肉体言語による推敲と官能小説

 こうして神野さんのレビューが終わると、それを参考に僕が書き直して、再び神野さんに見せる。

 その繰り返しで、一応の合格点をもらえれば、次の話のレビューが始まるのである。


 いっそ、この小説を全部削除して、さらにアカウントも消して、知らぬ存ぜぬを貫き通そうとも考えた。


 だけど神野さんがレビューをするときは、美しい顔と唇と制服に包まれたお○ぱいを公然と眺めることができ、何より僕が推敲しているときは、横に座ってくれちゃったりもしてくれるのである。


 彼女から漂う甘い女性の香り。

 一本一本が黒曜石のような長い黒髪。

 柔らかく艶やかな唇。


 そして制服の下から想像するお○ぱいが、健康な男子のスケベ心を刺激して、今日も真ん中の脚、いやいや、両脚が、僕を資料室へと向かわせるのである。


 さらにレビュー中は

「ここの行に胸が揺れる描写を入れたらどうかしら?」

「えっ!? どこ?」

「ほら、ここの行よ」


 レビュー中、神野さんは立ち上がると覆い被さるように身を乗り出して、ノートパソコンの画面を指さした。


 至近距離には、ブラや制服に包まれながらも、熟れた果実のように垂れ下がるお○ぱいが揺れていた。


(”胸が揺れる”って、こういうことなのか……)


 文字通り神野さんは体を張って推敲してくれるのであった。


 さらにさらに。

「この部屋って西日が入るから、窓を開けても熱がこもるのよ。ちょっと失礼するわね」


 目の前に僕がいても構わず、カッターシャツのボタンを外した。

 どんな香水よりもオスを魅了する香りが胸の谷間からあふれ出し、僕の魂を劣情に染める。

 

 さらにさらにさらに。

「ミカンってヘソ出しルックを着るときもあるけど、私には無理かなぁ……。最近ウエスト周りが赤信号なのよねぇ……」 


 目線を下に落とせば、抱きしめたら折れそうなくびれた腰。


 さらにさらにさらにさらに。

「解凍MAGURO先生の創作意欲のために、部活中は制服のスカートを折ってみたの。ミカンのスカートもこれぐらいかしらね? どうかしら?」


 短くなったプリーツスカートから伸びる白い太ももは、レビューで傷ついた僕の魂を癒してくれた。


 さらにさらにさらにさらにさらに。

「お望みなら資料としてストッキングやニーハイを履いてきてもいいわよ❤ ミカンに着せればフェチな読者を呼び込むことができるからね」


(断る理由はあるのだろうか? いや、断固としてなぁい!)


「お、お願いします」

「うん! 楽しみにしてね❤」


 サキュバスと化した神野さんは、健康な男子高校生のスケベ心を弄んでいたのであった。


 さらにさらにさらにさらにさらにさらに。

「普段は下着の上にアンダー履いているけど、部活中は脱いでいるから、運がよければミカンみたいにパンチラが拝めるかもね❤」


 出でよ嵐! 暴れろ台風!!


 こうして僕は放課後、前を歩く神野さんの揺れるお尻と、生とストッキングとニーハイに包まれた白い太ももを日替わりで眺め、窓から突風が吹いてくれることを願いながら資料室へと向かったのである。


 まさに、むちろう……いいえ、飴です。


 だけど、言われっぱなしじゃ男がすたる。

 物書きの最底辺でも、プライドはあるんだ。

 レビュワーである神野さんを、なんとか”ぎゃふん”と言わせたい! ……なぁ。


 ― ある日 ―


「あ、あの、神野さん」

「なにかしら?」


「新しい小説を書いてみたいんだ。だからその間はレビューは一時中止で……いいかな?」

「あら、それは楽しみね。期待しているわ」


「あともう一つお願いが」

「どうぞ」


「新作のヒロインも、神野さんをモデルにしたいんだ。だから、部活以外でも君をチラチラ見るかもしれないけど……ダメかな?」


「かまわないわ。素敵にえがいてね。解凍MAGURO先生❤」


 よし! 言質げんちを取ったぞ!


 水を得た魚のように、僕の指はキーボード上でタップダンスを踊る。


「そういえば神野さんは、苦手なジャンルはあるの?」

「レビュワーたるもの、どんなジャンルでも拝読させていただくわ」


 パッパカパ~ン!

 石黒真は、『言質その二』を手に入れた。


 ― 数日後 ―


 資料室に入った僕は、さっそく神野さんにスティックメモリーを差し出した。


「これは?」

「新作だよ」

「てっきりカクヨムにアップするのかと思ってたけど」

「君をモデルにしたから、君にだけ読んでもらいたいんだ。ぜひレビューをお願いします」

「うれしいこと言ってくれるわね。喜んで拝読させていただきます。解凍MAGURO先生」


 彼女はノートパソコンに僕のメモリーを挿し……待てよこれって


『僕の“スティック”が、彼女の中に挿入……』


 いやいや、落ち着け真。まだ“余韻”が残っているのか?


 そう! 僕が書いたジャンルはズバリ!


『官能小説』だぁ!


 あらすじはこうだ。

 何人も寄せ付けない、クールビューティーな学校のアイドル、『上野蜜柑うえのみかん』。

 そんな彼女は放課後、文芸部の活動場所である資料室へと向かう。


「待ってたよ蜜柑。今日も素敵だね」


 そこ! ”コイツ誰だ?”と言わない! 


