第15話頂上決戦?
翌朝。登校中に、みかさんの後ろ姿を見つけた。
声をかけようかと思ったけど、二人でいるとまた変な噂になりそうな気がして躊躇ってしまう。
そうこうしているうちに校門へ到着。
私はその間、ずっとみかさんの背中に手を伸ばしたり、引っ込めたりを繰り返していた。
あぅ、話しかけたい・・・けど噂になって困るのはみかさんだし、どうしよう。
「くすくすくす」
「ふふふ、何をしてらっしゃるのかしら」
道行く生徒が私を見て笑う。
うっ、私、よっぽど変な動きしてたかな?
「なに?やな感じね。人のことを見て、笑うなんて」
前を歩くみかさんは自分が笑われたと勘違いしたらしい。
あうっ、私のせいなんです、ごめんなさい。私がもたもたしてるからだ。さっさと声をかけよう。
「ご、ごきげんようみかさん。後ろです」
「えっ?きゃあっ!な、なによいきなり!?もしかしてあなた、ずっとつけてたの!?」
「え、ええ。何度か声をかけようかと思ったんだけど、私が一緒じゃ目立つかなって思って・・・」
「バ、バカね。だからって後ろでこそこそしてたら、それこそ目立つじゃない。私達は何も悪いことしてないんだから、噂なんて気にせず堂々としてればいいのよ。ほら、こっちにきて一緒に登校しましょう」
「みかさん・・・そ、そうですよね。一緒に行きましょう!」
「ちょっ!今度は近すぎよ!あなたはどうしてそう極端なのよ!?」
「す、すみません。つい嬉しくて・・・」
私とみかさんが話していると、そこへ美鈴さまと麗華さまが通りかかる。
「あはははは!朝からコントが見れるなんて、今日はついてるわねぇ」
「ええ、学園が明るくなって助かるわ。やっぱり桜陵に新しい風をもたらしてくれるのは、あなた達ね」
「うっ、美鈴さまに麗華さま」
「お二人とも、今のやり取り見てたんですか!?」
「ええ、そりゃあもちろん」
「たっぷりと堪能させてもらったわ。あなた達、コメディがうまいのね」
「コ、コメディ・・・」
「あぅ・・・い、行きましょうみかさん!」
麗華さま達にまで笑われ、私達は逃げるように小走りになった。
「あ、待ちなさい雅子。あなた、髪に糸くずがついてるわよ?」
「え?」
「もう、だらしないわね。糸くずといい、さっきのコメディといい・・・。あなたは私が選んだ会長候補なんだから、もっとしっかりしてくれなきゃ困るわ」
「す、すみません。わざとじゃないんですけど・・・」
そう言いながら私の髪に手を伸ばす麗華さまを見て、みかさんが慌てて声をあげた。
「雅子!髪、髪の毛!」
「え・・・あっ!」
「な、なに?どうしたの?」
私は慌てて麗華さまから離れる。
「い、いえ、何でもないです!糸くずでしたら自分でとれますから!」
「何を遠慮してるのよ。私とあなたの中じゃない。とってあげるからおとなしくしてなさい」
「ち、違います!そういう意味じゃなくて!」
感のいい人なら、少し触っただけでもウィッグだってばれるかもしれない。
まずい、麗華さまの手が迫ってくる。
バレる前に手を打たなくちゃ!
