第35話 トーナメント

 決勝トーナメントの対戦相手は、くじ引きで決定する。

 これは、予選の順位を意図的にコントロールできないようにする狙いがある。

 そして、決勝トーナメントはラウンド16、ラウンド8、セミファイナル、ファイナルとなる。これが、勝ち進むごとにコースの難易度が上がっていく仕組みとなっている。

 つまり簡単に言えば、勝ち進むごとにより人とドラゴンの能力が試されていくということだ。

 予選はそれほど難しい組み合わせのリング配置がなかった。

 それもあって、レージが負けずに済んだという部分もある。

 難しいコースほど、入念に下見が必要なのだ。


「それではレージ・ミナカミさん、くじを引いてください」


 女性の場内アナウンスと共に、目の前のボックスから数字の書かれた玉を取り出した。

 このボックスには魔法が介入できないような結界魔法が掛かっている。

 よっぽど魔法の達人で、その結界を破らないように魔法を掛けない限り、不正はできないのだ。結界が破られたらその時点で不正発覚となる。

 レージがボックスに手を突っ込み、玉を掴んだ。


「10番です」


 予選順位の低い順で引いていくため、レージは一番最初に引くこととなり、まだ対戦相手はわからない。

 レージの後に続々とくじを引いていく。

 そして、ライアンが現れた。


「9番」


 マジかよ。

 嬉しいのかどうなのか、複雑な感情をレージは抱く。

 なんの因果だろうか。

 ラウンド16の対戦相手はライアンとなった。

 リゼルは反対側の山で、当たるとしたら決勝だ。


「ひと泡吹かせてやりましょ!」


 テルの威勢の良い一言に頷きつつ、レージは集中力を高めていた。

 堂々とやり返すチャンスと思えば、他人に倒されるよりもすっきりできそうだ。

 さすがにもう稚拙な嫌がらせはしてこないだろう。

 リゼルからの信用もあるだろうし、自分の実力で正々堂々レージを負かしにくるはずだ。


「ミニマム級ラウンド16の下見を開始します」


 アナウンスと共にレージはロッテに乗り、ファーストリングに向かった。

 ――そして下見は問題なく終わり、地上に降りる。

 下見は原則選手しか行えない。

 しかも下見の直前までリングは透明になって隠されているため、指導者がいてもアドバイスができない。

 基本的に下見が終了した後にしかアドバイスがもらえないようになっているのだ。

 馬術ならコーチと一緒に下見をすることができるのだが、そこにレージはギャップを感じる。


「レージ、あのフォースリングからフィフスリングの経路、上下に並列しているような形なんだけど、一番効率的なのはハーフループすることだよ」

「ハーフループ?」

「うん。前に推進しながら上昇して、ぐるっと縦に円を描きつつ一周してその場に戻るのがループね。ループの途中、一番上昇した頂点までの回転をハーフループっていうの」

「あれ、でもそれだと自分たちが逆さまじゃない?」

「そうそう。だから、頂点に達するタイミングでロールする必要があるんだよ」

「ろ、ロール?」

「ごめんね、そういう技を教える時間なかったから……ロールっていうのは、横に360度回転することだよ」

「捻れる感じ?」

「そう! ハールループのあと、ハーフロールすることで、元いた場所のちょうど真上で、Uターンした向きになるってこと」

「確かにそれならフィフスリングにスムーズに向かえるね」

「この技は別名インメルマンターンっていって、敵騎竜とすれちがった時とかに追う場合の旋回テクニックのひとつなんだよ」

「なるほどね。そういう実戦を想定したリングの配置ってことなんだね」


 エアリアルリングそのものが、本来は実戦に向けたトレーニングのための競技だ。

 リングに対して正しいアプローチをできるということは、実戦でより正確に移動を行うことができるわけだ。

 そしてその移動こそが、魔法を主軸とした戦場において、重要な要素のひとつとなる。


「まぁ、レージとロッテちゃんなら大丈夫だと思うよ」


 なにその根拠のない自信。というか信頼……なのか?


「投げ出してない……?」

「ちがうってばー。おじさんも言ってたけど、まず大事なのは基礎、それから基本だよ。基礎は正しい姿勢で、正しくドラゴンに乗ること。基本は正しい扶助で、正しくコントロールすること。応用はそれらを元にした高度な技。つまり、レージは基本までしっかりみっちり私が仕込んだから大丈夫ってことだよ!」


 レージは妙に納得してしまう。

 この三週間、とにかく細かい地味な練習が多かった。

 そのおかげで、ロッテにどう扶助を出せばどう動くかというのがすごくよくわかった。


「それにしてもぶっつけ本番でそんな技をやれって無茶振りは……」

「あははー」


 笑ってごまかされる。

 まあ、やるしかないのだ。

 レージは改めてコースを眺めて、自分の飛んでいる姿を想像した。

 その横でロッテは自信満々と言わんばかりに鳴く。

 まったく、頼もしいパートナーだ。

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