第5話 長靴をはいたネコ耳

 ある国に、粉挽きを営む四人の親子がおりました。

 一家の母はすでに亡く、父と三人の息子たちで粉挽きの仕事を続けていましたが、つい先日、父も他界してしまいました。

 遺産として、長男は粉挽きの小屋を、次男はロバを受け取りました。

 金髪碧眼細マッチョな三男は、一匹の子猫しか渡されませんでした。

 牝の子猫は、ネコ耳とネコ尻尾を付けた少女の姿をしていて、当然、裸です。

「ああ、子猫一匹を受け取ったところで、ネズミを追い払うくらいにしか、役に立たないだろうなあ」

 嘆きながらも優しく微笑む青年に、ネコ耳ネコ尻尾な裸の美少女っぽい猫が、立ち上がって言いました。

「それは勘違いというモノですニャン。ご主人様」

「なんと、猫が立ち上がって、しゃべった」

 青年は、立って話す不思議な猫に、驚きました。

「ご主人様、私はご主人様が思っている以上に、ご主人様にとって価値がある猫ですニャン。その証拠に、私にブーツと袋をお与えくださいニャン。そして全てを、私にお任せくださいニャン」

 素直な青年は、立ってしゃべる不思議な裸子猫少女の求める通り、ブーツと袋を買って与えました。

「それではご主人様、ちょっと出かけてまいりますニャン」

 そう言い残すと、ブーツを履いただけのネコ耳ネコ尻尾の裸少女は、収穫したての新鮮な野菜を袋に入れて、青年の家から離れた丘へと向かいました。

 丘に到着すると、子猫は袋の口を広げて地面に下ろし、大樹の陰に隠れます。

 しばらくすると、新鮮な野菜の香りに引き寄せられた野ウサギが一羽、やってきました。

 ウサギが野菜を食べようと、袋の中に飛び込んだ瞬間、ネコは袋の口を閉めて、見事にウサギを捕らえます。

 子猫はその脚で城下町へと向かい、王様の城へとやってきました。

 城門を護る衛士たちに、ネコ耳ネコ尻尾とブーツだけの裸美少女は告げます。

「王様へお届け物に上がりました。どうか お目通しを」

 立って歩いてしゃべる不思議な子猫に、衛士たちも驚いて、子猫は王様との謁見を許されました。

 王様の前へと通された裸の美少女にしか見えない子猫は、袋から獲れたて新鮮なウサギを取り出し、差し出します。

「王様、我が主 カラバス卿よりの献上品にございます」

 王様は、立ってしゃべる不思議な子猫に、興味を持ちました。

「ほほう。そなたの主は、カラバス卿と申すのか」

 それから毎日、子猫はウサギや鳩、大きな魚などを捕っては、それらが大好物な王へと、献上に行きました。

 城下町の人々や城門の衛士たちも、立って歩いてブーツを履いている子猫に、愛着を感じるようになりました。

 この日は、王様だけでなく、噂を聞いた王妃も玉座におります。

「カラバス卿の使いよ、そなたの主は どのような人物なのですか?」

「はい。我が主カラバス卿は、それはそれはイケメンな、金髪碧眼細マッチョな、心優しい青年でございます」

 子猫の言葉が、王妃は特に気になる様子です。

「王よ。そのような若者でしたら、ぜひ一度お会いして、良ければ姫と婚姻を」

「うむ」

 頷く王に、子猫は告げます。

「我が主カラバス卿は、喜んで王様を、城へとご招待いたしましょう」

 それから数日。

 子猫は、王様一家が馬車で出かけるという話を、聞きつけました。

 ネコ耳ネコ尻尾にブーツだけな裸の美少女に手を引かれ、青年は川へと連れられます。

「いったい、こんな所に どうしたんだい?」

「ご主人様、早く服を脱いで、川に入ってくださいニャン」

「そういわれても、私は泳ぎが苦手なんだよ」

「大丈夫ですニャン。ご主人様は川に入ってさえいれば、それでいいですニャン」

 なんだかよく分かりませんが、素直な青年は子猫の言う通り、服を脱いで下着一枚となって、粉挽きの仕事で鍛えられて引き締まった体で、川に入りました。

 子猫は、青年の服を繁みに隠すと、街道へと走ります。

 そこに丁度、王族を乗せた馬車が通りかかりました。

 子猫の狙い通りです。

 子猫は、馬車に聞こえるように、大きな声で叫びます。

「大変だ~! 我が主が、川で溺れてしまった~!」

 王は、その声がカラバス卿の使者の声だとすぐに気づいて、馬車を停めました。

「おお、カラバス卿の使者よ。いったい、何があったのだ?」

 ネコ耳ネコ尻尾にブーツだけの裸美少女は、王様に告げます。

「ああ、王様。我が主が、足を滑らせて川に落ちて、溺れております。どうかお助けを!」

 驚いた王様は、衛士たちに命じて、青年を助けに向かわせました。

 更に子猫が「私の失態で、主の衣服が盗賊に盗まれてしまいました」と告げると、王はすかさず「カラバス卿の為に、立派な服を用意せよ」と、衛士たちに命じました。

 二人の衛士に助けられ、立派な服を着せられた青年は、そのまま王の前へと通されました。

 正装をして髪も整えられた、金髪碧眼細マッチョな美青年は、それはそれは立派な姿です。

「まぁ…」

 王だけでなく、馬車に同乗していた王妃も、美しい姫も、青年の姿に目を奪われます。

 馬車から降りた王へ、青年は膝をついて、礼を述べました。

「お助け戴き、なんとお礼を申し上げれば…百の言葉でも足りません」

