憑りつく島もない

シィータソルト

第1話

 棺桶に入っている自分の姿を第三者視点で見ている自分を自覚した。これが幽体離脱というものだろうか。自分で自分を見られるなんて鏡のように反射するものを見た時くらいだろう。それが、はっきり全身を頭から足の先まで見えるのだから間違いなく、体と幽体は分離している。幽体は魂と言った方が良いか。体とは、この世に存在するために仮初の器にすぎなかった。だけど、これからは魂として存在できている。死んだら終わり……ではなかった。ならば、生前の約束は確かに叶えられるものであった。

 この魂の名前は、七海潮。小学五年生の春に親友である島息吹を亡くしてからは、持ち前の明るさを失い、塞ぎこみ感情を無くす。横に、喜怒哀楽の感情を共感してくれる親友を失ってからは、無表情で無味乾燥な日々を惰性的に生きていた。あまりにも無表情であるため、彼女の周りにいた友人でさえ疎遠となっていった。勉強も身に着かない。涙で視界が朧気であり、頭も親友の喪失感で埋め尽くされており、後悔の念ばかりが浮かぶ。病気で体調を崩していた親友を見舞いに行かなかったことを。病気がうつってしまうかもしれないからと断れていたのをはねのけて、現世において二度と会えなくなる親友にお礼の言葉を伝えたかった。

 結局伝えられたのは、息吹の葬式の日。小学五年生の五月のある日であった。一緒に登下校していたため、息吹の母親から伝言でも伝えられ、学校へ行ってからも朝礼にいて全生徒に息吹が亡くなったことを伝えられ、机の上に献花である、白のカーネーションや白百合を飾られた。葬儀は明日執り行われるようであったが、教室を取り巻く静けさはもうすでに葬式が始まっているかのように厳かな雰囲気であった。


 棺桶に入れられて死化粧を施された最後の美の顔で眠る親友の顔は、確かに体はそこにいるのだけど、中身がもぬけの殻になっていると感じた。もう、いくら感謝の気持ちを伝えたところで彼女は旅立っている。葬式が残された者のためにあるというのはこういうことを指すんだと痛感した。かつて息吹だったものと、息吹の眠る墓を前にしても、そこに息吹がいないのだとわかっていても残された者はこれらに縋り付いて思い出すしかないのだろう。日常の多忙さは、亡き者を想う時間を忘却の彼方へと葬ってしまう。だから、時間を取り、亡き者を思い出す時間を作らないといけないのだ。日常に持ちこんでしまうと、今度は自分の日常が死んでしまうから。

 だけど、潮は日常を日常と思えない。そこに大好きな親友がいないから。葬式が終わって日常に戻っても、どこかに息吹が隠れているだけかもしれないと期待してしまう。お別れの言葉は、毎日のまた明日みたいに明日会える前提のもので言ってしまった言葉だったのか。永遠の別れなんて幻想できっとどこかで会えるとでも思っているのか。死んだらどうなるの。無に帰るの?天国か地獄に行くの?そういったところはないけど、とにかく魂になって自由にできるの?すぐに輪廻転生しちゃうの?どれなの?と堂々巡りを繰り返すばかりだ。



