悲劇のUターンラッシュ

関口 ジュリエッタ

第1話 悲劇! Uターンラッシュ!

  五月の暑いさかり、高速道路では大きなトラブルが起こっていた。

 Uターンラッシュ。ゴールデンウィークなどの学校や会社などの長期休みが長い時期に遊びや里帰りなどの人が現在暮らしている居住地へ戻るさいに発生する混雑のことである。

 この混雑を使ってある少女を地獄におとしいれようと企んでる人物がいた。

 その人物の名は中村陶太なかむらとうた高校一年生である。

 陶太が地獄に陥れようとしてる人物は二つ歳下で妹の琴美ことみだ。

 低身長だが、黒髪のショートヘヤで顔立ちやスタイルも良く、学校では結構モテてる方だ。

 そんな琴美が最近彼氏ができたと知り、許可無く作った事に激しい怒りを覚えていたからだ。

 妹を異性として見ているシスコンの陶太は今、隣に座ってヘッドフォンで音楽を聴いている琴美に自分の鞄から水色で五百㎖の水筒を取り出し渡した。


「琴美。まだ時間があるからこれでも飲めよ」

「それ何?」

「琴美が大好きなだ」


 水筒を手に取り中に入っていたオレンジジュースを喉に流しこもうとする。

 その光景を見た陶太はニヤリと悪代官あくだいかん並みの嫌らしい笑顔をした。

 何故ならこのオレンジジューの中には利尿薬りにょうやくを混入させたのだから。

 ほんとは大量に下剤を入れたかったが、そこまでするのは可哀想だと思い、友人のつてで利尿薬を手に入れたのだ。

 これを飲んで悶絶する琴美の姿を脳裏で想像する陶太は、変態並みに興奮をいだく。

 ところが予想外なことが起きて、陶太は慌てふためく。


「おっ! 琴美。水筒持っているとは準備が良いな。お父さんにもくれよ」

「これを準備したのはお兄ちゃんだよ。それに私は喉渇いてないから、いいよお父さんが飲んで」

(おい! おい! どうしてそうなる!)


 飲もうとしていたジュースをそのまま手渡そうとした瞬間、咄嗟に陶太は横に入って阻止をする。


「ちょっと、何するのお兄ちゃん!」

「ダメだ! これは父さんではなく琴美に次いでやったジュースなんだ」

「ほんと陶太は妹にデレデレだな」

「あっ、当たり前だろ。兄として妹を大切にするのは当然だ」


 脂汗をかいて陶太は口を震わせながら言い放つ。

 実際、父親に利尿薬が大量に入ったジュースを飲ませたら大事故を起こすに違いない。


「もう、お兄ちゃんてば、いい加減子供扱いしないで、それと私は次でいいから、お父さんが先に飲みなよ」


 何とか手渡そうとする琴美の手首を掴もうとするが、車が停車中だったため親父は素早く水筒のキャップを手に取り、そのまま喉に流し込んだ。


(やっちまった……)


 時既に遅し、もうこの現状を誰も止めることはできない、陶太の作戦がこんな地獄に変わるとは思いも寄らなかった。


「ぐぅぅぅぅぅぅ」


 うめき声と同時に車の車体が激しく揺れ動く。


「どうしたのパパ!?」


 隣に座っていた母親が心配そうな様子で父親に話す。


「なんか……漏れそう……」


 きた、と陶太の心臓がはち切れそうになる。


「漏れそうって何? まさか!? どうしよう、もうパーキングエリアは通り越しちゃったわよ。だから言ったじゃない。お手洗いすました方がいいんじゃないって」

「うるさいな! 耳元で言うな……もうダメだ……出る」


 母親が目をキョロキョロさせながら慌てていると、琴美が衝撃的な発言を陶太にかけるのであった。


「お兄ちゃん! その水筒に入ってるジュースを今すぐ飲んで!」

「バカやろう! そんなのできるわけないだろう!」

「パパのために飲みなさい! それともっといい水筒を買ってあげるから!」

「嫌に決まってるだろ! この中にはな――」


 口から言ってはいけない台詞を吐きそうになったため、慌てて口を閉じた。


「いいから貸して! 今は緊急事態なんだから!」


 なりふり構わず、琴美は陶太の手に持っていた水筒を奪い取り、そのまま無理矢理口をこじ開けて水筒に入っていたジュースを喉に流し込ました。


「うご! うごぉぉぉぉぉっ!」


 無理矢理飲まさられた陶太は、お化けのように顔を真っ青にさせて口に手を当てる。

 これ以上無いぐらいの吐き気がこみ上げ、さらに続けて強烈な尿意も襲いかかってくる。


「……ちょっと、どうしたのお兄ちゃん?」


 琴美は空の水筒を母親に渡して、陶太の方に目をやるとあぶくを吹きながら白目をいていたため、怪訝けげんそうにこちらを覗いてきた。


「どうしたの陶太!?」


 母親も異変に気付いて陶太の様子をうかがう。


「ぐたぐちゆあぁ」


 何を言っているのか聞き取れないほどの重傷を負った陶太に、――さらに追い打ちを掛けるように失禁までしてしまう。

「ギャアァァァァ! ちょっと近寄らないでよ! 助けて、お母さん! お父さん!」


 雄叫びを上げながら寄ってくる陶太を腕で押さえて、琴美は両親に助けを求める。


「こら離れなさい! お父さんも陶太を止めて!」

「ハァ~、気持ちいぃぃぃ」


 父親は幸せの世超期だった。


 この悲劇の騒動はUターンラッシュから解放されるまで続くことになった。

 計画は失敗に終わったが、結果的に妹を恐怖に陥れて満足をした陶太であった。


 そのまま近くの病院に行き、医師からジュースに利尿剤が入っていたことを明かされ、仕方なく陶太は計画の事を打ち明けると、家族みんなから地獄のような説教を浴びせられ、しばらくの間、家族からゴミを見るような目を向けられるのであった。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

悲劇のUターンラッシュ 関口 ジュリエッタ @sekiguchi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