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「シャイン・ダーククリスタル……? 何なんだお前? さっき粘液が人に化けたように見えたが……モンスターなのか?」
「モンスター……。そうですね。人ではないと言う意味ならそうですね」
クレマンティーヌは奇妙な粘液がメイドへと姿を変えてクロクレスの眷属と名乗ったシャインを驚いた表情で見ながら聞くと、シャインは表情を動かすことなく頷き答える。
「……へぇ? 私も色んな国で色んなモンスターをブッ殺してきたけどさぁ、お前みたいなメイドに化けるスライムなんて見たことがねぇぞ? 面白すぎんぞ、お前?」
「……ん?」
驚いた表情を浮かべていたがすぐに落ち着きを取り戻したクレマンティーヌはシャインに向けて挑発するような台詞を言う。しかしそれに反応したのはシャインではなく、彼女の背後にいたクロクレスであった。
「色んな国で、か……。それは好都合かも知れないな。シャイン、彼女は殺すな。適当に戦闘力を奪え」
「了解しました」
「……! ふざけてんじゃねぇぞ、お前らぁ!」
何かを考えた後に指示を出すクロクレスにシャインが振り替えることなく返事をすると、それを聞いていたクレマンティーヌが憤怒の表情となってシャインに飛びかかる。クレマンティーヌの両手には刺突用の短剣、スティレットがそれぞれ一本ずつ握られており、彼女はその切っ先をシャインの両眼に狙いを定めて突き出した。だが……。
「ッ!? ……!」
クレマンティーヌが突き出した二本のスティレットは、突然現れた「壁」に阻まれて「ガキィン!」という硬質な音を立てた。防がれるとは思っていなかった自分の攻撃を防がれた彼女は、驚きながらも即座に後ろに飛んで着地と同時に前を見る。するとそこには……。
メイド服の上に紅い金属製の胸当てを身につけ、左手に身の丈程もある巨大なタワーシールドを、右手にメイスを持ったシャインの姿があった。
「何なんだお前? 本当に訳わからねぇぞ……!」
クレマンティーヌは攻撃の対象であったシャインから目を離してはいなかった。それなのにいつの間にか武装して自分の攻撃を防いだシャインに、クレマンティーヌは言い知れぬ不気味さを感じて、そこでようやく彼女は目の前の二人が危険な存在だと思い始めるのだが……遅すぎた。
これはこの一ヶ月の間エ・ランテルの冒険者達を見てきて分かったことだが、この世界の人間やモンスターはクロクレスから見て非常に弱い存在なのである。
エ・ランテルの冒険者のほとんどはユグドラシルで言えばレベルが一桁のプレイヤーと同程度の実力しかなく、腕利きとされている冒険者でさえレベル十代前半程度。モンスターの力量も冒険者達より多少強いぐらい。
それに対してクロクレスとシャインのレベルは種族レベルと職業レベルを合わせて「百」。その力量はこの世界に生きる存在からすれば神の領域であるのだが、幸か不幸かクレマンティーヌはその事をまだ完全に理解してはいなかった。
だからこそクレマンティーヌは勝ち目の無い戦いを続けるという愚行を選んだのだ。
「そんな手品で驚くと思ってんじゃねぇぞ!」
シャインに、そして自分自身に向けてそう叫んだクレマンティーヌは、再び突進して両手のスティレットを突き出す。
クレマンティーヌはこの世界の人間の中では有数の実力者である。更に彼女が持つスティレットは、表面がオロハルコンでコーティングされている上に爆炎の魔法が封じられていて、突き刺した相手を内部から焼き尽くすという凶悪な武器だ。クレマンティーヌはこの武器と自身のスキルを使い、多くの人間を殺してきた。
しかし今回ばかりは相手が悪すぎた。
「おらあああっ!」
「………」
クレマンティーヌが気合いの声と共に連続で神速の刺突を放つのだが、シャインは自らが持つ巨大な盾で全ての攻撃を防ぐ。その上シャインはただ攻撃を防いでいるわけではなく、攻撃のタイミングに合わせて盾を突き出すカウンターを行なっていて、攻撃しているはずのクレマンティーヌの腕の方が逆にダメージを受けていた。そして……。
「なぁっ!?」
数度目の打ち合いの際、攻撃の衝撃に耐えきれずオリハルコンでコーティングしていたはずのクレマンティーヌのスティレットの刀身が砕け散る。それに対してシャインの盾には僅かな傷一つついておらず、その事実にクレマンティーヌは驚きのあまり固まってしまうという、戦いの最中で最悪な悪手を見せてしまった。
「…………ぐげっ!?」
戦いの最中で、しかも自分より圧倒的な強者を前に動きを止めるなど死ぬのと同意義であり、クレマンティーヌはシャインが突き出した盾によって吹き飛ばされる。そしてそのまま背中から地面に激突した彼女は、肺にある空気を吐き出し奇妙な声を上げるとそのまま気絶してしまった。
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