「ああ~ん。真琴まことくぅ~ん。蜜柑寂しかったぁ~」


 彼女が甘えながら抱きつく主人公のモデルは、当然この僕。

 イケメン度1000%さ!


 えっ? さえない主人公にしろって言われたばかりなのに?


 いいじゃないか! 作者は僕で、主人公は僕だ! 

 僕と神野さんしか読まない小説で、なにを気兼ねする必要があるんだぁ!


 そこからはお決まりの展開。

 様々な格好での“赤ちゃんの作り方”を、ラブラブイチャイチャしながら、この資料室で行う、ありきたりな内容。


 さすがにダイレクトな表現は神野さんに悪いから、一般名詞や比喩を多用したけど、むしろそれがレビュワーの想像力をかき立てる、ナイスな作戦!


 くぅ~くっくっくぅ~! ”チェリー”の妄想力をなめるなよ!


 さらに! これを神野さんがレビューや推敲するのなら、蜜柑が発する喘ぎ声にも言及しなくてはならない!


 もしスルーしたのなら、僕は悪魔となって神野さんに問いただしてやる!

 そうすれば神野さんの口からエッチな喘ぎ声が紡ぎ出されるであろう!


 さらにさらに! 僕のスマホは今録音状態だぁ!

 神野さんの喘ぎ声を録音して、今際の際のラストカードにしてやる!


 あ、その前に試聴するのも忘れずにね!


「解凍MAGURO先生」

「は、はい! なんでしょうでございますか!?」


「先生の秀作をアレンジしてみたいんですけど、よろしいでしょうか?」

「え、書き直すってこと?」

「ん~二次創作みたいなモノね」

「あ、うん、別にかまわないよ」

「ありがとうございます」


 華麗にキーボードを叩く姿に、思わず見とれてしまう。

 そういえば、神野さんも小説を書いているのかな? 聞いたことなかったなぁ。


「解凍MAGURO先生、ちょっと時間がかかりそうですから、ご自身の執筆をなさってもかまいません」

「あ、はい……」


 やばいな。なんか怒らせちゃったかな……。

 愛想尽かされるどころか、下手したら退部になるかも……。


 ……でもしょうがないか。

 神野さんと話せなくなるのは、ちょっと、いやかなり残念だけど……。


 夕日が資料室をオレンジ色に染める頃。


”ターーーン!”


「お待たせしました解凍MAGURO先生。拙作ですがぜひお読みになって下さい」

 彼女は両手でスティックを差し出した。


「あ、はい、拝読させていただきます」


 早速ファイルを読み込むと、まず最初に僕の名前と神野さんの名前に目が止まった。


 え? 実名?


 なになに……

 石黒真に小説の指導をする神野美香。

 やがて、溜まりに溜まった劣情を爆発させた真は……美香を……押し倒すぅ~~!?


 抵抗する美香であったが、しょせん女の力。

 猛獣と化した真の手によってタマネギの皮をむくように制服が、下着が剥ぎ取られてしまう。


 目に涙を溜め嘆願する美香にかまわず、真は己の劣情を具現化したモノで美香を貫いた!


 しかし美香は劣情を受け入れた瞬間、快楽に溺れ、やがて自ら要求しはじめる。


 喘ぎながら……。

 僕の名前を何回も叫びながら……。


 二つの膨らみが誠の爪によって形を変えることを……。


 二つの突起が唇によって吸われ、前歯で噛まれることを……。


 体内を貫くようなオスの猛々しさを……。

 胎内をむさぼるような荒々しい動きを……。

 

 やがて美香は恍惚の表情で、真のすべてを受け入れたのであった。


 放たれる真の分身、すべてを……。

 何度も……何回も……。


 これでもかなぁ~り押さえた表現だ。

 実際の文章は、保健体育の教科書に出てくるダイレクトな名詞やエッチな漫画で使われる俗語のオンパレード!


 さらに比喩なんかほとんどない。ありのままの情景が描かれてあった。


 しかもこれすべて、神野さんの目線。


『私を”よろこばせるには、この通りにすればいいのよ』

とささやく、淫魔サキュバスの調べ。


「”処女の妄想力”でも、これぐらいは書けるわよ。解凍MAGURO先生」


 ゆっくりと顔をあげると、艶やかで上気した笑顔があった。


「ですが解凍MAGURO先生の秀作、とても楽しませてもらったわ。そうだ! 原稿料をあげないとね❤」

「げ、原稿料?」


 彼女は立ち上がると僕の横へ、そして、スカートの中に手を入れた。


 ええ!?


 美しい太ももをなめるように滑り落ちる、黒の下着。

 それは、作中にでてきた下着の色と全く同じであった。


 それをたたんで僕の手のひらにあてがうと、両手で大切に包み込んだ。

 彼女のほのかなぬくもりと熱い湿りが、僕の全身を支配する。


「たった一人に読んで欲しいのなら、実名を使うべきよ。例えるならそうねぇ……

『ラブレター』

のように、ね!❤」


 彼女に似つかわしくない茶目っ気なウインクによって、僕は盗まれてしまった。


『麗盗、神野美香』に。


 僕の心を、すべてを……。


「次回作も楽しみにしていますわ。”石黒真”せ・ん・せ・い! もちろん”原稿料”も期待してもいいわよ」


 そう言いながら彼女はゆっくりと、なまめかしく、両手でつまんだスカートをたくし上げたのだった……。

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高校のアイドルは毒舌レビュワー ~僕の官能小説をレビューできるもんなら、やってみろ!~【改訂版】 宇枝一夫 @kazuoueda

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