2B

 ナザリック地下大墳墓にある円卓の間でモモンガは、久しぶりにログインしたギルドメンバー五人と話をしていた。話の内容のほとんどがリアルでの仕事の愚痴といったものであったが、それでもモモンガは久しぶりの友人達との会話を楽しんでいたのだった。

 

「そうですか。クロクレスさんが……」

 

 モモンガは五人のギルドメンバーが久々にログインしてきた切っ掛けがクロクレスであるという話を聞いて呟いた。

 

「そうなんですよ。クロクレスさんからユグドラシルが終了するって聞かされた時は本当に驚きました」

 

「うん。でもそれよりも驚いたのは、モモンガさんが今まで一人でナザリックを守ってくれていたってこと。……今までありがとうね、モモンガお兄ちゃん♪」

 

 五人のギルドメンバーの一人、ペロロンチーノがそう言うと同じくギルドメンバーでペロロンチーノの姉であるぶくぶく茶釜が頷いて言い、その後で甘い媚声でモモンガに礼を言う。そしてそれを聞いていた残ったギルドメンバーのヘロヘロ、武人建御雷、弐式炎雷も口を開く。

 

「あー……。私、仕事が忙しすぎて最後にログインしたのって二年くらい前でしたっけ?」

 

「俺達もそれくらいだな。そうだったよな、建やん?」

 

 ヘロヘロが天井を見上げながら思い出すように言うと、弐式炎雷が隣にいる武人建御雷に訊ねる。

 

「そうだな。このナザリック地下大墳墓はギルドの皆で作った大切な場所だったのに、長い間放ったらかしにしていて本当にすまなかった、モモンガさん」

 

 武人建御雷は弐式炎雷の言葉に頷いて答えると、モモンガに二年以上の間彼を一人にしていたことを謝る。するとモモンガはそれに慌てて手を振った。

 

「そんな! 気にしないでください。建御雷さん達にだって都合があったんですから。……それに、こうして最後に来てくれただけで充分ですよ」

 

『『……………』』

 

 モモンガの言葉に五人のギルドメンバー達は無言になり思う。やはり彼は昔と全く変わっていないと。

 

 誰よりもこのギルド、アインズ・ウール・ゴウンを愛し、何よりも仲間同士の和を大切にするモモンガのままだと。

 

 その事を理解した五人のギルドメンバー達はどこか安心するのと同時に、今まで彼を一人にしていた事に罪悪感を覚えるのであった。

 

「あのー……。モモンガさん、コレ……」

 

 気不味い空気となった五人のギルドメンバーの代表としてペロロンチーノがモモンガに声をかけると、モモンガの前にメッセージ画面が浮かび上がる。その画面にはいくつものアクセス先が記されていた。

 

「コレは?」

 

「俺達が今遊んでいるゲーム、それと俺達の個人サイトのアクセス先……。それがあれがこれからも一緒に遊べるんで、その、よかったら……」

 

 今までモモンガのことを忘れていたくせにどの口で「一緒に遊ぼう」と言えるのだろうか、という思いのせいで徐々に声を小さくしていくペロロンチーノ。これが切っ掛けでモモンガが怒りだしたらどうしようかと、ペロロンチーノだけでなく他の四人も思っていたのだが、その心配は杞憂であった。

 

「本当ですか!? ありがとうございます、ペロロンチーノさん!」

 

 メッセージ画面に記されているアクセス先が何なのかを知ったモモンガを大喜びをして、それを見ていた五人のギルドメンバー達は内心で胸を撫で下ろした。

 

 それからモモンガ達は再び会話を楽しみ、いよいよユグドラシルの終了があと一時間に迫ってくると、全員でナザリック地下大墳墓を見て回り、最奥にある玉座の間で最後を迎えようという話となった。そしてナザリック地下大墳墓を全て見て回った後に玉座の間に集まったモモンガ達であったが……。

 

「あの……。ペロロンチーノさん? ヘロヘロさん? これはちょっと……」

 

 モモンガは玉座の間を見回しながら隣にいるギルドメンバー二人に声をかける。今、玉座の間にはナザリック地下大墳墓の各地に配置されていたギルドメンバー達が作り出したNPCのほとんどが集結しているのであった。お陰で本来は広い面積を持っているはずの玉座の間がとても狭く見えた。

 

 そしてナザリック地下大墳墓を見て回る途中で、出会ったNPCを全て引き連れてきたペロロンチーノとヘロヘロは、胸を張って自分の意見を主張する。

 

「何を言っているんですか、モモンガさん! 最後だからこそ、こうやって皆の思いの結晶であるNPCも一緒に迎えるべきでしょう」

 

「ペロロンチーノさんの言う通りですね。……それにしてもナザリック地下大墳墓のメイド達が全て集まっているのを見るのは、こう、感動しますよね?」

 

 ペロロンチーノとヘロヘロの言葉に、ぶくぶく茶釜と武人建御雷と弐式炎雷の三人は首を横に振り、モモンガも内心で苦笑を浮かべる。

 

 そうしているうちにユグドラシルの終了まで三十秒を切り、モモンガが五人のギルドメンバー達に声をかける。

 

「それじゃあ皆さん、今日は来てくれて本当にありがとうございました。……それで最後に」

 

 モモンガの言葉に五人のギルドメンバー達が頷く。そしてここに来るまでに皆で言おうと決めた最後の言葉を全員で口にする。

 

「「アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ!」」

 

 玉座の間に響き渡る声で最後の言葉を叫ぶモモンガ達六人。丁度この瞬間、ユグドラシルはサービス終了時間を迎え、本来ならナザリック地下大墳墓はユグドラシルの世界ごと消えてなくなるはずだったのだが……。

 

『『アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ!』』

 

 ナザリック地下大墳墓は消えることなく、玉座の間にモモンガ達が叫んだ最後の言葉が再び響き渡った。

 

 二度目の言葉を叫んだのは玉座の間に集められたNPC達で、彼らは「まるで本当に生きているかのように瞳を輝かせて」モモンガ達を見つめていた。それに対して当の本人であるモモンガ達は……。

 

「「え……!? 一体どういうこと?」」

 

 と、口を揃えて呆然と呟くことしかできなかった。

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異種族プレイヤー「黒の矢師」 小狗丸 @0191

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