光に還るときがきた

静海しず

さいごのとき

ああ とても眠たいわ。


お家へ帰るときがきたのね。


わたし、精いっぱい生きたわ。

最後は身体が弱ってしまって、ごはんも食べられなくなったけれど、それでも、生ききったわ。


幼いころに、姉妹たちと離されていきなりここに連れてこられたときは、何ごとかと思ったわよ。

知らないニオイに囲まれてとても不安だった。


あなたの指に思いっきり噛みついたこともあったわ。

それくらい怖かったの。わたしたちは、小さな生き物だから。

慣れるのにずいぶん時間がかかったと思うわ。

そんなわたしを、あなたは一生懸命お世話してくれたわね。

面倒と思ったことも……まあ、あったでしょうね。

でもわたし、そういうものだってわかってるから大丈夫よ。


あなたが、わたしのことを思っていろいろやってくれたのわかってる。

わたしがむこうに旅立つのは、あなたのせいじゃないの。

お家に帰るときが来ただけなの。

だから自分を責めないで。


動かない私を見つけたら、あなたはびっくりするかしら。

きっと泣くわね。

だって、あなたは私を深く愛しているもの。


泣かないでとは言わないわ。どうしたって別れは悲しいもの。

たくさん泣いて、泣いて、悲しんで。

そうしたらまた元気になれるから。


ねえ、見て。

わたしの体、ふわふわでしょ?

あなたがたくさん愛してくれたから、幸せだったわ。

若い時みたいに走り回ることができなくなって、もどかしい時もあったわ。

でも、このふわふわだけは、最後までお手入れを欠かさなかった。

あなたが愛しそうに撫でてくれるから。


姉妹たちはわたしよりも小さくて弱かったから、もしかしたら、先にお家に帰って待ってるかもしれないわね。

あの子たちに向こうで会えるのも楽しみだわ。

むこう側に帰ったら、わたし、自慢するの。

こんなに愛されたのよって。

こんなに愛したのよって。

わたし、あなたに愛されるために生まれてきたの。

あなたを愛するために生まれてきたの。


わたし、幸せだった。

この世に生まれて、あなたと過ごせて。

とっても楽しかったわ。


いつか、どこかで


また会えるから


あなたとわたしは深い絆で結ばれてるの。


愛は続くわ。


ああ ねむたい


とても ねむいわ


ありがとう


また ね


さようなら


あい してる

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

光に還るときがきた 静海しず @Shizmy

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