オレンジで遊ぶのはやめましょう。

白石 幸知

オレンジの種を拡散させるのは掃除が大変なのでやめましょう。

「うっ、沁みるう! やめろっ、やめろって島松っ!」

「……って言っているけど、どうする? 古瀬さん」

「……もっとやっていいと思うよ? 島松君」

 東京都の東側、八王子にある大学から程遠い島松のアパートに集まった三人はテーブルにお菓子を囲んでなんちゃってパーティーを開催していた。

 主に、左手で両目を覆っている星置をとっちめるために、だが。

「わかった」

 島松は不健康そうな血色の悪い肌をした右手でオレンジをさらに力強く絞っては、オレンジの汁を悶え苦しむ星置にかけ続けている。

「おまっ、ちょっ、タンマタンマ! マジでストップ! オレンジに謝れ! ぁぁ、種が、種が目にぃぃ!」

 力が有り余ったのかオレンジの種すら拡散し飛び散ったようだ。半月に象られた白色のそれは星置の目に留まらず頬や首筋にまで行き渡っている。

「これくらいでいいよ、島松君。これ以上はお家汚しちゃうから」

「ん、わかった」

 古瀬は少しむすっとした表情を浮かべつつ、きちんと剥いたオレンジを頬張る。

 本来のオレンジの楽しみかただ。そもそもオレンジを絞るってどういうことなんだか。理解に苦しむよ。まったく。

「な、なんで俺がこんな目に……」

 涙目になってそんな悲鳴をあげる星置は、適当に置いてあったティッシュを乱暴につかんでは自分の目とか顔とか首を拭く。

「いや、話を聞く限り、今回警察沙汰になったのは星置の暴走もあったからかなあって思って」

「上川君と栗山さんはそもそも気にしないというか、むしろ自分に非があったとか思っていそうで、綾ちゃんは年上だからあまり……。っていうことで私と島松君でお仕置きをすることにしたんだ。このオレンジ、美味しいね、酸味がほどよく入って私は好きかも」

「あ、ほんとだ。俺も好きだこれ」

「お前ら、散々オレンジに対する冒涜をしておきつつふたりだけでオレンジを楽しみやがって」

 一通り拭い終わったのか、星置は抗議の視線を島松、古瀬に送る。

「そもそも上川がもうやめようって言った段階でやめておけば、少なからずこんな事態にはならなかっただろ? 上川本人はともかくとして、無関係な上川の先輩まで巻き込んでいるんだからな? 今回」

 図星を突かれたため、星置は言葉に詰まる。

「今のご時世、正面突破だけが手段じゃないだろうし。証拠がないなら作ればいいだろ? ツイッターなり使うなりして情報集めるとかさ。この手の話はわんさか溢れているよ? きっと。まあ、集めた話を精査するのも大変かもしれないけど。被害の証言集めましたとかでも大学が動くきっかけにはなったかもしれないし」

「ほんと、上川君と栗山さんが無事だったから済んだけど、星置君には猛反省をしてもらわないとだよ。第一、そんな重たい内容をどうして上川君だけに相談したの。私たちに話すとか、初めからちゃんとしたところに行くとかあったよね?」

「ぐっ……」

「上川君も上川君だけど、星置君もだよ。もうこんなトラブル持ち込まないでね?」

 両腕を前に組んだ彼女を目の当たりにして、星置はぐうの音も出ない。普段は温厚な彼女がここまで強めの言いかたをするのも珍しいからだろう。

「わ、わかりました……」

 今日の主役の男は仕方なく、といったように両手を上にあげて降参の意を示す。

「じゃ、今日の払いは星置ってことで。オレンジ代・お菓子代・ジュース代よろしくー」

「レシート置いてあるからね?」

「う、嘘だろ……? 俺この間の行けなかった飲み会代を上川に返したばかりで金欠だってのに……って五千円……? どんだけ高いオレンジ買ったんだよお前ら……!」

「えい」

「ぐっ、目が、目がぁぁぁぁ!」

 最後の一撃とばかりに古瀬は持っていたオレンジを絞ってはオレンジ汁を星置に直撃させる。

「汁も零したらだめだからなー星置」

「お前らドS過ぎねえか?」

 オレンジまみれのパーティー、改め反省会は、陽が沈むまで行われた。

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オレンジで遊ぶのはやめましょう。 白石 幸知 @shiroishi_tomo

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