 息吹の葬式が終わってから一年経った春。小学六年生となった潮の枕元に何かの気配が這い寄る。

「潮、潮。うちの声が聴こえてる~?」

「息吹? 息吹なの!?」

「そうだよ。今、夢枕に立っている。潮はうちがいなくて寂しがっているのが見えたから」

「寂しいよ。だって、これからもずっと一緒に過ごせると思っていたから」

「そんなんは天命次第よ~。うちはこの世で全うする使命が終わったから神様から呼ばれただけ」

「使命? 人間、みんなにあるの?」

「人間だけじゃなくて、動物にだってあるよ~。万物にはみんな意思があるからね」

「え、例えば道端にある石ころでも?」

「あるある。その石だって、まわりの生物の役に立てたらあの世に行って輪廻転生だってできるし。さらに上だったら、地球よりも愛に溢れた世界へ行く切符を手にできるとか」

「輪廻転生はよく聞くけど、地球より愛溢れる世界って?」

「この地球は試練を振り翳す入れ物。だけど、その上には、争いも憎しみも生まれない穏やかな世界があるんだって」

「それは、ぜひ行きたいね。もう、この地球で過ごすの疲れちゃった。息吹がいなくなってから、毎日空っぽな日々で、まわりのお友達もいなくなってしまったの」

「それは、潮が心を閉ざしているからだよ。うちに接している時みたいに、まわりに笑顔を振りまいて。少しずつでも取り戻して」

「もう、無理だよ。私だって、早く息吹のところに行きたい。使命って何よ……」

「さっきも言った通り、周りの役に立つ……幸せにすることだよ。笑って。潮の元気は、うちを元気にしてくれてたよ」

そう言うならと、無理矢理笑顔を作ってみる潮。口角がさび付いたかのようにぎこちなく動き出す。

「表情筋が硬くなっているね。家でも学校でも鏡の前で笑う練習してから人の前に出た方が良いよ~」

「そうだね。なんか顔が痛いもの。私はこんなに笑い方を忘れてしまっていたんだね……」

「本当、もっとこうした方がいいけど……ありゃりゃ。もう肉体がないから、潮に触れることができないや。もどかしい。夢の中でくらい、触れられてもいいのにね。話せるんだからさ」

 息吹の手が潮の顔をすり抜けている。魂となったら夢という無意識の領域での意思疎通は可能であっても、肉体的な接触はできないようである。潮も息吹に手を伸ばしてみるが、同じようにすり抜けるだけである。

「もう、遠い存在なんだね。息吹は」

「いやいや、うちはもうこの世界と同一になったも同然だよ。いつでも息吹の隣にいるよ」

「隣にいてくれるの? 天国とかで静かに幸せに暮らすのではないの?」

「そういう人生ではないな……なんて言うんだ。幽霊生?もありだけど、自由に飛び回って過ごしても良いんだって。中には、天使となって現世に幸せを運びに行くという魂もいるみたいだし。うちは、しばらくは、この軽い体で自由に滑空して世界を冒険するんだ!」

「そうなんだ。じゃあ、隣にいるのって嘘じゃん。息吹は、世界を見て回るのでしょう。私を見ている暇なんてないじゃん」

「いやいや、あの世はね。叶えたいってことは何でも叶う世界なんだよ。現世にだって、それと同じ考えがある。それは、引き寄せの法則。潮がうちに会いたいって強く願えば、一瞬で潮のところに来られるよ! 忘れないで」

「もう行ってしまうの……行かないで! 息吹!!」

「潮が眠りから覚めるだけだよ。大丈夫だって。さっきも言ったよ。うちは隣にいる。万物と同一。見渡せばうちがいっぱいいると思えばいいんだよ。じゃあ、見守っているからね。再会した時、楽しい人生を送ってきたか聞かせてもらうからね」




「息吹!!」

 叫びながら起床する。部屋中を見渡すが夢に出てきた息吹はいない。これが、夢枕というものか。寂しさを抱えているのを見透かされて会いにきてくれたのか。常に隣にいる……か。そうならば、こんなところを見せていられない。まずは、鏡の前で前みたいに自然と笑えるようになろう。そして、何か人を喜ばせる技術を磨こう。今までの塞いでいた時間を取り返すかのように、体は意欲的に動けるようになった。まずは、鏡の前で笑顔の練習!



 練習の甲斐があって、友達が戻ってきてごめんねと謝ってくれた。潮も不幸をばらまいてごめんねと笑顔で謝った。そのおかげで授業の遅れも取り返すことができた。五年生からは、クラブ活動が始まる学年でもあり、創作クラブに入り、絵に小説に表現することを覚えた。それに、創作をすることで、見る目を養い、起きている時でも息吹の姿を発見できるかもしれないという期待も込めて。クラブ活動は同じように表現することが好きな友達が集まり、楽しい日々を過ごせた。中には、作詞・作曲をする、動画をつくるという強者もいて、創作をするといっても様々な媒体があることを知った。



 宿題を済ませてから、家にあるパソコンを触って、絵を描くソフト、小説執筆ソフト、作曲ソフトや動画編集ソフトなどのフリーソフトを入れてみた。クラブの仲間ともっと話ができるように。クラブ活動でも友達と試行錯誤し、家でも宿題以上に気合を入れて創作に力を入れた。おかげで、自分の使命を見つけた。創作で人を笑顔にすることを。クラブの最終日には、共同作品の動画劇を作り、脚本、キャラクターの絵、音楽・効果音を生徒だけで作り、発表した。他のクラブからは賞賛の嵐であった。見事な大団円でクラブを引退できた。



