第6話 切望

 彼女のペットになって良かったって思えることはたくさんある。でも、今日だけは自分がペットの身であることが辛い。何もしてあげられない自分が辛い。


 彼女は帰ってきてからずっと、元気がなかった。朝出かけるときは普通だったのに。

 だから、心配になって、足元をうろうろしてしまった。彼女はそんな俺を見ると、優しく撫でてはくれる。けれど、いつもとは何か違う、そう感じてしまった。

「どうしたの?何かあったの?」

 だなんて聞ければよかったのに、俺はウサギで話すことなんてできない。だから、俺は元気出して、って全身で表そうとして、そして、気付けば彼女の手をペロペロと舐めていた。


「何ー?今日は甘えん坊さんだなー」


 彼女は笑顔になってくれたけれど、根本的なことは何一つ解決してはいない。

 彼女の側にいられるのは幸せだ。でも、彼女が辛い時、悲しい時に何もしてあげられないのは辛い。

 人のままだったら、何もしてあげられなくても話くらいは聞いてあげられたかもしれない。でも、こんな姿ではそれもほぼ無理で……。


 俺には何もできないけれど、せめて、俺といる時だけは辛いこと、嫌なことは忘れて、癒されていてほしい。

 そんな事を切に願いながら、俺はずっと、彼女に撫でられていた。

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