第15話 説教

 ベイクが目を覚ますと、ベッドに寝ていた。しかし暫く前から意識があったり無かったり。やっと落ち着いて起き上がると、身体中は手製のガーゼでぐるぐる巻きにされていたし、酷く腹が減っていた。


 そこには見覚えがあった。意識が飛んだからよく分からなかったが、1度だけ訪れた事がある。イーナ診療所だ。


 がたんと大きな音がした。戸口にイーナが立っている。洗濯籠を落として目を見開いている。

 やがて、泣き出した。


 食事は食べ切れないほど出てきたが、それ以上に消化し切れないイーナの話の数。キリがないので受け流さずに聞く事にした。


 「つまり、2日寝ていたのか?」


「そうよ。寝てたって言っても最初は心肺停止だったんだから。私が術で治療し続けたから鼓動が戻ったのよ。あなた白目剥いて血塗れの泡塗れであの化け物と血溜まりの中で倒れてたんだから」イーナは向かいに座って肘を突いてベイクが食事をする様を見ていた。


「イーナがここまで運んでくれたのか?」


「違うわ。迎えに来てくれたのよ」


「村人が?」


「いえ、もぐらさんと仲間達よ。森の見た事無い住人のみんなが建物にどかどか入って来て貴方を運んでくれたのよ」


「化け物どもは?」


「全員やっつけたんじゃ無いかしら。あの屋内には生きているのは居なかったわ。と言うか、覚えて無いの?」


「意識は途中で途絶えてた」


「どれだけ...」イーナは笑い出した。「あんたの方が化け物ね」


「もう懲り懲りだ。5回死にかけた」窓から遠い目をして、ベイクはため息をついた。イーナは洗い物をしていた。


 「みんなには何も話して無いわ」


「それがいい。話さなくていい」


「今日は泊まるでしょ?」


「え、うん」


「夕飯も作るわ」


「ありがとう」


「こちらこそ。みんなの代わりにお疲れ様」


「少し寝るよ」


夕方起きたベイクは昼ごはんが遅かったため、夕飯も軽めだった。中でもヤギの乳で作ったチーズが美味だった。


 夜更、ベイクは森に1人で居た。


 「もし」聴き覚えのある声。


 「君か。ありがとう。村まで運んでくれたらしいな」ベイクは立ち止まった。


「あなた」もぐらが穴から顔を半分出して話しかけた。「あなた、間違えてますぜ」


「何がだ?」ベイクはややむっとした。


 「このまま何も言わずにさよならなんて酷すぎますぜ」


 ベイクは無言だった。


 「何というか、寂しすぎます。あなた女子を知らなさすぎる」


「行くって、言いにくくてな」


「あなた、男らしく無い。あなたの私情も入ってるでしょう。卑怯ですぜ」もぐらは淡々としている。


 「...言えと?」ベイクはもぐらに目も合わせない。


 「愛せないなら、言うべきじゃ無いんですか?」


「別れを?」


「さよならをゆうべきですよ。言って欲しいはず。さあ、もう1度帰って」


ベイクは途方に暮れたような感じがした。村に帰って、イーナに会って別れを告げるには勇気が要る。言えないかもしれない。


 「人間って不思議ですね。惹かれあっているのに結ばれようとしないなんて。さあ、さあ、帰った帰った」


言えるだろうか。分からない。

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悪魔狩り 〜ギュスタヴ・サーガ〜 山野陽平 @youhei5962

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