 充実した時間は早く立つ。潮もすっかり中学生となる。部活は小学生の創作クラブでの活動が楽しかった為、その中でも絵を描くのが好きだからということで美術部を選ぶ。小説を書く文芸部とも悩んだが、今は絵で表現したい気分なのだ。息吹がいたとしたら一緒にどこかの運動部に入っていたことだろう。息吹は運動するのが大好きであったから。その選択も面白かったかもしれない。

 学校の宿題は終わったが、部活の課題がまだ少し残っている。だけど、体調がここのところ優れない。風邪でもひいただろうか。季節は冬。もう少し経ち春を迎えれば、息吹の三回忌となる。そろそろ、お墓参りに行かないと。夢枕にもあの一回きりで出てくれない。創作で見る目を養っても見える気配も一向にない。寝て休むことにした。調子が良くなったら一気に仕上げる。締切は今週末までだったと思うから。



 当然のように来るだろうと思った潮の朝は来なかった。眠りについたままだった。

「潮、そろそろ出ないと学校に遅刻しちゃうよー。潮? 潮!?」

 母親が起こしに来るも、そこで眠っていたのはもうかつて七海潮だったものであった。

「そんな……。どうして……。この子はまだこんなに若い年だというのに……。神様、どうか潮を連れていかないでください。潮が何をしたというのですか……!!」

 ベッドの上の潮にもたれかかるように泣き崩れる母親。しかし、どれだけ泣き叫ぼうとも潮の目は二度と開かれることはなかった。



 喪主の父によれば、潮の死因は、風邪のウイルスが心臓に侵入したことによる突然死だそうだ。疲れやすいとは感じていたが、免疫が下がっていたということだ。今では、狭い肉体から解放されて、苦痛を追うことなく自由に滑空できている。

「これが、肉体から解放された魂の姿。私も死んでしまったんだなぁ」

 なんだかあっけない。苦しみを味わうことなく、自然と剥がれ出たように。



 約三年前に見た親友と同じように棺桶の自分の肉体は死化粧で最後の美を飾られていた。周りにも色とりどりの別れ花が添えられている。そして、悲しみに暮れているクラスメイトや先生。それに親。潮は使命を全うできたのか。課題が終わっていないではないか。だけど、設計図はある。ラフ画にどのように色を塗るか、色の組み合わせは何色と何色かなど。共同作品の一部だから誰かがやってくれるだろう。最後まで仕上げられなくてごめんなさい。涙は零れ落ちない。血液が流れていないからだ。だけど、目には悲しみの塊が溜まり、流れ落ちているような感覚であった。別れの言葉をたくさんもらった。もうここに居着く理由もない。さようなら。潮は天へ召されることにした。




 空へ空へと高くを飛んでいると、そこには理想郷とも言えそうな世界が広がっている。門の近くに二人立っていた為、片方の人に話しかけてみる。

「あの、私、今日亡くなった者なのですが、ここは来て良い場所ですか?」

「ん? おかしいな。ここに来るには、あらかじめ天の使いが迎えにいくことを夢でお伝えしてからのはずでしたが……。申し訳ございません。手違いが起こってしまったようです。どうぞ、中へ入りお待ちください。神様がお待ちです」

「は、はい……」

 神様って本当にいらっしゃるんだ……。これから、天国に居ていいか、地獄に居ていいかの判決をくだされるのかな……。不安になってきた。悲壮感に陥っている間を取り上げられて、堕落した人間だから地獄で反省してこいとでも言われるのでは……。



 神様は、形を取っておらず何と表現したらよいのか。とにかく、神々しい光を放った塊としか言えなかった。だから、動物なのか、性別はどちらなのかといったものが一切読み取ることができない。

「七海潮さんですね。お待ちしておりました。こちらの手違いで、使いの者がお迎えに上がらずにご足労をおかけいたしました。では、これからあなたの幽霊生を決めていただきます。幽霊生は、まず、自由に生きる権利を有せる生活、次に天使となりて、現世の人間の幸福になる手伝いをする生活、最後に、輪廻転生を果たし、全く違う生物としての生活を始めるがあります。……ただ、あなたの場合は、さらにもう一歩違う道も選べます。それは、この地球を離れた愛溢れる世界へ行く切符を持って、新たな世界へ行くことです。その世界では現在の姿でも良いし、別の望む姿になることも可能です。いかがいたしますか?」