「み、みかさん!」
「わかってる、まかせて!」
「えーー」
私が声をかけた時にはもう、行動は終わっていた。
麗華さまから掠め取るようにして、みかさんが糸くずをとってくれたのだ。
た、助かった。さすがみかさん、行動が早い。
「ちょ、ちょっとみか。今のはどういうこと?私が先に取ろうとしていたのに?」
「え?す、すみません。気づかなかったから、私がとってしまいました」
「嘘おっしゃい!今のは、明らかに横取りだったわ」
「れ、麗華さま、みかさんには私がーー」
「雅子は黙ってなさい!」
「ひいっ!」
麗華さまが怒鳴ると、隣にいた美鈴さまが。
「プッ、ククク・・・」
必死に笑いをこらえていた。
「みか、あなた私に雅子を触れさせたくないの?いくら友達とはいえ、独占欲が強すぎるんじゃない?」
「ど、独占欲だなんて、そんなこと・・・」
「言い訳はやめなさい。あなた寮もクラスも一緒で、私より有利な立場にいるのに卑怯だと思わないの。そこまでして勝ちたいの?」
「なっ、たかが糸くずじゃないですか!これが勝負に影響するとは思えません。麗華さまの方こそ焦ってるんじゃないですか?自分が雅子に選んでもらえないからって、私にあたるのはやめてください」
「なっ!た、大した自信ね。今ここで決着をつけてもいいのよ?」
「望むところです。絶対に負けません!」
すると、周りの生徒が騒ぎ始めた。
「え・・・なに?ついに始まるの!?」
「雅子さまをかけた頂上決戦、ここで決着がつくのね!」
まずい・・・。私は慌てて止めに入る。
「ちょ、ちょっと二人とも!こんな場所でやめてください!また騒ぎになって学園長先生に怒られちゃいますよ!?もう、たまには私の意見も聞いてくださいよ!」
ダメだ。熱くなって私の話なんか耳に入ってない。
どうしよう。このままじゃ教室の二の舞だよ。
それだけは避けなくちゃ!
「いやぁ〜、今日は朝からほんと凄いわ。手に汗握る展開だねぇ」
「美鈴さま!茶化してないで一緒に止めてください。今度は注意じゃすまないですよ!?」
「いや、そんなこと言われても無理でしょ?相手は生徒会長さまだし、私も巻き込まれたくないしね。それに、このまま見てるほうが面白いじゃない。いや、みかちゃんはほんといい度胸してるわ」
「も、もういいです!私一人でも止めます!」
美鈴さまは役に立たない。
こうなったら私が力づくでも止めてやる!
力なら私が負けるはずないんだ。
よし、いくぞ!
「ごきげんよう雅子さん。何をなさってるんですか?」
「うわあああ!れ、麗子さん!?」
突然目の前に麗子さんが現れた。
「あら?何かあったんですか?顔色が悪くて・・・汗もたくさんかいてますよ?」
「ご、ごめんなさい。今取り込んでるから、お話はまた今度にーー」
「ダメです。もしまた体調を崩されてるようでしたら、大変です。さあ、保健室へ行きましょう。私がご一緒しますから」
「えっ?ちょっと待って!そんなに引っ張ったら服がーー」
そして、私は麗子さんに強引に連れて行かれた。
「えっ・・・」
「なっ!」
それを見た二人は固まっていた。
「あはははは!まさに漁夫の利。意外な乱入者の完勝だね。そういうわけだからみんな、今日は解散解散。授業遅れないようにね」
「はーい、ごきげんよう美鈴さま」
「ごきげんよう、楽しかったですわ」
そして集まっていた生徒たちが去っていく。
「れ、麗華さま・・・私達って一体・・・」
「言わないで、みか。こんな場所で騒いだ私達が悪かったのよ・・・私としたことが、情けないわ。はあ・・・」
慌ただしい朝の喧騒を終えてお昼休み。
私は今日も水純とおしゃべりの練習をするために、中庭へ向かった。
今日はどんな練習をしようかな?
昨日は行きあたりばったりで失敗したから、今度はもっと考えて練習しないとね。
向かう途中で水純を見かけた。
これから中庭に向かうのかな?だったら私と一緒に・・・
「それがですね、実物を見たらすごく可愛かったんです!」
・・・え?
「本当ですか?それは良かったですね、加奈子さん」
水純が知らない子とおしゃべりしていた。
あ・・・あれ?水純って、お友達いないんじゃ・・・
「今度写真持ってきますね。本当に可愛いですか、きっと水純さんも気に入ると思いますよ」
「そうですか。楽しみにしてます」
わ、わわっ!こっちに来る、隠れなきゃ!
「すみません加奈子さん。私は用事があるので、ここで」
「そ、そうですか、まだご一緒したかったんですけど、それではまた午後に・・・」
・・・・・。
わ、私、どうして隠れたんだろう?
今の子はどうみても水純のお友達だった。
多分水純が頑張って、お友達を作ったんだ。
良かったじゃない。お友達ができて。
出て行って祝福してあげれば良かったのに・・・なのに・・・
中庭に着くと、水純がいつものように私を待っていた。
近くまで行ってみるものの、なかなか声をかけられず、それどころか木陰に隠れてしまう。
私、何やってるんだろう?
