第6章「怪盗赤ずきん」

第40話「侵入者」

 深紅のローブで頭まですっぽりと覆った人物は左手に白銀の小箱を抱えていた。


「あ、『玉手箱』!」


「てことは、こいつが怪盗赤ずきんか……!」


 エレナがビシッと『玉手箱』を指差す。


「こらーっ! 泥棒! それを置いてさっさとここから出ていきなさい!」


 赤ずきんは舌打ちして駆け出した。飛ぶような速さで階段をのぼり、


「っ!?」


「マカゼ!?」


 一直線に俺に詰め寄る。


「"雪の女王"」


 女の声。


 赤ずきんの赤い右手袋が氷づけになる。氷はメキメキと伸び、刃渡り五十センテルほどの刃となった。


 ヒュッ、とそれが目の前で一閃する。


「うおっ!」


 寸でのところでのけぞってかわした俺は尻もちをつく。気を失ったままのトバリが背中からずり落ちた。


 赤ずきんはさらに上へ、屋上へ続く階段を駆けのぼる。


「逃がすかよっ! "鉄壁の守りヴァージン・ブロック"!」


 踊り場ににゅっと壁が出現。進路を塞がれた赤ずきんがこちらを振り返る。


「悪いな! 俺たちも『玉手箱それ』に用があるんだよ! みすみすドロボーに渡すわけにはいかないぜ!」


 赤ずきんはダンッと跳躍。階段を一気に飛び降りて、


「わっ!?」


 俺の目の前で、氷の刃が閃く。


 ギリギリでかわしたところにまた次の一撃。

 しゃがんで避け、転がってかわし、髪を数本持っていかれる。


 こわっ! つーか速……!


「ちょっ……、あんたなんでパンツ……!」


 エレナがぎょっとする。俺のスカートの中が見えたらしい……そうだ、俺今ノーパンなんだった。


「ちょっとトバリとな!」


「……えっ!?」


 エレナは廊下に寝転がったトバリのほうをばっ! と振り向く。

 エレナ、その話はあとでだ。


 赤ずきんが氷の刃を構える。


「"地獄竜の獄炎ドラゴン・ブラスト"!」


 俺と赤ずきんの間にゴォッと炎の壁が燃えたった。氷の刃が溶けていく。


「"蛙飛びこむ水の音"」


 水柱が俺の炎を破った。


「チッ……"鉄壁の守り《ヴァージン・ブロック》・アグレッシブ"!」


 床から生えたでかい円錐が赤ずきんに向かって伸びる。トバリの魔法をパクった俺の新技だぜ。


 赤ずきんはそれを冷静にバックステップで避け、


「"鬼火"」


 ぽぽぽぽん、と火の玉が現れた。円錐を取り囲んだそれが、


「うわっ!?」


 ボォンッ! と爆発。俺は爆風で吹っ飛ばされる。


「ぐっ……!」


「マカゼッ!」


 背中から勢いよく壁にぶつかった。


 くそ、痛ぇ……。


 かすむ視界のなかでエレナの姿を探す。トバリを廊下の端に避けていたエレナは無事だったようだ。


 赤ずきんを見あげる。


 こいつ、相当強ぇぞ。声や背丈からして女のようだが……一体何者なんだ?


 ヤツを通せんぼしていた鉄壁の守りヴァージン・ブロックは、術者の俺が吹っ飛ばされた衝撃で消滅していた。

 赤ずきんが屋上へと逃げようとする。


「させるか……! "神風スカートめくり"!」


 弱々しい風がヒュッとローブの裾を切りつける。くそ、力が入らねぇ……!


 赤ずきんはゆっくりとこちらを振り向いた。目元まで隠れたフードで表情は読めないが、まあ友好的な雰囲気ではないね。


 身体に力が入らない。立ちあがることすら満足にできない。くそ、トバリとの決闘であんなに力を使うんじゃなかった……!


 ヤツの唇が開く。やばい。くる。避けらんねぇ。


 そのとき。


「待ちなさいっ!」


 エレナが俺の前に飛び出した。

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