第19夜 再会

 60階の展望台で、かえで葉霧はぎり穂高沙羅ほたかさら新庄拓夜しんじょうたくやが不穏な会話をしている時であった。

突如動いていたエレベーターの扉は開く。展望台に真っ先に飛び出して来たのは、ブロンド髪をした“雨宮灯馬あまみやとうま”だった。

 「葉霧! 楓!」

 エレベーターから飛び出して来るなり、彼は楓と葉霧の元に、駆け寄ったのだ。白のロンTにブルーのデニムパンツ。被っていた黒のキャップはデニムパンツの後ろのポケットに突っ込んである。

 「灯馬!」

 声を発したのは楓だ。葉霧も ほっ。とした様な顔で駆け付けた彼を見たのだ。更に、碧の瞳はいつしか落ち着いて今は通常のライトブラウンの瞳に戻っていた。

 その瞳はエレベーターから続々と降りて来た仲間達を見ていたのだ。

 「大丈夫か? あ、葉霧、鎮音しずねのばーさん来てる。」

 灯馬の声に葉霧は彼に目線を向けた。

 「え!? ばーさん、居んの??」

驚き声を発したのは楓だった。灯馬は楓を見ると頷いた、ああ。と。

 「どエラい事になってんよ? 外。つか、自衛隊のヘリも飛んでたな。アレじゃね? これニュースになんだろ?」

 灯馬が言った時だった。

 「や? マスコミは来てなかったな。“規制”掛けたんじゃねーか?」

 そう言ったのは“雨水秋人うすいあきと”だった。黒のロンTに濃いブルーのデニムパンツ姿だが、整った顔立ちをしてるのでシンプルコーデでも映える。さらさらの黒髪に、ブラウン混じりの黒い瞳。身長は180超えと、葉霧や灯馬より少し低い程度だが、体格はがっちりしている。灯馬の脇に立つとちょっとシャープな目は、鋭く葉霧を見据えた。

 「あー…あるよね? それ。」

 答えたのは沙羅だった。すると、脇に居る拓夜が言った。

 「今回の事を警察がどう公表するのかは解らないけど……あれだけ人が関わってるし……隠すのはムリだと思う。」

 それを聞いて答えたのは葉霧だ。

 「公表するならしたらいい、それで危機管理出来るなら。このままで終わるハナシじゃない。どっちにしても人間にも関わって来る。今迄みたいに視えない。では済まないだろ。」

 彼は何処か憂いた表情だった。楓はそれを聞きちょっと不安そうな顔をした。

 「や? けど……今の時代であやかしの存在を公表したら……、パニック状態なんじゃねぇの? しかも幻世うつせの連中だぞ? 今迄、この世界で身バレしねぇ様に共存してた奴らとは違う。」

 話を始めた楓を面々は真剣な表情で見ている。楓は、更に言う。

 「何するか解かんねぇんだ。今回みたいに人間を捕縛して喰うかもしんねぇ、そんなのが現世げんせに居るって聞いたら、今の人間は……慣れてねぇからパニックだ。公表は止めた方が絶対にいい。生活も全てが狂う。」

 楓は真剣な表情でそう言った。

 「や? けど……知らねぇ方がおっかなくね?」

 灯馬がそう聞いた。

 「じゃあ、お前ら全員、穴掘って地下にでも籠もるんだな、それで命守れるか知らんけど。いつ終わるか解かんねぇんだ、幻世うつせはなくなんねぇ、この現世げんせがなくなんねぇのと同じだ。」

 楓は少し強い眼差しで灯馬を見据えて言ったのだ。

 「待て、楓。今、そのハナシしても仕方なくね? つか、聞きてぇのはその後。東雲しののめは?」

 秋人が話を遮った。葉霧は少し心配そうに楓を見ていたが、その言葉に口を開く。

 「倒したとは思ったが……。」

 不安そうに言ったのだ。

 「が??」

 灯馬がツッコんだ。すると、楓が言った。

 「東雲はたぶん生きてる。」

 「え?」

葉霧が楓を見たのだ、とても驚いた様に目を開いて。

 「来たんだ、変な奴が。マントみてーの被ったデケー奴、ソイツが東雲連れてった。」

 楓はそう言った。

 「は?? 楓、お前指咥えて見てたのかよ??」

それに少しキレ気味で言ったのは灯馬だった。

 「バカ野郎っ! 葉霧放置して追えっかよ!! オレは葉霧最優先! 葉霧様命っ! 葉霧王子様が大事っ!!」

 鬼娘楓の渾身の愛の告白が灯馬を攻撃した。灯馬は、あっそ。と、呆れ返ったのだ。そして……

 「「あっそ。」」

 沙羅と秋人も呆れた様に言ったのだ。拓夜は隣でにやにやしていた。何故なら、常にクールフェイスの葉霧がその頬をぴんくに染めて、照れた様な顔をしていたからだ。

 (くぅ〜〜…純愛っ❤)

 拓夜は何故か照れていた。頬が真っ赤になっていたのだ。

 「つか、ソイツはその幻世うつせから来た奴なのか?」

秋人が気を取り直したかの様に、葉霧に負けず劣らずのクールフェイスで言ったのだ。

 「解んね、たぶんそーだとは思う。顔が見えねぇし、気配はちょい強め程度だった……隠してんだろ。」

 楓がそう言うと葉霧が少し気難しい顔をして言った。

 「東雲の言う様に“この世界を創り変える”のが目的なら、仲間が居ても可怪しくはない、幻世から呼ぶ為に一連の騒動を起こしてたとすれば全てがハマる。」

 灯馬と秋人は目を丸くした。だが、灯馬は言った。

 「あ〜……“闇喰いの巣”だったな、幻世とコッチの“通り道”、それを探してたんだったよな? 東雲は。」

 「ああ、遥か昔から“螢火ほたるび皇子みこ”を始めとする“退魔師”が警戒し、護って来た闇の通り道だ。封印も施され閉じてたが、東雲はそれを探し出して封印を解いて回った。」

 葉霧が言うと秋人が口を挟む。

 「それが東雲を連れ去った奴、、、その他を呼ぶ為にやったと?」

 葉霧は頷いた。ああ。と。

 「今回の騒動は序章に過ぎない、いや……準備が整った状態なのかもしれない、東雲達にとって。ココから始まる、本当の“恐怖と殺戮”が。」

 葉霧の眼は鋭く尖り灯馬と秋人を見据えていた。そして、彼は言う。

 「灯馬、秋人。お前らも無事では済まないかもしれない、今の力を大切な者を護る為に使って、俺達に関わらない様にするのが得策かも。」

 けれど、それを聞いて激昂したのは灯馬だった。瞬時に眉間にシワ寄せて葉霧を睨みつけ怒鳴ったのだ。

 「ざけんなっ! 言うとは思ってたよ、いつかな! けど、コッチは答えは決まってる! お前らに関わるって決めた時から。ナメてんじゃねぇぞ! 葉霧!」

 葉霧はそれを聞き微笑んだ。は? と、拍子抜けしたのは灯馬だった、瞬時に きょとん。と、したのだ。隣では秋人が笑っていた。

 「言うと思ってたよ。確認だ、悪く思うな。灯馬。」

 葉霧の言葉に灯馬は呆れた様な顔をした。

 「お前な? 性悪も大概にせいや。」

くすっ。と、葉霧は笑っていた。

 (コイツらって……いい仲間だよな。灯馬も秋人も……水月も、夕羅もタダの人間だったのにな。)

 楓は秋人に誂われる灯馬と、それを見て笑う葉霧を眺めて笑っていたのだ。 

 

  

   

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