Uターンと先輩と後輩くん

ジュオミシキ

第1話

「後輩くん、君はUターンというものを知っているかい?」

「車のですか?」

「そうか、それもあるね。けれど私が言いたいのは就職のUターンだ」

「就職のUターン?」

「そう。地方で生まれて都会に働きに行った人が、また地元に戻って働くことだよ」

「へぇ、そうなんですね」

「こんな田舎で生まれた私たちもいつか都会に働きに行くかもしれないね」

「まだ中学生ですよ。就職のこととか早すぎませんか?そんな先のことなんて全然分かりませんよ」

「はは、そうかもしれないね」

「しかもUターンなんて一度都会に行かないと分からないじゃないですか」

「後輩くんは……都会に行きたいかい?」

「えぇ……今、先のことなんてまだ分からないって言ったばかりなんですけど……」

「いいからいいから」

「まぁ、こんな田舎に住んでるので、都会に憧れがないわけじゃないですけど……」

「確かに、ここだと一番近いコンビニまで15〜6キロはあるからね」

「もはや隣町ですよね」

「なんせ広い土地しかないからね」

「道か田んぼかですね」

「でもUターンをする人はそういう田舎の自然を求めているみたいだよ」

「自然、ですか」

「そう、自然だよ」

「田んぼや山とかですか?」

「そう、その自然だよ」

「今はまったく求める気持ちが分かりませんね」

「都会がどんなところか分からないからね。それでも、もしUターンをするなら後輩くんならなにを求めるかい?」

「だから分からないって言ってるじゃないですか……」

「まぁまぁ、自分を都会でバリバリ働いて疲れたサラリーマンだと思って」

「なんでサラリーマン限定なんですか」

「後輩くんはサラリーマンっぽいじゃないか」

「この歳で職業を決定されるとは思いませんでした」

「そんなことはどうでもいいんだよ」

「僕の将来はどうでもいいの一言で済ませるんですか……」

「まぁ、後輩くんの将来なら……」

「?どうしたんですか?先輩」

「い、いや、なんでもないよなんでもないよなんでもないよ」

「めちゃくちゃ否定してくるじゃないですか。逆に怪しいですよ」

「ほ、ほんとに、なんでもないよ……ね?」

「なんで疑問形なんですか。もっと自分に自信を持ってくださいよ」

「!そ、それは、私が可愛いということかい?」

「なぜそこに行き着くんですか。はいはい、今はそんな話じゃないですよ」

「む」

「もういいですから。え〜と、Uターンに求めること、でしたか」

「そう言われると言いたくなるよ」

「本当に面倒くさいですね、先輩」

「い、いま、私のことを面倒くさい女だと言ったか⁉︎」

「言ってませんよ。はぁ……。本当にいいですから、僕がUターンに求めることについての話に戻しましょう」

「まぁ、それでいいよ」

「先輩が聞いてきたんですよ。まったく……。でもそうですねぇ、求めるもの、疲れきったサラリーマンの僕が求めるもの…………あ、」

「どうしたんだい?」

「いや、えと、はい」

「なんだか急に挙動不審になったね」

「なんでもないですよ」

「怪しいね」

「いや、本当にただ馬鹿なこと考えただけですから、気にしないでください」

「そう言われるとますます気になるよ」

「…………はぁ、本当に馬鹿なことなんですよ」

「いいからいいから、ほら、早く」

「もし、」

「ふむ」

「僕が、」

「ふむふむ」

「この田舎にUターンするとしたら、」

「ふむふむふむ」

「……先輩がいるから、と」

「ふむ……………ふむっ⁉︎」

「あーー、ほら、だから馬鹿なことだって言ったんですよ。はい、この話題は終了です。終了です」

「………」

「………」

「こ、後輩くん」

「な、なんですか」

「きっと君はUターンはしないよ」

「え⁉︎なんでですか?」

「さっき、後輩くんの将来のことを予想したね」

「あ、はい」

「あの時、私はなんでもないと言ったけれども、本当は、」

「……」

「本当は、将来、後輩くんは、私と一緒にいてくれるんじゃないかぁ、なんて、思ったりして……」

「………………」

「………………」


「……確かに、これじゃあUターンどころか、都会にも行かないかもしれませんね」

「……かも、しれないね」

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