第22話 隠し者

 東京都臨海副都心 皇海すかい街にあるシンボルタワー“ルシエルタワー”。塔の様に聳え立つ電波塔。230メートル程の高さの塔は、巨大高層ビルと同じで60階程度の高さになるだろう。

 楓達はそのタワーを降り、始めて街中を見たのだ。彼女達は今の今までこのタワーの内部で死闘を繰り広げていたのだから。

 闘っていたのは、“東雲しののめ”と言う人間と鬼との間に産まれた“半端者”。そして、“あやかしや人間”の魂を喰らい成長する“闇鬼やみおに”。更に東雲の右腕と思われるあやかし“斑目まだらめ”。彼等との死闘を終え生還したのであるが、街中は捕らえられていた人間達と、彼等を救おうとしている警察官達との攻防。更に規制線が至る所に張られ幹線道路は通行止状態。メディアが押し掛けないのが不思議な程に、高層ビル群の街中はパニックになっていたのだ。

 時代は平成、スマホが普及され少し経った頃。メディア媒体も多くなり、ネット時代と言われる頃だ。こんな異常事態に飛び付かない訳はない。

 けれども葉霧はぎりはそれを見てようやく悟った。

 (秋人の言う様に……“規制”が掛けられている。なるほど。)

そう、現実を知るにはいい機会である。それが良く解ったのだ。このパニック状態を見て。

 そして、隣の楓はその様子を見て俯いていたのだ。

 「かえで……。」

 葉霧は心配になり声を掛けた。が、彼女は応えず只……葉霧の腕をぎゅっ。と、掴むだけであった。

 (………楓………。)

 葉霧は只、心配でしかなかった。俯いてしまった楓が。

 「葉霧。」

 そこへ声を掛けて来たのは“玖硫鎮音くりゅうしずね”であった。葉霧の祖母である。彼女はルシエルタワーの入口付近で待機していたのだ。

 深紅の着物を着ており、白髪の髪はアップに纏めてある。150㌢程度の小柄な老女である。鋭い眼はブラウンの瞳が光る。

 そしてその脇には、深蒼と深紅”の忍び服”を着た少女達が居たのだ。髪型は腰元まであるポニーテール。大きな猫目が特徴的。双子であり、それぞれ深蒼と深紅の髪色、そして眼をしている。

 「鎮音さん……その者達は……“あやかし”か?」

突如であった。葉霧のライトブラウンの瞳は、碧色に変わり発光したのだ。そして、楓もその表情は強張る。葉霧から手を離し、

鎮音と双子のくノ一を睨みつけた。更に背中の“夜叉丸”を抜こうとしたのだ。だが、それは鎮音が制止する。

 「待て!」

 楓はその声と鬼迫に手を止めた。鎮音は楓を強く見据えて言う。

 「楓、葉霧、この者達は“敵”ではない。ずっと“玖硫”に遣えてきた“隠し者かくしもの”だ。」

 「えっ!? 隠し者っ!?」

 楓がその言葉に驚いて聞き返した。そう、“隠し者”は、“螢火ほたるび皇子みこ”が元来倒さなければならぬ存在を、手元に置き遣いにしていた存在。楓もその1人である。

 そして楓達“隠し者”は皇子を護っていた存在でもある。

 「どうゆう事だ? 鎮音さん、俺はこの2人を見た事がない。」

 葉霧は驚いた様にそう聞いた。すると、鎮音は応える。楓と葉霧を眺めながら。

 「当然だ。お前達には視えぬ様にして来たからな。私が。」

 「は? なんで??」

楓がそう聞き返すと、鎮音は言う。

 「本来“隠し者”とはそうゆう存在、“螢火の皇子”は“偉大”だった故に自身の命を護る存在を隠す事をしなかった。だからお前……楓、お前の存在は隠される事なく傍に置いていたんだよ。」

 楓は驚き蒼いくノ一、紅いくノ一を眺めた。彼女達はそれぞれ忍び服、髪色、瞳の色までもその色なのだ。

 「……てことは、コイツらは……ばーさんの“命”を護る“隠し者”?」

 楓はそう聞いた。鎮音は楓を強く見据えると頷いた。

 「そうだ。私の“隠し者”だよ。そして、玖硫にずっと遣えて来た“化猫ばけねこ”だ。」

 「「化猫っ!?」」

 同時に言ったのは楓と葉霧である。葉霧は碧の眼で双子を見た。大きな猫目を2人はしている。

 「ああ……言われれば猫っぽいかも。」

 葉霧はそう言った。すると、鎮音は葉霧を見て言った。

 「今後は姿も視える様にするし、寺を護って貰う。葉霧、お前の“隠し者”として遣えて貰う。」

 だが、葉霧は鎮音を見て直ぐに言った。

 「いや、それはいい。」

 「は?」

 鎮音は目を丸くした。葉霧は驚く鎮音を見て微笑んだ。

 「俺には必要ないよ、鎮音さん。彼女達には鎮音さんを護って欲しい。俺はきっと……“貴女を護れない”から。」

 葉霧のその言葉に鎮音は面食らった顔をしたが、直ぐに フッ…と、柔らかく笑い葉霧の隣できょとん。としてる楓を見た。

 「ああ……そうだったな。要らぬお節介か。いや……“重荷”だったな。」

 鎮音はまるで独り言の様に言うと葉霧を見た。真っ直ぐと強い目で。

 「好きにしな、葉霧。お前は“退魔師”だが、1人の男……人間だ。」

 葉霧はそれを聞き強く頷いた。言葉は発さなかったが。隣の楓は蒼と紅の双子をじぃっと見ていた。

 (化猫っ!? え? 何処がっ!? そんな要素ねぇんだけども。)

 そう、どう見ても化猫には視えなかったのである。

 

  

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