第4話




 授業終了のチャイムが鳴る。

 私はそそくさと教室を出、次の教室へと向かう。


「なあ、友里」


 私の後ろをついて来る愁人。

 マジしつこい。

 授業中もずっとちょっかい出してきたし。


「だから勝手に下の名前で呼ばないでって言っているでしょう? 勘違いされたらどうすんのよ……」


「え? お前ってそういうの気にするタイプだったっけ?」


「うっさいわ」


 コレだ。

 愁人はいつも私を弄り倒す。

 私なんぞに構わずに、今も廊下でキャーキャー言っている女子達に愛想でも振りまいていればいいのに。

 変わった奴だという事はとっくの昔に理解したが、何故私に構うのかの理由にはならない。


「……友里ってさ」


「なによ」


「なんか、男っぽいよな」


「はあ?」


 男っぽい……?

 だから、何?

 え……?

 まさか愁人――?


「……んだよその目はよ」


「ご馳走様です。二度と私に近づかないで」


「ちょ……! あ、おい! 友里!」


 特大スクープを手に入れた私は決して走ってはいけない廊下を猛ダッシュで突っ切って行く。

 今夜の女子会も盛り上がるぞこれは……!


「……あ、またメール……」


 廊下を曲がった所で着信音が鳴り小休止。

 大丈夫。

 愁人は追っては来ていない。

 取り敢えず空き教室に避難して……。


 私はメールを開く。


『私も友里さんに会いたいです。会って、色んなお話がしたいです! 今度、友里さんの都合さえ良ければ会ってもらえませんか? 来週だったら、いつでも大丈夫だと思います。私、来年は大学受験もあるので参考にしたいですし……というか、ただ単に友里さんに会いたいんです!』


 授業前に送ったメールの返信だ。

 リリーも私に会いたいと言ってくれている。

 本当ならばここで『じゃあ、いつにしよっか』とすぐにでも返信する所なのだが――。


「くっそ、愁人の奴……」


 さっきのメールを愁人に見られたことを思い出す。

 奴ならば絶対にその人間を超越した嗅覚でリリーを見つけ出しナンパしだすだろう。

 彼女のメール内容もしっかり見てた筈だ。

 ならば愁人はリリーに『彼氏がいない』という事を餌に――。


「守らなきゃ……。私が、梨里ちゃんを……」


 取り敢えず返信は保留にし、ぎゅっとガラケーを握り締め額に当てる。


 いつからだろう。

 彼女とSNSやメールで交流するようになってから数ヶ月。

 段々と彼女の事を考える時間が増えて来た。

 それは彼女が妹のような存在だからだろうか?

 それとも、私の初めてのネット友達だから?


「はぁ……。どうしよう……」


 ガラケーを鞄に仕舞い、溜息を吐く私。

 大学はまずい。

 会うにしても別の場所にしたほうが良い。

 しかし、あの愁人を上手く撒けるだろうか?

 正直、自信が無い……。


「……。っ! やば! 次の授業に遅れちゃう!」


 慌てて空き教室を飛び出す私。

 取り敢えず授業が終わる夕方までに何とか方法を考えておこう。


 そして私は本日ラストの授業を受けにダッシュで別館へと向かう――。





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