第30話 幼竜の背に乗って
レージは普段着のまま、新しく買った手袋をはめた。
割と良い感触だが、使い込むことでもっとしっくりしてくるだろう。
長靴も履いて、ひとまず準備完了だ。
ロッテにはさっきから付けている新しい頭絡に、手綱を繋ぐ。
鞍も新品で、きつめに腹帯を締めた。
「なかなか様になってるよ、ロッテ」
「くぃーん」
なんか嬉しそうだ。
「ねぇレージ、やっぱり最初は私が乗るよ。さすがに幼竜の馴致は危ないから」
「テル心配してくれてありがと。でも、さすがに片手じゃ無理でしょ? ロッテを信じてみたいんだ」
ロッテもレージ以外を乗せるつもりはなさそうだ。
テルはちょっと迷いつつも、了承してくれた。実際、片手だけではレージが乗るよりも危険かもしれない。
「じゃあちょっとだけアドバイスさせて」
「うん、お願い」
「いくらロッテちゃんが優秀でも、初めてハミと脚の扶助はわからないことが多いと思うの。少しずつトライアンドエラーを繰り返して、教えてあげてね。慌てて一気に教え込もうとすると、人を乗せること自体にトラウマを持っちゃうケースもあるから」
「わかった、少しずつやってみる」
そう言うと、レージはロッテに跨った。
サマンサに比べて背中の線が細いし、頭の位置も近く感じた。
「ロッテ、手綱を持つからな」
ひとつずつ口頭で確認しながら行う。
いや、言葉がわかるかどうかはわからないが、なんとなくだ。
「今から飛び上がる時の扶助をするぞ」
言うなり足を引き、手綱を握ってロッテの体を起こした。
ロッテは同意の意をハミを少し噛んで手綱に伝える。
そのタイミングでロッテは思いっきり跳躍して、空へ舞い上がった。
「いいぞロッテ!」
無事に飛ぶことはできた。
ハミを嫌がることもないし、すごく素直だ。
「よし、水平飛行のまま左旋回して円を描こう」
ハミを引き、レージ自身の体を内側へ少しだけ傾ける。
同時に、右足を少し強めに押さえつけた。
ロッテは、重心を少しだけ内側へ倒し、嫌がることもなく素直に応じて旋回し始める。
特にバランスを崩すことなく、安定して飛んでいる。
「ロッテいいじゃないか!」
「くぃーん!」
初めてとは思えないほどスムーズに飛べている。
逆回転も問題なかった。左右での得意不得意というクセはなさそうだ。
旋回をやめ、まっすぐ飛ぶ。
「次は上昇な」
ロッテの身体を起こして、上昇していく。
問題ない。
「次は下降」
レージは前傾して、足を後ろに下げる。
それに応じて、ロッテも滑空して高度を下げた。
「よしよし!」
下降をやめ、速度を落とし、水平にまっすぐ飛ばす。
その時に大きな追い風の突風が吹いた。
「うぉ!」
急にロッテがバランスを崩し、フラフラとなってしまう。
レージは振り落とされそうになるも、なんとか持ちこたえて、手綱をゆっくり引いてロッテの体勢を起こす。
ロッテは何度も羽ばたいて、体勢をなんとか持ち直した。
「大丈夫か?」
「くぃん」
危なかった……。
ひとまず地上に降りる判断をする。
着地も問題なく、レージは降り際にたくさんロッテのことを撫でてあげた。
「テル、強い追い風が吹いた時にバランスが崩れちゃったんだけど、どうしてかな?」
「うーん、基本的に向かい風の時の方が安定するのは確かだよ。滑空できるのは、進むスピードに対して風を受けてる時だけだしね」
「そっか、物理の話か……俺苦手だったんだよなぁ」
レージは現実世界での勉強を思い出して嫌な気持ちになった。
「サマンサに乗ってた時はそこまで気付かなかったのはなんでなんだろう?」
「サマンサは経験豊富だからね。あの子自身が、その状況に適した翼の動かし方とか、風魔法で補助してるのよ」
うそ、ドラゴン自身が安定的な飛行を魔法で補助してるのか。
「そもそも、ドラゴンが飛ぶのだって魔法の力が大きいって言われてるんだよ。虫や鳥と違って、身体が大きくて重いでしょ? さすがにこの翼だけじゃ飛べないと思うんだよね」
「その辺も勉強しないとだなぁ……。ひとまずわかったのは、向かい風だと速度は出にくいけど安定して、追い風だと速度が出る代わりにバランスが崩れやすいってことかな」
「うんうん。それにしてもさ、初めてで上手に飛べてたじゃん! びっくりしちゃったよ」
テルの屈託のない笑顔に癒やされる。
確かに上出来だ。やっぱりロッテは言葉がわかってるとしか思えない。
それくらい忠実に各扶助を理解していた。
「ロッテ、本当にすごかったぞ」
「くぃーん!」
ロッテも嬉しそうに鳴いて、尻尾を振った。
基本的な動作は問題ない。次はいよいよエアリアルリングに挑戦だ。
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