拡がる種

同画数

拡散する種

「貴女には子供を産んでもらう。」




これがプロポーズてあったなら、これが夢であったなら、こんな不遜な言葉だって少しは輝いて、自分の価値を信じられただろうか。


ひどい言葉だ。

俺には少しだって魅力的に感じない。

存在を邪険にするものを認めてなんかやらない。男の俺でさえそう思う。


だけど俺の隣の乙女はひどく夢見心地なうっとりとした顔で先程の言葉を発した見目のいい男の顔に見惚れている。


「はい、王子様…!」


しらけた顔で冷たい視線を浴びせる俺は、隣の子の肯定の言葉に他人事ながら“なんてことだ…!?”と思った。


まぁ、俺と彼でここまで反応が異なるのはは立ち位置というのが一番の理由だろうか。


王子の子供を産むといった先程の今時の女子高生風の出で立ちの彼女は田代真奈美、異世界を救う乙女らしい。

そして俺はその乙女の召喚に巻き込まれた、事故で異世界まで来ちゃったおまけ。


そう、俺は異世界に来た。それもわりとよくある男女比がおかしい系の世界。この異世界ではなんでも女が少なく、男が多いらしい。女が少ない理由は、昔子供がかかる病気が蔓延し、男児も少なくない割合亡くなったらしいが女は乳児から中年までの多くが亡くなったから。そこで病気にかからない女を生むため、異世界の乙女を召喚した。

だから田代真奈美にその病の効かない女児を産んでもらいたいらしい。





お分かりいただけだだろうか。男が結婚できずにあぶれるこの世界、男の俺が召喚された。俺は間違いなく厄介者だな。

現に王子と田代真奈美が見つめ合うこの場所に居場所がない。



「すみません」

「あなたはオノレーヤですね。」

「どなたかこちらの世界について教えてくださる方を紹介してくれますか。」





俺はまあ思う。出産って女の方が大変じゃん?で、明け透けな言い方するなら男の方が撒き散らせるわけだ。しかも、異世界の遺伝子と言うのはなにも田代真由美だけでなく、異世界人の俺も持っている。この世界の病が効かない遺伝子とやらを。





ーーーーーー




ここで一つ面白いことが分かった。


この世界で男女の関わりは、子供を産むためのものだ。そのため多くの子供を産んだ女、女児の出産経験のある女の地位はとても高い。そして、その女に子供を生ませた男の地位も高くなる。


そんな世界。多くの男が少ない女を大事にするようになっている。

しかし例外もある。

子供を産まない、もしくは産めない女だ。

彼女達は多くの男から冷たい目で見られる。社会に貢献していないと見なされるのだ。

産めない女は静かに距離をとられ、産まない女は時として酷い中傷さえ受ける。


女の権利が認められる世界なのではない。義務を果たすことで地位が高まる。義務を果たせないまたは、放棄する者に社会はひどく排他的だ。



一部の女にとって理不尽に生きずらい世の中なのだ。

そんな女の事情を知ると、この世界では、男の方が気が楽かもしれない。


多くの家庭は一妻多夫であれ、女と結婚できるやつは運の良いやつ。ほとんどはあぶれ、街中でたまに見る女を見て楽しむ。たまに女をめぐって刀傷沙汰。女児が生まれたときだけその特徴から誰の種だと言い争う。それが誰の男の種だと思われるようだと、その男の地位が上がる。

偶然にでも地位が上がれば、他の女からもお声がけいただける場合もある。



「オノレーヤ!」

「シア、お願いだから走らないででくれよ。」

「走ってないわよ?急ぎ足よっ。それよりアニスが貴方のこと呼んでたわ!」

「アニスが?ありがとう、後で行ってくる。けど妊娠中の君が俺を呼びに来ることはないだろ?」

「安定期だし大丈夫よ。それにアニスはこの前女の子を生んだんだもの!第2夫人よ!」

「俺は君たちに序列を与えたりしたつもりはないんだけど…。」





さてこの世界におまけで召喚されてから早いこと幾数年。俺は一夫多妻で頑張っている。


出産は女の方が大変そうだが、子作りは男も大変だ、うん。…周りの理解も大事だよな。男の孤独はいかんやつだ。鬱の発症率は女の方が高くとも、鬱の自殺率は男の方が高いんだから…。


なぜ俺がこの世界で一夫多妻でやっていけているか。それは驚くべきことに俺の妻たちのほとんどは子供を産めないために、社会から弾かれていた女性たちなのだ。


この国の女の多くは男に傅かれ中々にプライドが高い。そんなプライドの高い彼女達からして俺は好奇心を満たすおもちゃにはなっても、大事大事に崇め奉ることもなく可愛いげのない男だったわけだ。


そんな俺と相性が良かったのがアニスのような子供に恵まれない女だった。


この世界の、社会に弾き出された彼女たちにはあまりこの世界の常識を知らない俺には劣等感を刺激されないらしい。

確かに常識知らずの子供みたいな体だけ大人のやつがなにかしたところで、“お前は金の数え方も知らないくせに”ってなるよな。

そんなことしたって俺が間抜けに見えるだけ。


それに女児を生んだ女が偉くて、子供をいっぱい産んだら子育てなんか夫に押し付けてても地位が上がるなんて。

この異世界ほど極端な価値観でもでもない俺はアニスらにとって居心地が良いのだろう。


そして、俺が一夫多妻になったのは彼女たちに居場所を作ったことが大きいだろう。

俺はアニスたちとの間に女児をもうけることができた。


異世界人チートだと思ってる。子供生ませるために召喚したんだったら、子供を作る能力がいくらか飛び抜けててもおかしくないだろう。ついでに俺をおまけだと言ったのはあのくそ王子だ。


プライドの高い女達は女児を産み地位を高めたいがため最近うちの家に女児が産まれその種が俺のだと知り、頻繁にお誘いして来るようになった。

そこに一通、やけに豪華な便箋が、差出人は書かれておらず、中の便箋には田代真奈美の名前があった。さてなんだというのだ。久しぶりすぎて驚いた。思わずお前誰だよとか言いそうになったが、この世界で漢字で書く名前なんて一人しかいないのだ。JKも人妻か。この二つは男のロマンがつまってる。


懐かしいな。そういえば王族の妊娠とか誕生とかの話は聞かないなぁ。



「ねぇ、今回は何人の女の子だと思う?」

「さぁ、前回三つ子だったしな。また多胎児だったら、シアも辛いだろうな。あんまり無理しないようにな。」



ちなみに俺の名前はオノレーヤではなく、小野礼也だ。そんなヨーロピアンだかアメリカンだかみたいな名前に変換しないでくれ。俺の名前は礼也だ。

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