第37話 勝ち上がる
大会二日目はラウンド8とセミファイナルが行われる。
連日連戦となれば、当然人もドラゴンも徐々に消耗していく。
つまり大会を勝ち抜くにはそれなりの体力も必要となってくるわけだ。
「いやー、今日もいい天気!」
その点、レージとロッテは問題なさそうだった。
ここのところは毎日のように練習していて、詰め込んだ分心身ともに毎日飛ぶことに慣れてきていた。
さらに、大会直前に休息をとったため体力だけは誰にも負けない自信がある。
大会初日は初めてのことずくしと、予想外のトラブルで余計な精神的疲労感があったが、一日寝たことでかなり気分はさっぱりできた。
この辺の回復力は、数々の馬術大会を勝ってきた賜物だろう。
そもそもロッテに関しては、いくら練習してもケロッとしてる体力バカであることが判明した。
午前中はラウンド8だった。
ここでは斜め上に向かって飛び、そのまま回転することで進行方向に対して平行移動するバレルロールというテクニックが必要となったが、特に問題はなかった。
対戦相手のミスもあり、慎重に臨んで見事突破した。
後攻だったのが功を奏した珍しいパターンだった。
午後はセミファイナル。
レージとロッテは勢いに乗っており、先攻ということで積極的にチャレンジした。
セミファイナルということだけあって、コース難易度もかなり上がっていた。
インメルマンターンの逆向きであるスプリットSというテクニックや、ショートダブルといってほとんどリングとリングの間がない直線のリングの組み合わせがあり、よりドラゴンを正確にコントロールすることを試された。
レージはなんとかノーミスでゴールする。
セミファイナルということもあって、対戦相手も相当うまかったが、ショートダブルの奥のリングに触れてしまってタイム加算があった。
タイムはレージよりも早かったものの、接触が一回あったことでレージの方が速い結果となった。
「あぶなぁ」
「勝ちは勝ちだよ!」
テルと言葉を交わして、ハイタッチする。
先攻でプレッシャーを掛けられたから勝てたのだろう。ここはクジ運に救われた感がある。
「明日はいよいよ決勝だね!」
「うん、ここまで来たらもちろん勝ちに行くよ!」
レージは静かに右手を握りしめ気合を入れる。
明日に向けてしっかり休もう。
「よぉ、良い色だな」
ロッテを引いて歩きながら厩舎へ戻る道中、がたいの良い男に話し掛けられた。
口の周りには立派な髭が生え、自信に満ちているような強い瞳、黒の短髪で少し日焼けした肌。
身なりは軍服のような制服を着ていて、胸にはたくさんの勲章が光っている。
軍の偉い人だろうか……?
「ありがとうございます。シャルロッテといいます」
レージには目もくれず、ロッテのことを見ている。
「白銀の鱗、力強い目、しなやかな筋肉、纏う魔力。うん、良いドラゴンだ。まだ小さいがな」
ロッテを褒められて悪い気はしなかった。
「それにしてもお前はへったくそだったなぁ。セミファイナルは運が良かっただけじゃねーか。このドラゴンならもっと力を出せるんじゃないか?」
「え?」
レージの技量がロッテのポテンシャルを全然活かせてないということを言っているようだ。
正直、気分の良い話ではなかった。
「お前、歳は?」
男は視線をレージに移し、問いかける。
「15ですけど」
なんですか? と続けたかった。
それくらい不満そうな態度が表に出ていたと思う。
「そうか。軍には興味あるのか?」
「はい、いちおう竜騎士隊に」
「ほう! なるほどなるほど」
なんだろう、竜騎士隊の人なのだろうか。
第一印象は最悪だが。
「確か明日の相手はブルーガーの坊っちゃんだったか」
「リゼルですね」
「うん、悪くないな! そうかそうか、今日は退屈だったが、明日は楽しみにしてるぞ!」
「はぁ」
「少年、がんばれよ」
男はレージの左肩を豪快に叩き、そしてロッテの首をパンパンと撫でてその場を後にした。
肩が痛い……。
「なんだったんだ……?」
レージの知識では、軍にはスカウトという制度はなかったはずだ。
つまり未来の竜騎士を探すため、こういう大会を視察に来たとしても結局は試験を突破しなければいけないわけだ。
もしかしてコネ入隊とかあるんだろうか……?
いやいや、そもそもロッテを真っ先に見てたし、軍で使うドラゴンを見定めに来たのだろうか。
もしかしたらロッテの方がスカウトされたりして……?
とか考えても答えは出ない。
レージはそれ以上は考えることをやめ、明日に向けて気持ちを切り替えた。
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