第7話

 私はユウスケの手にも気付かなかった。真っ白で透き通った手、長い指。ハンドルを握る手は何度も見たのに。暗いからわからなかったのかな。ユウスケは、目も手も綺麗な人。


 猫の背中をなでながら、ユウスケは遠く遠くを見ていた。


「何見てるの?」

「理想郷。」

「理想郷?」

「ユートピアだよ。アヴァロン、アルカディア、エデン、エル・ドラード…。」

「理想郷って、そんなにいっぱいあるの?」

「他にもある。」

「へぇ…。…行ってみたい…。」


 私は探す。ユウスケの見ている理想郷。その時、風が吹いた。柔らかい風。


「嘘だよ。」

「え?」

「理想郷なんて、この世にはない。ないから理想なんだ。ある訳がない。」


 確かに。確かにそうだ。でも。


「あったら?」

「だからないって言ってるだろ。」

「あったらどうする?私のこと連れてってくれる?」

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