第3話 やたら長いプロットを書いてみる

 さて、プロットに関しては、前回に書いたように、最初は六分割、次は二十四分割程度、となるわけですが、プロット作りで「気づき」があった場面はよく覚えています。

 今は名前が変わりましたが、雑誌「電撃hp」で、短編小説のコンテストがあって、年に一回ほどでしたが、僕は二回ほど、送りました。一回だけ、一次選考を通過したのですが、その短編を書いた時は、夏休みの初日、徹夜して、一晩で書きました。確か、一晩で短編を二本、作りましたね。しかしこの時は、プロットはほとんどなかった気がする。しかし、一次選考を通過したことに気を良くして、この「電撃hp」の短編賞が終了し、電撃大賞に短編部門が新設されるという形で吸収されたはずですが、とにかく、電撃大賞に短編を送りつけてやろう、と決意する。一度に三本、短編を送って、そのうちの一つが一次選考を通過することになった。ここでやっとその「気づき」があったわけです。ちなみに、この三本の短編を書くときに変なテクニックを採用して、一本を最初から最後まで休みなく作業して書き上げる、つまり一日中、パソコンの前で書き続けた、という方式でやりましたが、意味があったかは不明です。今はやっていませんねぇ。

 それでは、その「気づき」ですが、その一次選考を通過した短編は、正確なところは忘れてしまいましたが、Wordで三十枚程度だったはずです。これを書くにあたって作ったプロットが、今までに作っていた長編用のプロットと同じような密度で組み見立てていた、と後になって気づきました。つまり、僕の中にあった「長編のプロット」は、実は「短編のプロット」のレベルだった、ということになります。この「長編のプロットで短編を書く」が、この「気づき」の瞬間から長い時間を経て、今も生きている、一つの鉄則です。

 時代を今に戻して、最近は公募から離れてしまって、ネット小説のコンテストを狙っていますが、文字数はおおよそ十万字になります。で、どういうプロットを組むかといえば、三十分割以上ある方がやりやすい。三十分割なら一つの部分で三千字を書く、という配分です。ただし、これは小説投稿サイトに掲載する時の一回の更新分では、文章の量がやや長いので、あるいはプロットを四十分割ほどにすると、さらに都合がいいかもしれません。一部分が二千五百字になります。

 どちらにせよ、今、僕はMacBookを使っていて、Pagesを利用していますが、プロットだけでも二ページとか三ページとかそれ以上になるわけで、やたら長い感じですが、ただ、これだけ分割すると、だいぶ書きやすくなります。ここに至ってみれば、六分割のプロット、二十四分割のプロットは、あまりにプロットとしては弱すぎた、と言えます。

 僕は森博嗣さんが好きでエッセイもよく読みますが、その中に、森博嗣さんはプロットを作らず、自然な流れで物語を書いている、という趣旨の話があります。これがおそらく、ネットに小説を投稿する人の大半のスタイルで、しかしそれが悪いわけではない。だって、趣味で書いているわけで、小説家になりたいわけでもない、という人に、文字数の制限や、様々な制約を設けるのは、あまり意味がない。プロになりたい人は、僕の主観では、常に終わりを意識したほうがいいのでは、と思う、という程度の考えですので、皆さん、ご自由にどうぞ、という具合でしょうか。プロットとは僕の中では終わりの定義に近いです。一つの章なり、一つの物語なりの、終わりを定義するわけです。

 僕のプロットの作り方は、世界観の設定をまず作って、それからおおよその物語のイメージを何日とか、何週間とか、考え続けます。イメージというのは、見せ場やオチ、瞬間的な光景などです。それらのイメージから、場面をいくつか設定して、その場面が増殖し、場合によっては場面をメモしていきます。このメモがプロットの一つの項目になることもあります。そうして場面と場面の連結から物語の筋を考えて、それがプロットになる、という具合です。

 この「物語の筋」というのがうまく説明できないのですが、例えば、主人公とヒロインが恋に落ちる、という場面を設定していて、主人公とヒロインが喧嘩する、という場面も設定していると、この二つは自然と連結する、とします。しかし例えば、それはあまりにシンプルすぎるな、とか、もっと捻りたいな、と思ったりしたら、恋に落ちる、から、喧嘩する、へと流れていく「筋」を捨てることもある。もちろん、そうなると捨てざるを得ない場面もある。

