第21話 研究施設

 ロープを使って窓から教会内に侵入した。

 教会の中は石造りで圧迫感と冷たい雰囲気を感じた。僕はこんな場所にずっといられるだろうかと考えたが、すぐに嫌になって外に飛び出してしまいたいと思った。

 

「うまいこと侵入できたな。よし、ここから地下に向かうぞ。そこに研究施設があるはずだ」


「遺産の回収は?」


「今回の第一目標は研究施設の情報確保だからな。そのあとでいい」


「そうだったわね。じゃあさっさと行きましょう」


 暗い室内を明かりもない中、足音を立てずに素早く行動する。きっとこの教会内の地図が頭の中に入っているのだ。僕は急いで二人についていった。

 通路の脇に大小さまざまな部屋がある。どの部屋も扉が付いておらず、中は丸見えだった。とにかく質素で部屋の中にあるものは机と椅子、ベット、本棚と箪笥が一つだけ。まるで牢獄の中のような感じがした。

 通路を進んで教会の西端に下へと続く階段があった。細く段ごとに高さがバラバラな歪で縦に並んで降りていく。

 地下に降りると先ほどまでとは打って変わって近代的な施設に出た。


「これは……」


「アスカ君。ここからが正教の裏の顔というやつだ」


「正教の裏の顔?」


「そうだ。さあ、行くぞ」


 扉を開くと見たこともない装置が所狭しと並んでいる。その中でもひと際目立っていたのは人一人が入れそうなカプセルであった。パイプがつながっていて何かを注入する装置があるようだ。


「なんだ、これは……」


「あら、これはすごいわね」


「うむ、これほどとは思わなんだ。カメラあるな?」


「もちろん。はい」


 二人は手際よく研究施設の資料や設備をカメラという物に収めていく。


「これは、とんでもないことをしてるな」


 キムツジさんは資料を見てそう呟いた。僕とナギサさんもキムツジさんの持つ資料に目を通す。

 そこには人体実験を行った結果を克明に記されていた。研究の内容は動物へ大量の瘴気投与であった。資料をめくっていくと今度は動物実験から、人体実験の項目になった。あの大きなカプセルは人体実験のための物なのだ。

 その人体実験の項目には多くの人の名前、その横には×印が並んでいた。きっと実験の結果、亡くなったか、モノノケに変貌したということなのだ。

 その中に唯一〇が書かれている。その横の名前はカンザキ・レイナだった


「そ、そんな……。レイナはここで瘴気を……」


 とても信じられなかった。しかし、これは事実なんだ。こんなことが行われていたんだ。

 正教は僕たちを助けてくれた。善意のある素晴らしい教団であると思っていたのに。


「そういうことだな。情報として聞いてはいたが、本当だとは思わなかった」


「キムツジさんは知っていたんですか?レイナがこんな実験をされているのを」


「いいや。それは知らなかった。ただ、こういう実験が行われているのは聞いていた。しかし……なあナギサ君よ。巫女が人体実験の被験者になっているなんて情報はあったかね?」


「そんなこと聞いたことない」


 研究の目的は瘴気による体の影響や抗体に関するものだったようだ。レイナの人体実験結果はどの資料よりも多かった。

 巫女としての素養が大いにある被験者レイナは瘴気を投与することで体組織や染色体に変化が起こることを確認。アルビノのような状態となって、通常の巫女以上の神通力を発揮できるようになることを確認。この結果はいち早く教祖に伝えること。

 そして最後には、この研究結果をもって必要な情報は十分に得られたと考える。巫女の必要性はすでに無いに等しいとして、事故に見せかけて処分することを進言するようにと書かれていた。


「おい、ナギサ君!これは」


「各地の巫女が亡くなっているのはこういうことだったのね」


「遺産回収どころじゃないな。一刻も早くレイナを回収しよう。このままここにおいておけば殺されるだけになるぞ」


「ええ、そうなったら政府としても大きな痛手になる」


「どういうことです?政府の痛手って」


「それはまた後だ。アスカ君。今はレイナ君を助け出そう」


「はい。もちろんです」


 まだ頭の中は混乱している。だが、今はレイナが殺されるかもしれないという状態なのだとわかったのだから助けに行かなければ。だから今は何も考えないでただ、レイナの元に行くんだ。


「急いで上に行くぞ。ナギサ君、巫女の部屋は?」


「教会最上階よ」


「よし、急ぐぞ!」


 僕たちは走って研究所を出ると、階段を駆け上った。

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