6. 妹の帰還

「ただいまー」


 私は玄関のドアを開けた。兄貴の、住む部屋。


 なんで鍵を持っているのかと言えば、ちょうど兄貴が家を出る時に鉢合わせしたからだ。


 どこいくの、と訊くと、「マイケルに呼ばれてる」と言った。ふーん、と聞き流したが、正直不機嫌だった。ひっさしぶりに妹が帰ってきたというのに、どこの馬とも知れない(異国の血だろうが)男の元に行くなんて薄情なやつだ。とはいえ、私たちの神出鬼没なんて今に始まったことじゃないので気にしてもしょうがない。


 兄貴は自分のことを旅人と言った。すぐに日本を発つつもりだろうか。仮住まいにしては部屋は小ぎれいで、ワンルームマンションにしては中は広かった。


 久しぶりに長居しようかな、と思う。兄貴に女の匂いがあればまずいかもしれない。風呂場を調査しようと思った瞬間、テーブルの上のアルバムに目が留まった。


「これ、私のアルバム……」


 私がT大を卒業した時のアルバムだ。今より少し若い私が、不貞腐れた顔で写っている。その横には満面の笑みの兄貴がいて、背後に厳格な顔をした両親がいる。


 そしてその写真の少し下に、ゼミの集合写真がある。私の横で笑っている男を、私は忘れることができない。


神童、慎一郎。

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500の世界 @moonbird1

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