第39話 アドバイス

 コースの下見を終えて、テルの元へ行く。


「ドラゴンファイトって軍で実施している訓練のひとつで、年に一回大会があってすっごい人気な競技なんだよ」

「へぇ、危険な競技なのに人気なんだ?」

「相手を殺すつもりって言ったけど、竜騎士同士だとお互いに能力が高いからそこまでには至らないのよ。ほとんどの場合はね」


 確かに、ボクシングのような格闘技が人気な理由もそういった面にあるのだろう。

 競技として観戦するのは楽しそうだ。


「昔一度だけ見に行ったことがあって、その時に競技を見ながらお兄から聞いたドラゴンファイトの攻略法を伝えるね」

「うん、お願い」

「と、その前にこのコースはセミファイナルまでの難しい要素がたくさん入ったコースになってるから、普通にコースとしても難しいと思う」

「下見しててそれは思ったよ」

「でも、大丈夫だよ。レージとロッテちゃんならもう攻略できる」


 レージはロッテを一瞥し、大丈夫と再確認した。

 実際、下見しつつイメージはできた。

 イメージができたということは、あとは実現するだけ。

 ところが、今回はドラゴンファイト形式となるため、そのイメージ通りに飛べない可能性の方が高いことが問題だ。


「で、ドラゴンファイトはさっきも言った通り、本質は妨害なの」

「うんうん」

「妨害って、簡単に言えば攻撃だよ。レージなら弓矢とか、魔法とか、チャンスがあれば手段を問わずに仕掛けるべきなの。姑息とかそういうことを考える必要はないよ。で、一番の基本は体当たりね。ドラゴン同士の体のぶつけ合いは、手っ取り早く相手の体勢を崩せるから」


 体格で劣るロッテでも、勢いよくぶつければ効果はあるだろうか。


「あとはね、自分ができることは相手もできると思ってね。だから、相手の妨害にどう対処するのかも重要ってこと」


 自分が妨害をできるということは、同時に相手も妨害ができる。

 当たり前のことだが、自分の行動ばかり気にしていたらマズイということなのだろう。


「魔法は空間設置型のトラップ魔法に気をつけてね。リゼルは水魔法を得意としてるから、そういったトラップ魔法は目視しづらいかも。魔力感知ができればいいんだけど、レージはまだやったことないよね……」

「魔力感知……?」

「そうそう、魔法の力は魔力感知という魔法を使うことで感覚的に認識することができるんだよ」

「ぁあ! だから俺のウィンドアローは避けられちゃってたのか!」


 野盗との戦いの中で、自分の攻撃が当たらなかった理由を理解すると同時に、あの時立てた仮説は間違ってなかったことを認識する。


「魔力感知は属性魔法とは違って、魔力制御が1500くらいあれば誰にでもできる魔法なんだけど、そもそも中級魔法だし。魔法を使い始めて間もないレージにはまだ難しいかも……」

「そっか、前回計った時は400だったんだよね。さすがにまだ1500には到達してないと思う。そもそも到達するかもわかんないけど……」

「リゼルは使えると思うから、レージの魔法は目に見えるかどうかは関係ないってことを覚えておいてね」

「オッケー、わかった」


 これはとても有益な情報だ。

 自分の魔法が不意打ちとなるかならないかで、戦略が大きく変わってくる。

 とはいえ、相手は使えて自分が使えないというのはとても不利だ。


「あ! あとすごく大事なことを忘れてた……!」

「ん?」

「リングに触れると、ドラゴンにビリビリってくるみたいで、3秒くらい麻痺るから気をつけてね」


 なるほど、タイムを競うわけじゃない分、そこにちゃんとペナルティがあるのか。

 ロッテを見ると、すごく嫌そうな顔をしていた。


「大丈夫だよロッテ。ちゃんとリングに触れないようなコース取りするから。たぶん」


 ロッテがジト目で見てくるが、こればかりは始まってみないとわからない。

 なんとなくだがレージの中でイメージができてきた。

 一番大切なことは、ファイナルリングを先に通過すること。

 そのためには手段を選ばないこと。

 例え大きな差ができてしまっても、うまく相手を足止め、もしくは競技続行不能にしてしまえば勝つチャンスがあるということ。

 我ながら悪いことを考えている気がする……。


「よっしゃー! それでは選手はスタート位置へ移動してくれぃ!」


 会場に流れるテンションの高いアナウンスに、いよいよだと気持ちが昂ぶってくる。


「じゃ、いってくるね!」

「うん、気をつけてね!」


 レージはロッテに跨って地上のスタート位置へ向かった。

 王国杯ファイナルがいよいよ始まる。

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