第15話 潮干狩り…ではなく砂浜掘り

 珊瑚の飾りで彩られたドーム状の建物に入ると、早速ギルドの洗礼を受けた。


「おう、兄ちゃん。かわいい娘連れてるじゃねぇか。嬢ちゃん、そんな軟そうな男置いといて俺たちと遊ばない?ぐへへ」


 なんということだ。「ネクスト村」のギルドで絡んできたチンピラと全く同じセリフじゃないか。さすが Trackトラック・ Starスター・ Onlineオンライン、シナリオをケチっているし、チンピラのモブキャラも見た目がほとんど変わらない。いや、服装の色が違うだけだな。イラストデータ使いまわしじゃないか。


 まぁ、今は十分なレベルだし、ここは無視していこう。アレも起動しているし。


「あぁん?なんだお前、無視すんなよ」


「はぁ…」


 やっぱり「初めて来たギルドで絡まれる」イベントという避けられないんだろうな。ほっといても片付くし、とりあえずギルドの宿受付に行ってこよう。


「なんとか言えよオラァ!!!」


 一字一句変わらない切りかかりの言葉。まったくほんとに低予算ゲームだったんだな。トラスタ作った会社は、トラスタを最後の作品として賭けたっていうけど、こんなんだからトラスタの前のRPGは泣かず飛ばずで売れなかったんじゃないのか?


「テイル、今日夕飯何にしようか?」


「せっかく海沿いの街に来たしなぁ。おすすめは海鮮BBQかなぁ」


 ―― バリッ


『保護対象者テイル、従者セリアへの攻撃を検知しました。保護モードを発動します』


 うんうん、「いつでもマモルくん」は優秀だ。今日もチンピラを気絶させた。あー、ギルド職員さん、やっと動いたよ。正当防衛だもんね。あとよろしく。レベル的にはもうマモルくん使わなくてもいいんだけど、面倒事を綺麗に終わらせてくれるという点では、この上なく便利なんだよな。



「飯はいらないので素泊まりでお願いします」


「お二方ですね。1泊3万Gです。それではお楽しみください」


 何がお楽しみくださいなんだ。それにしても高いな、やっぱり観光地かかくか?ギルドのおまけ宿でその値段か?トラスタ、物価設定ガバガバじゃないか。





 俺のアイテムボックス容量がバカでかいのもあって、部屋に置いていく荷物は全くないのだが、旅は宿から。とりあえず部屋の確認をする。トラスタの世界は基本的にどの宿もベッドが1つだ。トラスタはあくまでゲームだったから、パーティーメンバーが増えたからベッドが増えるとか宿がどうこうとかいう細かい作りはない。夜一緒に寝る、という楽しみも…しているプレイヤーはいたか。


 この 世界トラスタにおける常識は分からないが、たぶん同じような仕様を引き継いで、最低でもギルドの宿は全部こんな感じだろう。


「きれいな景色…」


『珊瑚の街』は砂浜エリアと海岸エリアが並んでいて、ギルドはやや小高い丘の上にある。ギルド2Fにある宿の部屋からは、街並みと海が見える。まるでイタリアのアマルフィみたいな感じだ。俺はプレイしたことないけど、モナコで開かれるF1グランプリのように、街中がサーキットになることがあるらしい。


「潜水スキルを使って行くダンジョンは『深海に至る海の森』という所なんだけど、今から行くと帰りが遅くなってしまう。海エリアの夜は危険なんだ。今日はやめておこう」


「でもまだ時間が余ってるね」


「そうだなぁ。砂浜エリアでBBQの食材でも狩るか。海の家あたりにある食材より、自分で狩ったほうが旨いからな。場所代だけ払って持ち込むのが良いと思う」


「ふふ、なんか、デートみたいだね」


「デートだな、ははは」


 これだ、これがしたかった第2の人生 異世界転生!誰か分からないけど神様ありがとう!世界救うとか重たい使命は課されませんように…。




 ギルドで常時採集クエストの内容を確認した後、俺とセリアは砂浜にきた。ちなみにこの砂浜エリア、なんとエリア名称が「砂浜」なのだ。もうちょっとなんか名前つけてくれよ。『深海に至る海の森』とかいう名前のダンジョンがあるくせに、何でここだけ手抜きなんだ。


 「一応出てくる敵は今のレベルなら全く問題ないんだけど、波にさらわれないようにな。遊泳スキル未取得だろうから。あとクラゲ型モンスターはだいたい毒とか麻痺とか混乱、気絶効果持ちだから気をつけて」


 『英雄のビーチサンダルの贋作』というこれまた微妙な名前のアイテムを装備し、砂浜を歩く。アイテムボックスでダブってたスコップをセリアに渡し、二人で砂浜を掘りまくる。こんな綺麗な砂浜を掘りまくって荒らしていいのか、と思うが、ゲーム時代も多くのプレイヤーが砂浜を掘りまくっていたしいいんだろう。


 砂浜にはミニゲームもあって、「砂のお城 築城イベント」というのがあった。一応高得点を取るとレアアイテムがもらえるらしい。他にも「スイカ(モンスター)割り」というミニゲームもあり、こっちはスイカそっくりのモンスターの頭をかち割るゲームで、18歳未満がプレイする場合、モザイクがかかる。つくづく、トラスタのゲームデザイナーは力の入れどころを間違えてると思う。


「やった!『星降り牛肉』手に入れたよ」


「おぉ、それめっちゃ旨いやつじゃん。掘ったかいがあったな」


 なぜ砂浜を掘ると牛肉や野菜、焼きそばの麺が出てくるのか分からない。しかしそういうゲームなのだ。むかーしむかしの農場ゲームでは、畑から現金やアイテムが生えてきたらしいし、そういうもんなんだろう。このゲームでもツッコミすぎたらきりがない。というかセリアの様子をみてると、この 世界トラスタの住人は別に不思議に思ってないらしい。


「ちなみにこの辺りに塩を撒くと『マテ貝』が採れるぞ」


「マテ貝?」


「そう。何かこう縦長の殻の変な貝だ。バターで炒めたり、酒蒸しにしても旨い」


「いっぱい採る!乱獲する!!」


 乱獲…してもまぁきっとリスポーンするだろう、この世界なら、うん。マテ貝とれたり妙な細かさがあるな。



 それからおよそ2人分とは思えない量を掘り尽くした俺達は、海の家で海鮮BBQを楽しんだ。まだしばらくこの街にいる予定だし、残った分はアイテムボックスにしまって後日楽しもう。

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