第41話「エレナの魔法」

「それ以上やったら許さないわよ!」


 エレナは仁王立ちでビシッと赤ずきんを指差す。


「さっさと『玉手箱』を置いて出ていきなさい! でないとあたしが相手になるわよ! あたしはすっごく強いんだからっ!」


 エレナの細長い脚はぷるぷると震えていた。フードから覗く赤ずきんの唇がくすっと笑い声を漏らす。


「おい、おまえなにして……! どいてろバカ!」


「誰がバカよ!!」


 エレナが顔を半分こちらに向ける。


「どくわけないでしょ!?」


「なんでだよ!? 危ねーだろうが!」


「危ないからどかないのっ! だってあんたボロボロじゃない!」


「俺のことはいいから……」


「よくないっ!!」


 エレナの声が校舎に響く。


「バカはあんたよ!! 全然よくないんだから!! あ、あんたがやられたらあたし……あたしっ……! だってっ……!」


 月明かりに照らされたエレナの横顔は真っ赤に染まっていた。


「だって、あたし……あんたがっ……!!」


 カタカタカタカタ、と音がした。


 窓ガラスだ。強風にでも吹かれたみたいに震えている。教室の扉や踊り場の掲示板も小刻みに揺れていた。


 エレナの髪が、スカートが、風にそよぐようにふわふわと踊る。


「"雪国"!」


 赤ずきんが言う。


 無数のつららが俺たちを取り囲んでいた。


 エレナが叫ぶ。


「好きっ……! マカゼ!!」


 瞬間、風が舞った。


 竜巻。俺とエレナの周りに暴風が渦を巻く。


 つららが紙切れのように吹き飛んだ。窓が割れる。扉が壊れる。シャンデリアが粉々に砕ける。


 暴風を踏ん張って耐える赤ずきんのローブから、なにか小さなものが落ちた。


 轟々と風が吹き荒れる。


 ドアがはずれる。床板がめくれる。校舎を破壊する勢いで風が荒れ狂う。


「なんだ……!?」


 風は徐々に弱まり、やがて完全におさまった。窓や木材、壊れたシャンデリアがごちゃまぜになって、廊下はひどい有様だ。


 小さななにかがコロコロと階段を転がる。


「な、なに今の……?」


 エレナが呆然とつぶやく。


「もしかして、魔法か……?」


 俺の言葉にエレナがハッとした。


「うそ……? あたし、はじめて魔法が使えたの!?」


「みたいだな。しかもすげぇ威力だ」


 エレナの顔にうれしそうな笑みが広がる。


「でもエレナ、喜ぶのはあいつを捕まえてからだ」


 屋上手前の踊り場で呆然としていた赤ずきんが、ハッとして階段を駆け上がる。


「待てよ、怪盗赤ずきん。いや……」


 膝をついて立ちあがりながら、怪盗の落としものを拾いあげる。


 一口サイズの棒つきキャンディを。


「──イオリ・モーガン先生」

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