第10話 白銀のドラゴン

 ドラゴンは哺乳類じゃない。

 そもそも魔物であるドラゴンを、哺乳類とか爬虫類みたいな分類の仕方をしていいのかよくわからないが、ひとまずドラゴンは爬虫類に近い。その証拠に、ドラゴンは卵から生まれる。

 卵にはドラゴン特有の火の魔法が掛かっており、どんな環境でも卵の温度が一定に保たれるようになっている。なので鳥類のように卵を温める必要もない。

 しかも複数の属性で練られた特殊な防護魔法も掛けられているので、簡単に卵が割れることはない。

 ドラゴンの卵は一度の交尾で1から3個ほど産み落とされる。繁殖は一年に一回で、割合的には卵の数が少ないほど、優秀なドラゴンが生まれやすい傾向にある。

 また、ドラゴンは子育てをしない。生まれたドラゴンは、何も食べなくても1ヶ月は生きていられる。その間に食糧を得られない、もしくは外敵から攻撃された個体は適者生存できなかったということになる。生まれた時から環境に順応する本能がある魔物なので、ドラゴンは人間から見ても賢いパートナーとなる。

 そう説明してくれたオーイツが、そろそろ生まれそうな卵があると教えてくれた。

 卵は厩舎とは別の建物で管理されており、卵ごとに小さな個室となっている。


「これがドラゴンの卵……!」


 レージは見たことのない大きさの卵に驚きつつも、ドラゴンの体躯を思えば小さく感じる不思議な感覚だった。

 ダチョウの卵より大きく、直径でいえば30cmはある。色は白、いやうっすら銀色のような光沢感がある。


「この卵はね、他のと色が違うんだよ」


 そう言って両手で抱えている別の卵をテルが見せてくれる。

 確かに違う。テルが持っているやつはクリーム色で光沢がない。大きさに差はないが、なんとなく雰囲気が違う。


「不思議な卵でね、もうすぐ産まれそうなんだよ」


 ヴィーヴルの卵はテルの見せてくれたようにクリーム色のものが普通だそうで、当然この白い卵もこの牧場で繁殖されたからヴィーヴルの卵のはずだ。

 なんとなく神秘的に感じながら、レージは白い卵に手を触れてみた。


カチカチカチ……!


 レージの指先が触れた瞬間だった。

 突然卵にヒビが入った。


「う、産まれた!?」


 レージは思わず叫び、どうすればいいかわからずに狼狽る。


「すっごい幸運だよレージ! ドラゴンが産まれる瞬間に立ち会えるなんて」


 ゆっくりとカラを破って出てきた白銀のドラゴンに、レージは思わず見惚れてしまった。


「キレイな色」


 牧場の他のヴィーヴルは緑色や赤色のドラゴンだ。

 こんな雪原のようにキラキラと光る白銀のドラゴンなんていない。

 そして、赤ちゃんドラゴンと目があった。


「くぃーん」


 なんとも愛らしく鳴いた。

 めっちゃめちゃかわいい。

 つぶらな紅い瞳でレージを見ている。


「抱っこしてあげたら?」

「え?」


 テルが白銀の赤ちゃんドラゴンを抱き上げ、レージに渡す。


「ど、どうやって持てば……?」

「てきとーで大丈夫だよ」


 両脇に手を入れて抱き上げる。

 思ったより重くない。

 両手で持てるほどの小さな存在は、何度もレージに向かって鳴く。


「か、かわいすぎる」

「本当だね! こんな色のドラゴン見たことないよ。お父さん呼んでくるね!」


 二人っきり(?)になってしまい、どうすれば良いかわからなくなる。

 とりあえず足元に降ろし、ワラの上を歩かせてみる。

 ヨタヨタと二足で歩いている。

 きっとお腹空いているんだろうな。

 こちらの気遣いなんて関係なく、白銀のドラゴンはレージの足にしがみ付いてきた。

 おいおい、キュン死にさせる気かよ……。

 思わずもう一度抱き上げると、なんとなくだが嬉しそうな声で鳴いた。


「ほぅ、これは俺も初めて見る色だな」


 いつの間にかテルがオーイツを連れて来ており、首を傾げながら白銀のドラゴンを見ていた。


「レージ、とりあえず名前付けろや。うちでは、産まれたドラゴンを一番最初に発見したやつが名前をつけるしきたりなんだ」

「お、俺が?」

「いいねいいね、レージがどんな名前つけるのか興味あるな」


 急に言われても名前なんてポンッと出てこない。

 ふと、漆黒の愛馬であるシャーニットを思い出した。


「オーイツさん、この子は男の子? 女の子?」

「あー、こいつはメスだな。幼龍だとなおわかりにくいんだが、下腹部の体型がオスとメスで違うんだ」


 なるほど、と頷くレージ。

 シャーニットは男の子だったからそのままの名前を付けるのは違うな。


「よし、決めた。この子はシャルロッテだ」

「いい名前だね! ロッテちゃん!」


 語感がシャーニットと似てるから、シャーニットのことをずっと忘れないでいられる。

 シャーニットみたいに、このドラゴンを自分自身が乗りこなせるようになれるかなんてわからないが、将来的にそうなったらいいなとレージは単純に思った。

 そんな思いが詰まっているとは露知らず、シャルロッテはレージの腕の中で安心したのか、スヤスヤと眠ってしまっていた。

 これが、レージとシャルロッテの出会いである。

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