「そなたが、この使いの主 カラバス卿か?」

 素直に「?」顔の美青年が答えるよりも早く、子猫が答えます。

「はい。私めは このカラバス卿の、使いに御座います」

「カラバス卿…? あ、はい」

 素直な青年は、目配せする子猫の意思のままに、答えました。

 穏やかで素直なイケメン貴族の青年に、お姫様は自然と、頬が赤くなってしまいます。

 子猫は、王に提案をしました。

「カラバス卿は、助けて戴いた感謝の証として、ぜひ王様を、城へと招待したく存じております」

「そうか。では、カラバス卿の城へと 案内されようか」

 王の計らいで、青年は馬車への同乗を許されました。

 道中、王と王妃は、青年が粉挽きの仕事をしていると知ります。

「ほほぉ。貴族でありながら、民と共に汗を流すか」

 王と王妃は、カラバス卿の領地は貧しいのだな。と思いました。


 その頃、ネコ耳ネコ尻尾にブーツだけの裸な美少女子猫は、馬車を先回りして、目的の土地へとやってきました。

 そこは広大な土地ですが、この地を治めているのは、恐ろしい悪鬼です。

 子猫はまず、この土地の人々に話します。

「これから、この土地を王様が参りますニャン。訊ねられたら『この領地はカラバス卿の領地です』と、答えるのですニャン。そう答えなければ、それはそれは恐ろしい罰が与えられるのですニャン」

 人々は、立って話すブーツの不思議な子猫の言葉に、従う事にしました。

 王家の馬車がやってきて、行者が人々に尋ねます。

「カラバス卿の領地とは、まだこのずっと先か?」

「いいえ。すでにここは、カラバス卿の領地です」

 王と王妃と姫は、青年の領地が広大な事に、驚きました。

「これだけ広い土地の領主でありながら、民と共に汗を流すとは…なんと民想いな青年であろうか」

 王と王妃は、この青年こそ姫の婚姻相手に相応しいと、感心します。

 そのころ子猫は、悪鬼の住む立派な城へと、到着しておりました。

 木製の大きなドアをノックすると、扉が開き、身長五メートルを超える悪鬼が出てきます。

 ネコ耳ネコ尻尾にブーツだけの裸美少女に、悪鬼は問います。

「なんだ。子猫なんかが、オレ様に何か用か?」

 子猫は、落ち着き払って言いました。

「はい。私は王の使いでやってきました。悪鬼よ、噂によれば、あなたはとても素晴らしい変身能力を お持ちだとか。王は大変に興味を抱かれ、その力が本当ならば、ぜひ一度 見てみたいと」

「おお、良いだろう。お前の目でしかと見て、オレ様の変身能力の素晴らしさを、王に伝えるがいい」

「では、あなたは大きな象に変身できますか?」

「わっはっは、朝飯前よ」

 悪鬼が長い呪文を唱えると、巨大な象に姿を変えました。

「どうだ?」

「なるほど。しかし小さなネズミには 変身できないでしょう?」

「馬鹿にするな」

 悪鬼は、また長い呪文を唱えると、今度は子猫よりも小さなネズミに変身しました。

「なるほどなるほど。しかしさすがの悪鬼といえど、魚肉ソーセージには変身できないでしょう」

「できるわ自分!」

 悪鬼が三度、長い呪文を唱えると、一本の魚肉ソーセージへと姿が変わります。

 次の瞬間、子猫は素早く飛び掛かり、ソーセージを口いっぱいに含んで舐めて吸って、比喩ではなく物理的に食べてしまいました。

 悪鬼が退治された頃、王様の馬車が城へと到着。

 子猫が迎えに出ると、青年は下車し、姫の支えにと、手を差し出します。

「御手を…」

「わ、私は一人でも下車できますけれどっ、あなたが、どうしてもと、それほどまでに仰るのでしたらっ…わ、私の手を取らせてっ、差し上げてもっ…よよよよろしくてよ」

 美しいツンデレ姫は、耳まで真っ赤に染めながら、金髪碧眼細マッチョな青年に手を取らせつつ、下車しました。

 裸のネコ耳美少女の案内で、城の中を見て廻ると、広い城には見事な芸術品が、数多く飾られておりました。

 広大な領地と立派なお城、そして素晴らしい芸術の数々。

 子猫が用意する豪華な会食のさなか、王は、青年に尋ねました。

「カラバス卿よ。そなた、結婚はしておるのか?」

 青年は正直に答えます。

「いいえ。粉挽きの仕事に忙しく、恋人もおりません」

 イケメンの恥ずかし気な表情も、王妃と姫の心には、超ストライクです。

「それでは、我が姫は、如何だろうか?」

 青年は、美しい姫をジっと見つめ、素直に答えました。

「王様が許してくださいますのなら、姫様と生涯、幸せに過ごしたいと願います」

 輝くような甘い微笑みと優しい眼差しに、姫のツンデレダムは決壊不可避でした。

「おお、それは素晴らしい」

 王と王妃は、青年と姫の婚姻を即座に決定します。

 数日と待たず、二人の結婚式が、国を挙げて祝われました。

 青年は政治に明るくない様子でしたが、姫がヤリ手なので、心配はありません。

「おめでとうございますですニャン。ご主人様」

 ネコ耳ネコ尻尾にブーツだけの裸美少女な子猫は、領主となった夫婦によく仕え、共に、末永く幸せに過ごしました。


                         ~終わり~

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