんは大きくうなづいた。

「そう。行けないんじゃなくて、行かないんだって。この子はそれを選んでるんだって思ったら、毎朝子供とバトルすることがバカバカしくなっちゃってさ」

「あ~、わかる。それってあるよね。なんであんなに学校に行かせなきゃって思ってたんだろう?ってね。あのころは、うちも毎朝バトルだったよ」

「うん、あるある。あきらめるって言うとすごく聞こえが悪いんだけど。受け入れるって言うの?仕方ないじゃんって感じでさ」

そう言って、向かいに座ったママが笑った。その雰囲気がとっても軽い感じで、私を驚かせた。みんな私のように深刻な感じがないのだ。

 「結局、私たちにできることなんて少ないの。この子の人生はこの子のものだしさ。こっちが必死になってもね?そんなの子供は望んでないもん」

「みんな、そんな簡単に学校に行かないことを認められたんですか?」

そう尋ねた私に、みんなは一斉に頭を振った。

 「ムリムリ…」

と言って笑う。

 「できるわけないじゃん。学校からも電話がかかってくるし、じいちゃんばあちゃんもうるさいし。近所とかママ友とかの目も気になるじゃん?」

 それは私にもよくわかる。それを気にした結果、私は翔也を実家に連れて行くことも少なくなったし、ママ友たちとも会わぬように心がけてきたのだ。

 「私の場合は、こういう集まりに来てさ、子供が学校に行ってないのに明るいお母さんがいたわけ。で、話をしたらさ、なんかあっけらかんとしてるのよ」

「そうそう。そういう人に会うと、最初はこの人おかしい!とか思うんだけどね。まあ、それもありかな…って思うようになってね」

「わかる!わかるわ~。それもありかな、って思えた瞬間に道が開ける感じだよね」

みんな楽しそうに笑っていた。私もこんなふうに笑って子供の話がしてみたい。結局、変わるのは私の方なのかもしれない。

 「子どものことを丸ごと受け入れるって、やっぱ簡単じゃないよ」

と明美さんが言う。私もその通りだと思う。少しずつ少しずつ、私もあの子も変わっていけばいい。

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