「え……。神様、私は愛溢れる世界へ行くことが許される人間なのですか? 私は一時期、悲しみに暮れて自暴自棄となり堕落していた人間でございます。それでもよろしいのですか?」

「もちろんです。その悲しみを受け入れた上でどのようなことを成し遂げるのかは試練だったのです。あなたは見事試験を合格してみせた。もうこの地球で鍛錬を積む必要はないのです」

「……。ありがとうございます。それも、息吹。私の親友がいてくれたおかげなのです。愛溢れる世界へ行くのは息吹と共に行きたいです。神様、島息吹は、私と同じように愛溢れる世界へ行けますか?」

「ええ、行けますよ。あなたを悲しみの底から救い出して、世界を旅して同じように悲しみに暮れている方へ手を差し伸べているのは、天使のようでした。ですが、その天使業はあなたが亡くなるまでと決めたため天使にはならなかったようなのです。惜しい人材を無くしてしまいますが、この世界の幸福は増えたことでしょう。それに愛溢れる世界で生まれた愛は地球にも流れてくるだとか。愛の営みを地球にもおすそわけしてくださいね。潮さん」

「はい! 私、息吹を探してきます」

「えぇ、あなたなら、親友のお言葉を思い出せばすぐにでも見つけられると思いますよ。頑張ってください」

 潮は再び、地球へ戻ってくる。まずは、自分の部屋だ。迎えに来てくれる予定だったのなら、私の行動範囲を探してみるのが良いだろうと思い来てみたが気配はない。そういえば、同じ幽体になったのだからちゃんと見えるよね?ううん、必ず見つけないといけない。家の周囲をぐるりと見渡し、いないことを確認して、次に学校へ向かう。

 学校も周辺をぐるりと見渡したが、息吹の姿は見かけない。なら、火葬場にまだ残っていると思われているだろうか。行ってみよう。いなかった。なら、建てられた墓はどうだろう。いなかった。

 まさか、現世に何か未練があるとか……。もしくは、輪廻転生を果たしてしまったとか……。だけど、思い出せ。神様のお言葉を。

“えぇ、あなたなら、親友のお言葉を思い出せばすぐにでも見つけられると思いますよ。頑張ってください”

 このように、おっしゃっていた。親友の言葉を思い出せば……。息吹のいつの言葉を思い出せばいい。生前?亡くなってから?



 ……!!わかった。夢枕に出てくれた時の言葉だ!!

“いやいや、あの世はね。叶えたいってことは何でも叶う世界なんだよ。現世にだって、それと同じ考えがある。それは、引き寄せの法則。潮がうちに会いたいって強く願えば、一瞬で潮のところに来られるよ! 忘れないで”

 忘れていた。今まで強く願ってこなかったから、息吹の姿を見ることができなかったのだ。もう、現世でのしがらみはなく、想いの先は息吹だけに集中できる。

 ――息吹に会いたい!!

 強く目を閉じて、手も組み、祈りを捧げた。目を瞑っていても、目の前に何かが眩く輝くのが感じられる。薄目を開けて見てみると、そこには金色に輝く扉が現れていた。引き戸だろうか。持ち手のところがU字型にでっぱっている。引いてみると、同じように持ち手を持って扉を引いた息吹の姿がある。

「息吹……。どこに行っていたのよ。会いたかった」

「えへへ、うちが現世にいたのは、潮がうちのところへ来てくれるって神様から聞いたから、待ちきれなくて迎えに行ったんだ。でも、すれ違ってしまったみたい」

「夢枕に立つの忘れていたでしょ?」

「あ、よく知っているね~。そうそう。お迎えに上がる時は、夢枕でもうすぐ死ぬことをお知らせした上で天に召してもらうんだよね」

「もう、おかげで私は一人で勝手にあの世に行ってしまったじゃない」

「あらら~、よく迷わずに行けたもんだ。でも、うちの言葉覚えていてくれてよかった。ね、会えたでしょ?」

「うん、行こう!!」

 息吹は、未練を残しておらず、輪廻転生もしていなかった。

「ねぇ、息吹。どこに行っていたの?」

「え、インド」

「インドで何していたの? 天使業?」

「うわぁ、そこまで神様に聞いたのか~。うちから話すはずだったのに~。まぁ、仕方ない。どうしても手が離せない状態だったからね。手間かけてしまったね。でも、これからは一緒だよ」

