第25話 漂着

 全身の痛みで目を覚ました。

 意識を失っていた間に朝になっていたようで周囲は明るくなっていた。

 体を起こして辺りを見ると見覚えのない砂浜が広がっていた。大量の漂着物が流れ着いていてとても綺麗とは言えない。

 後ろを振り返ってみると鬱蒼とした森が広がっている。


「そうか、出航して少ししたとき、海が荒れてきて、漂流したんだっけ?」


「おお、目が覚めたか。大丈夫か?」


 声のした方向を向くと半裸でびしょ濡れになったキムツジさんが立っていた。


「キムツジさん……。はい、大丈夫です。他の皆は?」


「ナギサ君が安全な廃墟を見つけてくれていてな。そこでレイナ君を休ませている」


 全員無事だとわかってほっとしたが、問題は今どこにいるのかまるで分らないことだ。

 瀬戸内海には無数の島があると聞いたことがある。四国ではなく小さな孤島に流されてしまったのだとすれば、何とか脱出する術を早急に考えなければならないだろう。


「さあ行こうではないか。食料は何とか確保したのでな。こいつを食べて飢えをしのごう」


 キムツジさんが漂着物であろうオレンジ色のネットに入れていたのは小型の魚とタコであった。


「どうやってとったんです?釣り竿なんてないのに」


「そりゃ、海に潜って槍で一突きしたに決まっているだろう」


 そういって背に隠れていた連結槍の刃を見せた。これで濡れている理由もよく分かった。

 僕は立ち上がって、服にこびりついた砂を払い落した。


「よし、じゃあ行くかな。ついてきたまえ」


 獲物を担いだキムツジさんについて森の中に入ると、地面はアスファルトで、いくつもの建物も見えるがそのどれもが木々に飲み込まれていた。

 九州にいた時も、山口から広島までの道のりでも、整備されていないから建物が倒壊していたり、アスファルトにひびが入っていたりということはあった。それは15年も整備されていなかった事とモノノケの出現によるところだ。

 しかし、ここはそれだけでなく植物の急激な成長が見て取れる。これは瘴気の影響なのだろうか?瘴気なんて植物を枯らすものだと思っていたのだが逆に成長を促進させるのだろうか?

 

「着いたぞアスカ君。4人で過ごすには狭い室内かもしれないがまあ我慢してくれ」


 考えながら歩いていたら廃墟に着いたらしい。やけに大きな天井が目立つ建物に残された看板にはガソリンと書かれている。併設されている建物のドアを開けると、古びたテーブルに壊れた椅子、そしてそこに似つかわしくない綺麗なソファが置いてあり、レイナが横になっていた。

 レイナの顔色は広島から逃げるときに比べて幾分かよく見えた。


「あら、アスカ君目が覚めたのね?」


 建物の奥からナギサさんがボロボロの布っ切れを抱えて現れた。


「はい。全身痛いですけどね」


「まあ、命あって何よりってところね。休んでて。食事の準備は私とキムツジでやるから」


「はい。……ところで、なんで僕だけ砂浜に取り残されてたんですか?」


 なんとなく疑問だったことを聞いてみた。ナギサさんは僕の横をすり抜けて扉の前に立つと口を開いた。


「……ああ、それはね、つい数分前にレイナをここに運んだところでね。あのおっさんは食糧確保で海に潜っていったし、私じゃ人一人運ぶのが限界だったからね」


「そう言うことで納得しておきます」


「……本当だからね?忘れてたわけじゃないからね?」


「そう言われるとますます怪しくなってきますよ?」


「嘘じゃないから!」


 そういって外に出ていった。

 外では何やらキムツジさんと話しているが遮音性が強いのか案外会話内容は聞こえてこない。

 僕は建物内にかかっていたカレンダーを見た。日付は14年前の3月のままとなっている。そのほかにも何やらチラシが張ってある。その中の一つにかろうじて所在地が読めそうなものがあった。そこには愛媛県松山と書かれている。途中からは劣化によって読めなくなっていたが、これのおかげではっきりしたことがある。

 どうやら僕たちは四国へと何とかたどり着いていたということだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

暁天のアスカ ひぐらしゆうき @higurashiyuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