第4話:歓迎されないことぐらい当然わかっている。



 愛那とナチェルが魔物についての話をしていると、部屋の扉のノック音がした。

 ナチェルが立ち上がり、扉を開き対応する。

「準備が整いました」

 部下の女騎士からの報告に頷くナチェル。

「そうか。すぐに行く」

 そう言って扉を閉じ、振り向いて愛那へと声をかける。

「ではマナ様。スライムが届いたようなので、部屋を移動しましょう」

「えっ! スライムが?」

(届いたって、宅配便ですか!?)

「研究所に手配して取り寄せました。魔物の中でもスライムだけは研究材料として生きたまま捕獲することを国が認めているんです。勿論許可された研究所のみの話ですが」

「へぇ。そうなんですね」

(そうかぁ・・・・・・さすが異世界。やっぱり知らないことがいっぱいね)

 当たり前のことを再認識した愛那は、ナチェルに促され部屋を出てスライムのいる場所へと向かった。


 その頃、王城を出てルザハーツ領へと向かう馬車の中に、レディル王太子の姿があった。

 同乗しているのは神官長である。

 レディルはいつもの王太子らしい格好ではなく、身分を隠すために神官の衣服をまとっていた。

「王太子殿下。やはりまずいのではないでしょうか? ライツ様もいい顔をされないと思いますよ? せめて一ヶ月、日を置いたら救世主様の怒りも少しは和らいでいるかもしれません。今からでも城に戻られた方が・・・・・・」

「うるさい。歓迎されないことぐらい当然わかっている。わかってはいるが・・・・・・」

 レディルは自分の額を指で擦った。

 今は残っていないが、ルーシェの扇の先端がレディルの額をグリグリと強く押さえてできた赤い跡は、なかなか消えなかった。

 あの後、さんざんルーシェに叱られたことを思い出したレディルは、深く溜め息を吐く。

(気が重い。俺だって好き好んでルザハーツへ向かっているわけではないのだ!)

 逃げられるものならこのまま逃げてしまいたい。

 ライツはまだ怒っているだろうし、何より救世主の少女はいったいどうしたら許してくれるのか? ・・・・・・いくら考えてもさっぱりで、まったくいい案が出てこない。

 うつろな眼差しを神官長へと向けたレディルが口を開いた。

「だいたい神官長、そなただって私と似たようなものだろう」

 あの時、異世界召喚を行った王と神官長も同罪だとライツは言って去って行ったのだ。

 神官長は「いいえ」と首を振った。

 同じにされては困ると言いたげに神官長は胸を張った。

「私には、新たな御神託を救世主様にお伝えするという、大切な役目がありますので」



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