【始まりの街】とアイドル級女の子!?
オレはさっきの真っ白な空間から飛ばされて、何処かで倒れていた。
匂いが鼻に入り込む。それは大地の匂いであった。土臭さと、青臭い草の匂いが一辺倒で押し付けてくる。
オレの意識は正常を保とうとし、重い瞼を開けようとするが、暗闇からの強い日差しは痛く、感じる風は心地良かった。
「うっ、痛ててて……こっ、ここは何処なんだ?オレは何処に飛ばされたんだ?」
飛ばされた際に頭を打ったのであろうか、強い頭痛が襲う。オレはここで気付く。体から脳への痛みを察知し、感覚で捉えていることを。
先ずは、立ち上がる事に精を出す事にした。
そして、立ち上がると人々の声と共に街並の風景が目に飛び込んで来る。
感動という名の元で、目に映る光景を確かな物と認識しながら風景を見渡すと、そこは中世ヨーロッパをイメージ出来る風景が並ぶ。
岩肌が顔を出し、化粧材として見える木材で構造されている民家、そして垂木に布を被せ雨除けとしている露店、中には背が高く、岩を彫った様に彫刻を施して、屋根の先端は細く鋭利に伸びる教会のような建造物、また岩壁で囲まれている城らしき建造物が見える。それはまるで、中世のヨーロッパにタイムリープしてきた…そんな感覚に襲われていた。
オレの目を疑う光景ばかりであった。
そして呟くのだ–––。
「すっ、すげぇ〜、ここが始まりの街か?つか…イッ、イケメンに…なりたかったよ〜!!オレの仮想空間モテモテライフがぁ〜!!何がっ、何がTheイケメン、カンペキイケメンだよっ!?オレのまんまじゃねぇかよぉ〜!!くそぉ〜!くっ…にしても……」
息を呑んだ–––。
「ホントすげぇーよ!人だってこんなにも一杯いるし!なんてとこに来ちまったんだよ?オレは!」
街の風景に圧倒されて、人混みで賑わっている露店市場の方へと向かおうとした時だった。
「う〜ん…待てよ!?取り敢えず、メインメニュー見てみるか?」
メインメニューを開く–––。
開いたメインメニューの右端に、現在の仮想通貨(ジェム)の所持金額が記されていた。
「げっ、所持金ゼロじゃねぇかよ!?あいつ〜、金もよこせよなぁ?これじゃあ、装備だって買えやしねぇし…まてよ……?これじゃあ宿にも泊まれねぇじゃねぇかよ!?」
風景に圧倒され、その勢いで露天市場に向かおうとしていた躯体はガックリと折れ曲がってしまった。
そして地面に腰をつく。
「あぁ…どうしよう?所持金ゼロはひどくねぇか?大体のゲームだったら最初幾らかはあるだろ?どんだけ不親切なんだよ!?」
賑わっている街中にいる、NPC(ノンプレイヤーキャラクター)らしき人々と、頭上に緑色のマーカーが着くプレイヤーらしき人々を見ながら放心状態に浸っていた。
通り過ぎて行くNPCとプレイヤー達を眺めていると、1人の女性プレイヤーに目が行く。
オレは優しそうな瞳に魅かれ、その瞬間立ち上がる。
彼女は黒よりも少し薄いブラウン色に近く、艶のある髪、背丈はおおよそ150センチ前後、年齢は見た感じだと10代後半くらいである。
その顔立ちはアイドルさながらであった。
服装はオレと対して変わらない、初期の格好をしていた。防具などの装備は身に着けていない事から、きっと初心者であろうと判断した。
初期の格好とは、ミスリルの様な輝きを放つ長袖のトップスに近い服の上に、動物らしき革で覆われている胸当てに、腰には武器を取り付けられそうな革ベルト巻かれ、下はそこらで見かける特に変わったとこは無いボトムを身に着けているだけであった。
彼女の方はと言うと、オレの服装の下がミニスカートに変わったくらいである。男性プレイヤーはボトム、女性プレイヤーはミニスカートなのであろう。
お互いまったくの初心者らしからぬ姿は、販売され間もない事もあり、行き交うプレイヤー達の中では、それが普通に見えたのだ。
NPCとプレイヤーの違いは分かった。NPCとはこの街の住民であろう。商人であったり、農民のように決して中世ヨーロッパであれば貴族。と言うような格好でないと判断できた。
黒く日焼けしている者、露店で呼び声している者、皆質素な生活をしている様な白い綿の服が目立つ。決して綺麗とは嘘でも言えない。中には破れ、土汚れがあるがそのまま着ている者もいる。それでもこの街の人々の様子は笑いに溢れていた。
その中には迷いながら彷徨。そんな様子が見受けられるプレイヤーもいたのであった。
しかし、彼女の動き方は他の者とは違うと確証があった。
迷う素振りもなく、ただ目的地に向かって歩く。そんな様子が伺えたのだ。それが、オレのこの地面に叩きつけた腰を上げる原動力になったのであった。
そして、オレは彼女のもとへと駆け出す。
「早っ!!」
流石は【AGI】極振りの動きであった。瞬く間に彼女の側へと……
「あっ、ねぇ、ねぇ、ちょっと…」
彼女の肩に手が近付く時だ。彼女の視線は突然の出来事の様な目つきでこちらを振り向いた。
「あっ、はい?何ですか?」
意外とその答えはあっけらかんとした言葉であった。それはどこか抜けている様な…
「ねぇ、このゲームさ、最初所持金ゼロからでしょ?泊まるとことか……つか、お金稼ぎたいんだけどさ、どこがいいかな?今ログインしたばっかなんだけど」
彼女は身に覚えがあるらしく、ある方向を見て言った。
「この"始まりの街"の奥に行ったとこに、【森と泉】っていうフィールドがあるから、そこでならまだ初心者の私たちでも狩出来るモンスターいるし…それ繰り返してモンスターのドロップとお金?後スキル手に入るから…最初はそこ行った方がいいかも!」
その声は感高く、響きは良かった。
彼女と同じ方向を向き、方向を確認して彼女のもとに視線をまた移す。
「よっしゃあ、分かったよ!サンキューな!」
「ううん!頑張ってね!」
微笑みかける彼女の姿–––。
その言葉を最後に、オレは彼女のもとを後にした。
「良しっ!じゃっ…狩行きますか??」
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