水純にお友達ができて、喜ばなくちゃいけないはずなのに、こんなとこに隠れるなんて。
「寂しい・・・のかな」
水純にお友達ができるのなんて、ずっと後のことだと思ってた。
だからまだしばらく私と水純の関係は続くと思っていたのに、それが今日で終わりになってしまう。
それが寂しいから、こうして隠れてるのかな。
私の他にお友達ができたら、お昼の練習が終わって、私は水純に必要とされなくなるから、だから・・・
「・・・さこさま」
水純の小さく呟く声が聞こえた。
「え?」
「雅子さま。今日も良い天気ですね・・・」
「!?」
一瞬、心臓が飛び出しそうになる。
隠れてるのに気づかれた?
けど、すぐに勘違いだと気づいた。
だって水純は、下を向いたまま床に向かって・・・おしゃべりの練習をしていたから。
「最初はお天気の話、次は授業のお話・・・これなら私でも上手く話せるかな?でも、こんなつまらない話題ばかりじゃ、雅子さまに嫌われるかも・・・」
「水純・・・」
もしかして一人でおしゃべりの練習をしてたの?
私を退屈させないように、おしゃべりの練習の前に、さらにその練習をしてたなんて・・・
「・・・バカだな、私」
水純はこうして私を慕ってくれてるのに、何を怯えてるんだろう。
そもそも私から水純にお友達ができるよう、お手伝いを申し出たくせに、その成果を嫉妬してどうするんだ。
ちょっと寂しいけど・・・私も喜ばなきゃ。水純に初めてできた、ちゃんとしたお友達なんだから。
よし、行こう。
「ごめんなさい、遅れちゃった」
「あ、雅子さま!?あのっ、今日はいい天気で授業も晴れて・・・あっ!」
「ふふふ。ええ、今日は絶好のお弁当日和ね。待たせてごめんなさい。お腹空いてるでしょ?まずはお昼にしましょう。私お腹ぺこぺこ」
「は、はい!」
私達は向かい合って座ると、お弁当を広げた。
あえて時間をかけながら、ゆっくりお昼を過ごした。
会話はなかったけど、一緒にいるだけで楽しくて、とっても充実した時間だった。
最後にここで水純と過ごす時間としては、最高のシチュエーションだ。
「あ、あの、雅子さま。そろそろ練習を始めないと・・・」
「もういいのよ・・・隠さなくていいわ、水純。お友達ができたんでしょう?」
「え?」
「さっき廊下で見たの。加奈子ちゃんって言ったかな?すごく素直そうでいい子じゃない。素敵なお友達ができて良かったじゃない。ちょっと寂しいけど、これでおしゃべりの勉強も終わりかな」
「え・・・え?」
「これからはもっとたくさんお友達が増やせるように、その子と一緒に頑張ってね。私も陰ながら応援してるから、大丈夫。水純ならできるよ!」
「あ、あの・・・」
何故か水純は困った顔をしていた。
素直に祝福の言葉を送ったつもりだったのに、あれ?変なこと言ったかな?
「あ、あの、雅子さま。加奈子さんは、お友達じゃありませんけど・・・」
「え・・・う、嘘ぉ!?だってさっきまで、楽しそうにおしゃべりしてたじゃない!?」
「はい。たしかに先ほどまで、加奈子さんとお話していましたが、お友達ではありません」
「ど、どういうこと?」
私には楽しそうにおしゃべりしてたように見えたのに、お友達じゃないなんて・・・
だったら加奈子ちゃんは水純のなんなの?
「加奈子さんはクラスの人気者で、誰にでも声をかけてくれる優しい方です。だから廊下でのことも、孤立している私に気を遣って話しかけてくれたんだと思います。もちろん、加奈子さんがお友達だったら嬉しいですが、加奈子さんともあまり会話が続かないですから・・・」
「そ、そうなんだ。じゃあ、私の勘違い・・・なのかなぁ?」
でも水純と喋ってたときの加奈子ちゃんの表情。あの笑顔は作り物じゃないと思うんだけど・・・
「ですので雅子さま!今日も私にお友達ができるように、特訓お願いします!」
「う、うん・・・」
私は一応頷いたけど・・・なんだろう?
会話が続かないからお友達じゃないっていうのは、何か違うような気がする。
会話が続かないからお友達じゃない、か。
加奈子ちゃんの方はどう思ってるんだろう?
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