第7話愛の三角関係?

 翌日ーー。

「すー・・・すー・・・」

今日も、清々しい朝。

日頃の疲れからか、私は予定通り起きていたはずなのに、ついうとうと二度寝していた。

あぁ・・・早く起きなきゃ・・・でも、気持ちいい・・・ずっとこうしていたいなぁ・・・

「・・・やさん、ねえ・・まさ・・・さん!」

誰かの声が聞こえる。

「んぅ?だれぇ?」

「雅也さん、起きて雅也さん!早く起きないと遅刻しちゃうわよ!?」

「んー・・・雅也ぁ?違うよ、私は雅子だよぉ・・・」

「わ、私は雅子って・・・まぁ、確かに今はそうだけど、とにかく起きて!遅刻するわよ!」

「ふえ?遅刻って、みかさ・・・・きゃああああっ!」

「え?な、なに?」

「ど、どうしてみかさんが部屋にいるんですか!?女の子の部屋に勝手に入らないでください!」

「あ、ご、ごめんなさい!すぐに出るから!」

そしてみかさんが部屋を出る。

「ん?」

みかさんがドアの向こうでそう呟いたのが聞こえた。

そして、なんやかんで通学路を二人で歩く。

「あ、あの、さっきはごめんね。前はよく雅子を起こしに行ってたから、つい勝手に入っちゃって」

「いえ、いいんです。私の方こそ大声出してすみません」

「うん。それは別にいいんだけど・・・」

「けど・・・?」

「あ、あのね、雅也さん、もう雅子になってから、もう4日も経ったわよね。だから、その成果が出たんじゃないかな?今朝のあれも、かなり雅子っぽかったというか、完璧に乙女の反応でーー」

「そ、それ以上は言わないでください!お、思い出したら、情けなくて死んじゃいそうです」

「あ、やっぱり気にしてるんだ?」

「はあ・・・いくら寝起きだからって、あんなこと言うなんて情けない。もう男に戻ってもみかさんと顔合わせられないよ」

「わ、私は気にしないわよ。ちゃんとわかってるから。むしろ演技力があがってよかったんじゃない。雅也・・ちゃん?」

「み、みかさん!絶対からかってるでしょ!」

「あはは、ごめんなさい、冗談よ」

みかさんとおしゃべりしながら歩いている間は、昨日のことなんて忘れて楽しく登校できた。

だけど、校門が近づくにつれ、生徒が増えてくると、徐々に好奇の視線と噂話が集まってくる。

噂話の内容は、麗華さまに逆らう生意気な2年生を批判するもので、正直聞いてて気持ちのいいものではなかった。

「ねぇ、そこのお二人、雅子さんとみかさんじゃない?」

「あの麗華さまに逆らったお二人?さっそく一緒に登校して、麗華さまに見せつけてるのかしら」

「麗華さま可哀想・・・せっかく選んだ子に拒否されるなんて」

周りの生徒が話してるのが自然と耳に入る。

「さっそく、広まってるわね」

みかさんがつぶやく。

「ごめんなさいみかさん。何だか私のせいで、みかさんまで嫌われちゃって・・・」

「いいのよ。私はこういうの慣れてるから」

「慣れてる?」

「あっ!そ、それより教室でも同じ反応なのかな?」

「えっ?それはどうでしょう。私はクラスの人たちのこと、よく知りませんから・・・」

「うーん、私も雅子と麗子さん以外とは、あまり交流ないのよね。他の子はクラスメイトになって、まだ1ヶ月だし」

「クラスのみなさんにも嫌われちゃってたら流石につらいですね」

「そうね・・・」

教室のみんなにまで冷たくされたら、これからの学園生活が厳しいものになる。

私達は覚悟を決めて教室に向かった。

そして教室の扉を開ける。

「あ、来たわよ」

入るなりクラスの子が口を開いた。

「ご、ごきげんよう、みなさん」

教室に入ると、校門と同じようにクラスの視線が私達に集まる。

静寂に包まれる教室。

校門で噂話されてた時より居心地が悪い。

やっぱり・・・嫌われちゃってるのかな。

私達は不安と緊張で体をこわばらせながら、教室に入ると、すぐにクラスメイトが周りに集まってきた。

「な、なんですかみなさん!?」

「雅子、私の後ろに隠れて!」

みかさんが叫ぶ。

「雅子さん、みかさん・・・」

「・・・・っ」

「安心して!私達は当然、麗華さまよりみかさん達を応援してるわ!」

「へ?」

クラスメイトから出た言葉は意外なものだった。

「雅子さんを巡る愛の三角関係!」

「他の生徒のみなさんは、麗華さま派みたいだけど、私達2年3組はもちろんみかさん派よ!」

次々にクラスの子が話しかけてくる。

「え?えええっ!?」

話が終わると、何故か拍手が巻き起こった。

な、なにこれ?とりあえず、嫌われてるわけじゃないってこと?