 具体例を挙げましょう。三つ目の要素として、「ヒロインが転校する」を設定すると、恋に落ちる→喧嘩する、の後に、転校する、をくっつけると、四つ目の要素やもっと具体的な場面として、「喧嘩したままヒロインが転校して消える」や「転校する寸前に仲直りする」という場面が、自然と浮かぶ。ただ、「ヒロインが病気になり、主人公と死別する」という場面が浮かんでくると、作者としては、この、転校、と、死別、のどちらかを選択しなくてはいけないかもしれません。もちろん、もっと複雑に出会い→喧嘩→転校の後に「再会」を設定して、転校→再会→死別という風に活かすこともできます。とにかく、こうやって、連鎖的に場面の組み合わせや取捨選択が、物語の筋を作り、プロットが出来上がっていきます。

 そんな風にして、場面をとっかえひっかえしていると、そのうちに、これはいいな、という筋が自然と見つかるし、先に出来上がっている筋から、こういう展開はどうだろう、と次が決まることも多いです。

 結局、プロットというのはあらすじとは少し違って、事前に物語の枠組みを作るようなものですね。僕のプロット作りにはあまりない要素として、各部分のキャラクターの物語上の選択、これこれをしてこうなる、みたいなものは決まっていても、キャラクターの心理は、事前には想定されていません。ただ、これも行動が決まっていれば、心理も決まる、かもしれません。その辺りは、キャラクターを動かす手法みたいな話で、触れましょうか。

 僕はつい先日、「小説家になろう」に何か上げようという気になり、四十万字を目安に長編を書きました。この時、プロットは十六分割でした。これは単純に計算しても、一つの部分で二万字以上を書かないと、予定の文字数に達しない。事前に先を見通して、まぁ、二万字ずつででも書くか、と決めていました。この見通しがきくのも、プロットの効果的な部分です。で、書き始めて、一番初めの部分が一万七千字ほどで完結したので、もういいや、とその後も各部分を一万七千字でまとめていった。こうすると、最後に至って、三十万字ほどでまとまった、という形になりました。

 この十六分割プロットから三十万字を書いたようなテクニック、手法は、まだ実験していて、始まりはつい最近、去年のファミ通文庫大賞からでした。カクヨムに上げている「支配された銀河の片隅で」がまさにそれで、この物語は世界観を雑に作って、一万字をまず書きました。この一万字が本当ならカクヨムコンの短編の方に登録されるはずが、意外にこの世界観は面白いぞ、と思い直して、それから一話一万字で、九つのエピソードを追加して、全部で十話、文字数で十万字と少しにして、ファミ通文庫大賞にエントリーしました。ただ、この時はプロットはなくても、世界観から、一万字で完結する物語を書くぞ、という気持ちでした。世界観が雑だったせいか、世界観の中で起こりそうな場面を想定して、その場面に必要な人物とその背景を書き出して、その人物設定、人物が生きる場面のイメージが一万文字の下地になる、という感覚でしたね。「支配された銀河の片隅で」はその後に、一万字が二十四本追加され、長編のストーリーが一つ、中編のストーリーが一つ、追加されて、完結となりました。短編の大半は結局、プロットなしのまま、登場人物の設定任せで書きましたが、流石に長編と中編は、それぞれにプロットを作りました。この作品の完成後から、プロットの作り方をまた模索していて、プロットの段階で設定する要素の配分が、今の僕の課題でもあります。

 あまり迂闊なことは言えませんが、恋愛の短編として、「出会う→惹かれ合う→ちょっと喧嘩する→お互いを理解して、より良い関係になる」というのも、四分割のプロットとしては成立しています。では、「出会う」の部分を「主人公のクラスにヒロインが転校してくる」とか、「隣り合った席になる」とか、そういう細部までをプロットで定義するかは、書く人のやりやすいようにするしかないでしょう。

 興味深い要素としては、プロットを書くと、書き始める前にプロットの内容を何度も繰り返し、イメージするわけで、そうしていると、プロットでは「出会う」しかなくても、どういう場面なのか、細部が自然と想像できる、ということがあります。

 もう一つ、面白い要素として、目標とする文字数と、プロットの密度、プロットの各部分で必要とみられる文字数、この三つの要素が、作者の思いもしなかった展開を生むこともあると感じることが挙げられます。プロットになかった場面をつけたして文字数を補ったり、必要な場面が生じて予定外に文字数が増えたり、逆にプロットの内容を描写するだけで文字数が多くなりすぎて、帳尻合わせで無駄をそぎ落とせたり。とにかく、プロットという奴は、実に面白い要素です。

 では、次回に続きます。



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