クレジット 伝承花図鑑
ここまで開いてくださる方がおられるかは分かりませんが、もしお目に留まりましたら。
これは物語ではなくクレジットタイトル。一種のエンドロールでございます。
それでももし、ご興味がございましたら。
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これは白い種族が伝承してきた花図鑑。
それを貸してもらった道化師は赤い花弁のネックレスに触れていた。
王子様が花言葉を知っているのかどうかが気になって。少しだけ確認したくなって。
だから数ページだけ、覗いてみることにしたのだ。
バラバラな筆圧で、筆跡で、整えられていない――伝承されてきた花図鑑を。
* * *
レリス
深緑の花弁でガクは黄色。一輪で咲く花であり生息地は荒野。茎などを千切ると粘着性の高い粘液が溢れ出る。
花言葉 隠し続けた愛情
ピルクス
薄青の水気の多い花弁が特徴的。水辺に群生で咲いており触れると蒸発して消えてしまう。
花言葉 触れられない恋心
ピナキス
ピルクスのきょうだい花。触れても直ぐには蒸発しないが摘まれてしまえば一夜で消える。
花言葉 伝えられない尊敬
フィンジャーカ
可憐な白い花とは裏腹に大地に張る根の深さが特徴的。その根は土に絡みきっており一度花が咲けば植え替えは不可能。
花言葉 深い信頼
リュンデーン
光を吸い込む黒い花弁を支えるのは太い茎。絡まりあった繊維を断ち切るには研ぎ澄まされた専用の裁ち鋏が必要。
花言葉 不屈の友情
マキロン
柔らかな白い綿毛のような花弁を咲かせる。ガクや茎は朱色であり折れやすく花弁も散りやすい為、取扱には細心の注意を。
花言葉 心配性、臆病に震えている
スイレット
深海のような青い花であり日陰にしか咲かない。繊細な硝子細工のような花である為、軽い振動でも折れてしまう。
花言葉 砕かれる想い、奇跡
アウラン
時間によって花弁の色が変わる。朝は白、昼間は黄色、夜は青。変わり際に色が混ざる様は小さな空のよう。
花言葉 貴方に喜びを与えます
リリス
レリスが二輪咲いた状態。耐久性や生命力を分け合う為に脆くなり、どちらかを摘まないと両方枯れてしまう。
花言葉 献身的、自己犠牲
ガンティアラ
小さく赤い花弁が密集して大輪に見せる花。一枚一枚が寄り添い合う姿は家族の花として扱う国もある。
花言葉 情熱的、絆
スノーク
純白の花弁と金の葉脈がある美しい花。茎が捻れやすく育てにくい為、マニアの間では「妖精の悪戯」と謳われている。
花言葉 悪戯心、我が道を行く思い
ネアシス
薄い黄色の花弁が可愛らしい花。その匂いには安眠効果があり見舞い用の花として喜ばれる。
花言葉 あなたの回復を望んでる
トゥルーパ
白く鋭い花弁が特徴的。家の軒先に飾ると悪いものを跳ねのけてくれると言われる魔よけの花。
花言葉 あなたを守っていたい
ベレッタ
黒く細い花弁が寄り集まって出来た花。一見すれば小さな木のようにも見えるが、高い柔軟性を持っている点が工作などで重宝される。
花言葉 包容力、見せない真実
オニビ
二枚の巨大な花弁を咲かせる花。五十年間誰も訪れなかった洞窟の奥に咲き、見つけられると燃えて消失する。
花言葉 不動の精神
キューバ
花弁一枚一枚が細く靡き遠目から見れば毛糸玉のようにも見える。触れれば柔らかさに感嘆され、衣服や寝具の素材としても使われる。
花言葉 敏感、安らぎ
バドス
ネアシスと同じく安眠効果がある花であり、バドスの香りを嗅いで見た夢は正夢になると噂されている。
花言葉 明日の可能性
ラメン
輪郭しかなく向こうが透けて見える花。花弁を覗きながら空を見上げると一時間後の天気が分かる為「旅人の味方」と言う呼び名を持っている。
花言葉
イーズス
陶器のような手触りで茎も花弁も乳白色。丸い花弁を叩くと高い音階を奏でる楽器の花の一種。
花言葉 貴方と陽気に歌いたい
タンズス
陶器のような手触りだがイーズスより表面がざらついている。丸い花弁を叩くと低い音階を奏でる楽器の花の一種。
花言葉 貴方と穏やかに歌いたい
パリュム
建物の影の中だけで咲く漆黒の花。気づかれずに踏まれてしまうことが多いが茎が頑丈である為何度も花を咲かせることが出来る。
花言葉 折れない心
ヴェミール
黒い葉と茎の上に三枚の銀の花弁を咲かせる花。占いに使うと良い運勢が出る代わりに目の病に罹るだとか罹らないだとか。
花言葉 そのままの貴方が良い
ラニオン
フリルのような花弁と様々な色があることから贈り物として人気。色によって花言葉が違う為、包む時には注意が必要。
ラニオンの全般花言葉 希望が訪れる
桃 一途な恋心、淡い初恋
赤 貴方と一緒に幸せになりたい
青 揺らいだ関係性
白 貴方の成功を願ってる
黄 どうか笑っていてください
黒 染まらない自己
ドルザク
鮮やかな赤い花弁が特徴的。不作の畑や痩せた土地にドルザクを植えると大地に緑が戻るとされている。
花言葉 博愛、実りある大地
フィーム
異種の花畑の中に咲く不思議な金の花。時間と共に近くに咲いている花の色に染められていき、数日でフィームの名残は消えてしまう。
花言葉 順応性、
* * *
「……なんか恥ずかしくなってきた」
呟いた道化師は図鑑を閉じてしまう。
花言葉を王子に確認するのは今度にしようと思い直して。
仮面の下で火照った顔が冷めるまで、外されないようにしなくてはいけないと言い聞かせて。
自分を探す王子様の声を聞いた道化師は、本を抱えて駆け出した。
私が死ねば済む話 藍ねず @oreta-sin
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