でも愛の三角関係とか、みかさん派とか、麗華さま派とか・・・。

ただ生徒会長を選ぶだけの話が、壮大な愛憎劇に勘違いされてるんですけど・・・

「二人とも、桜花祭頑張ってね!私達、応援してますから!」

「そ、それはどうも・・・」

流石のみかさんも予想外の事態に、苦笑いのまま硬直してる。

これは・・・よかったのやら、悪かったのやら・・・

でも嫌われてるわけじゃなくて本当によかったよ。

桜花祭も応援してくれるみたいだし・・・

「あれ?どうしてみなさん桜花祭のこと知ってるんですか?勝負することは昨日の放課後決まったばかりなのに」

「それなら、壁新聞に出てましたよ?」

「そうなんですか・・・」

もう学園中に知れ渡ったみたい・・・。

そして、午前中の授業が終わる。

「んーっ!今日は疲れたぁ。もう帰っちゃいたいくらいね、雅子」

そう言いながらみかさんが背伸びする。

「ええ。気分はもう放課後ですね。でも実際はまだお昼なんですけどね」

お昼休みに入ってすぐ、私達は顔を見合わせて苦笑した。

今朝から私達はどこに行っても注目の的だった。

そして放課後ーー

私は園芸部に向かうため、すぐにみかさんに合流した。

「さあ、行きましょうかみかさん!まずは生徒会と勝負になったことを、園芸部のみなさんに報告しないといけませんね!」

そう言ったときだったーー

「迎えにきたわよ、雅子」

入ってきたのは麗華さまだ。

「え?」

「麗華さま!?」

突然の麗華さまの登場に、私とみかさんはーー

いや、教室のみんなが一瞬にして硬直した。

ど、どうして麗華さまがうちのクラスに?ここはいわば、敵地のような場所なのに・・・

「何をボーっとしているの。桜花祭まで時間がないのだから早く準備しなさい」

「じゅ、準備って何のですか?」

「生徒会を手伝う準備に決まっているでしょう?ほら、今日から園芸部は敵なんだから、みかとは仲良くしないの」

「へ?」

「え・・・えええーっ!?」

「急に大声を出すものじゃないわ。うるさい子ね」

「す、すみません。でも、園芸部が敵って・・・どうして私が生徒会を手伝うことになってるんですか!?」

「決まってるわ。あなたが実行委員長だからよ。実行委員は生徒会に所属する、そうでしょ?それにこちらは今、二人しかいないのだから、雅子が生徒会を手伝わないのなら不公平になるわ」

「ま、また勝手なこと。だいたい私は園芸部員で、しかも次期会長には反対の立場なんですよ?その私がどうして生徒会を手伝わなきゃならないんですか?さ、さすがにこれはおかしいですよ!」

「おかしくないわ。どうせ勝つのは私なのだから、会長になった時の予行練習だと思って手伝いなさい」

麗華さまがそう言うと、みかさんが口を開いた。

「なっ!れ、麗華さま!そのお言葉はいくら何でも傲慢です!私、負けるつもりはありません!」

「あらそう?その自信があるなら大丈夫ね、みか。じゃあ、雅子は貰っていくから」

「ダ、ダメです!どうしてそう勝手なんですか。雅子は渡しません!」

「しつこいわね。何なのあなた。邪魔しないでくれる?」

「しつこいのは麗華さまです。麗華さまこそ横取りみたいな真似しないでください!」

「私が、横取りですって・・・?」

二人の口論がまた白熱してきた。

「あ、あの、お二人ともあまり興奮しないで・・・」

するとクラスの子が騒ぎ出した。

「す、すごいわみかさん。あの麗華さまに堂々と宣戦布告するなんて」

「噂は本当だったのね!雅子さんを巡る愛の三角関係・・・」

「ああ、これからどうなるのかしら!もう目が離せないわ!」

口喧嘩している間に、他の人たちが集まっていた。

その数は優に50人は超えており、教室はおろか廊下も人で溢れ、軽いパニックになっていた。

ま、まずい。このままじゃ、昨日みたいな大騒ぎになっちゃう。

「お二人とも、ここでの議論はやめましょう!人が集まってきてますし、とりあえず場所を変えないとーー」

「雅子!あなた園芸部を手伝うわよね!?」

「いいえ、生徒会を手伝うはずよ。そうよね、雅子!」

「い、いえ、だから場所を変えないと答えられませんって。人がいっぱいだから、今答えるとパニックになっちゃいますよ」

そこへ先生がきた。

「ちょっとみなさん!この騒ぎは何ですか?廊下に集まらないでください!」

「み、観月先生!助けてください、気づいたらこんな騒ぎになっててーー」

「あっ!また雅子さんですね!あなた昨日といい今日といい、あれだけ注意したのに騒ぎを起こして・・・っ!もーっ!こうなったら、学園長先生に叱っていただきます!みかさんと麗華さんも、学長室に来なさーい!」

そ、そんなぁ・・・

「もう、雅子が早く決めないからよ」

「優柔不断!」

麗華さまとみかさんが口々に言うのだった。

「ううぅ・・・好きに言ってください。どうせ私が悪いですよぉ・・・」

そして、私達は学長室に呼ばれたのだった。


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