「うん、やっとまた息吹と一緒にいられるんだ」

「もう、だからいったでしょ。肉体と魂の時だったとしても、一緒だって。うちは万物の一つになっていたんだから」

「ううん。こうすることは、魂になるまではお預けだったでしょ?」

そう言って、潮は右手を差し出して、息吹の左手をつなぐ。

「うん、そうだね。温度ってもう感じない概念のはずなのに、潮の温もりを感じる」

「私も息吹の温かさが染みわたってくる」

「そういえばさ、アカシックレコードで全部見ていたよ。うちのこと想っていてくれたって。それに、クラブや部活での活躍! すごいじゃん! うちもダンスして一緒に混じりたかった~」

「私のこと、見守ってくれていたんだ……。そのアカシックレコードというので。嬉しいよ。これから、一緒に創作しようよ。ダンスを考えるのも楽しそう」

「アカシックレコードって言うのは、元始からのすべての事象、想念、感情が記録されているという世界記憶の概念だよ。うちが見た時は、金色の天の川みたいな感じに見えた」

「へぇ、ロマンチックだね。そこを眺めていると、全ての人の記憶が見ることができるんだ」

「そうなの。だから、潮のうちを想って落ちこんでいた時、夢枕での再会からの立ち直り、クラブや部活での活動など見てきたよ。そして、風邪をこじらせた時に神様から、こちらに来るからお迎えの役を頼みたいって仰せ使ったの」

「もう、てっきり未練があるから残っているとか、輪廻転生してしまったと思っていたのに~。輪廻転生していたら憑りついてやろうとも思ってたのに」

「憑りつく島もないです~」

「うわ、島さん、駄洒落? 寒!!」

「あ、わざわざ苗字呼びにしてくれちゃって!」

 そこへ、黄金の何と形容して良いかわからない黄金の塊が近づいてくる。

「戻られたようですね。七海潮さん。島息吹さん」

「「神様! すみません、お騒がせしてしまいました」」

「良いのですよ。お二人が再会できたことは私も同じように喜ばしいことです。その愛をいつまでも忘れないように。そして、新たな世界でもあなた達なら幸せに暮らせることでしょう。さぁ、お行きなさい。愛溢れる世界でさらなる愛を生み出す者となってください」

「「はいっ!!」」

 二人の目の前には、金色が主体でピンク色のハートが散りばめられた扉が現れる。

「さぁ、行こう。この地球よりももっと愛溢れる世界へ――」

「さようなら、みんな。みんなもこの世界で再会できることを祈ります」

 二人は地球に別れを告げて、新たなる世界へ飛び立った。たどり着いた場所は、自然は豊にあり、人間や他の動物も共生しており、長閑な世界であった。二人は手を繋いだまま、空を駆け巡り、冒険をする。

地球と似ているようでさらに進化した世界だと認識する。場所によっては、テクノロジーのようなものもあるが、それは世界をよくするために稼働している。

 二人は、しばらくして創作を始めた。潮が作詞・作曲をして音楽を作り、息吹がダンスを考えてそれを潮の音楽に合わせて踊る。その周囲には、同じ世界の住人達が拍手喝采で見守る。愛が生まれた時、それを具現化したハートは、空中に散りばめられていたが、それがふよふよと空へ浮かんでいく。ここの住人はそんなことはお構いなしに次々と楽しいことを思いついて、披露していく。

 そう、このハートは地球へお裾分けされる愛である。地球もこの世界のレベルに到達するように潮も息吹も奮闘した。生前に落ち込むだけで人生が終わらなくて良かったと思う潮。それに、中学生と早くに人生が終わったからってそこでも終わりでないということを知れて良かった。死んでからは、もっと自由に自分を表現できるんだ。親友が与えてくれたように、自分もこれからは与える側にならないと。もう、離れたりしないでね。大好きだよ。その気持ちを込めて、潮と息吹は楽しさを創作で表現する。

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憑りつく島もない シィータソルト @Shixi_taSolt

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