第4話 登場人物をどこまで設定するか

 森博嗣さんの作品の中でも、S&Mシリーズから始まる作品世界が好きで、おおよそを押さえています。

 その中に「犀川創平」という登場人物がいます。このキャラクターが、これから僕が触れる内容について、格好の教材になります。

 森博嗣さんの「すべてがFになる」という小説がありますが、これが森博嗣さんの第一作で、主人公は犀川創平、相棒は西之園萌絵、となります。さて、この「すべてがFになる」は、アニメ化、漫画化、実写ドラマ化、ゲーム化もされています。もちろん、それぞれの作品の中でイラストや役者になる犀川創平は、別人の外見になるわけです。

 僕が十代後半の頃は、設定作りを執拗に行っていていて、最初なんかは、登場人物一人一人の年齢、体型、髪型、癖、などなど、いろいろと詳細な「人物表」を作ったものです。徐々にやらなくなって、今では年齢と背景、程度しか決めていないのですが、果たしてそれが良いのか悪いのかは、神のみぞ知る、といったことになります。余談ですが、僕はプロットを作るときにも登場人物の名前がないことが多くなりました。ただ「主人公」とか「ヒロイン」とか、そういう呼称でプロットを書くのです。人物像を決めるのは後からで、プロットに合わせることもあります。

 僕は十代の頃はおおよそライトノベルしか読まなかったので、キャラクターをイメージするときに、文章だけではなく、むしろ文章以上に表紙のイラストや口絵、挿絵で、キャラクターをイメージしていた。それもあって、僕は今、登場人物の詳細な描写をしていない、という側面もあります。そして二十代以降に読んできた一般文芸では、ほとんど登場人物の外見の描写がない、ということも言えます。

 話を「犀川創平」に戻しますが、僕の中には、犀川創平、というキャラクターがすでに構築されていて、漫画を読んでも、アニメを見ても、実写ドラマを見ても、それが変わることはなかった。何せ、犀川創平というキャラクターのちょっとした所作さえも、僕の中の妄想で、思い描けるほどです。では何がそれを構築したかといえば、物語の中における「言動」となります。

 ライトノベルや一部の小説は別ですが、小説には基本的に画像や映像は付属しません。読者は文章を読んで、自分の中に像を組み立てるものだと思います。それどころか、最近の僕の感覚だと、登場人物の顔の作りとかは、逆に曖昧なままになる。小説を読むという行為は、アニメを見る、漫画を読むとは、やはりどこか違うのかもしれません。

 僕のここ最近のイメージには、登場人物の描き分けを、可能な限り「特徴」に頼らない、というイメージはあるかもしれません。これは僕の世代、萌えと呼ばれる要素が激しく燃え上がった世代は、直面した大きな問題かもしれない。僕の中の萌えの一番のイメージは「デ・ジ・キャラット」です。メイド服、猫耳、そして語尾に「にょ」を付ける。これだけ要素を盛り込めば、自然とキャラクターを立てられる。これがあまりに行き過ぎてしまうと、群像劇のようなものを作るに当たって、いい年をした大人が自分のことを「僕ちゃん」とか言い出したり、女子高校生が語尾に「ぴょん」をつけたりすることになり、途端に訳が分からなくなる。本当にテクニックがある人は、そういう突飛な設定を上手く使いこなせるし、あるいは一部の読者はそういう「創作らしさ」を求めているのかもしれないけど、僕はあまりそういう感じは、好きになれない、という個人的な主張になります。

 そのキャラクターのらしさを出すなら、言葉遣いや行動で描けるのではないかな、と思う。あまり異世界ファンタジーを読みませんが、四人組の男女のパーティがモンスターに遭遇したら、一人は武器を構え、一人は腰を抜かし、一人は逃げ出し、一人は失神する、というだけでも、四人を描き分けられる。僕のテクニックでは、例えば同時に四人の男が会話をしているとなると、だいぶ苦労しますが、少なくとも一人称を「俺」と「僕」にすれば二人を定義できる、と言えます。

 これは初歩的なテクニックですが、一人称小説で、誰の視点かを描き分ける問題は誰もが直面しますが、僕が多用しているのは、視点を二つに限定して、男の視点と女の視点にする、という手法です。読者に対して、今は一人称が「僕」だから男の視点で、今度は「私」になっているから女の視点なんだな、ということを示せるからです。だいぶ脱線しますが、僕は物語を書く中で、多くの視点が必要とはあまり感じません。二つあれば、おおよそは描けるのではないかな、という考えです。

 登場人物を定義することと、キャラクターを立てる、というのは別の問題だということは、僕も考えてはいます。しかし、設定でキャラクターを立てる、というのは、頭打ちというか、頭打ちではないにしても、訳のわからない方向へ突っ走るかな、と思います。ライトノベルを読んでいる時よりも、一般文芸や海外小説を読むようになって、キャラクターを立てるというのは、設定の専売特許ではなくて、物語そのものや、感情、価値観、行動、言葉で、補える要素であり表現可能かな、と思っています。

 次は、物語の捻りについて、書いてみましょうか。

 では、次回に続きます。


オススメ曲

MELLOW MELLOW「WANING MOON」

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