第12話 モンスターテイマー

「ニゲアシスライム爆殺大作戦」という名のハメ技をしてからどれくらいたっただろうか。 Trackトラック・ Starスター・ Onlineオンラインのゲーム時代と、トラスタに似たこの世界は異なるとは認識していたものの、あらためてそれを考えさせられた。通常、ニゲアシスライムは1体ずつしかリスポーンしないのだが、2体リスポーンしたり、というパターンがあり、またリスポーン間隔も短縮されていた。


「あっと言う間に終わったわね…」


「あぁ、俺が思っていた以上だ。もう弾切れだ。レベルは俺が50、セリアが52だな」


 ニゲアシスライムは経験値が旨いモンスターなのだが、50を超えると伸びなくなる。どんなモンスターでも相手のレベルと自分のレベルによる経験値取得バランスというのは保たれるのだが、どうもニゲアシスライムにいたっては、こいつ特有の経験値取得制限が埋め込まれているようだ。


 やはり毎度お馴染み Trackトラック・ Starスター・ Onlineオンラインゲームプランナー兼シナリオライターのプレイヤー名「はじまり」先生は、わざとニゲアシスライムに対するアイテム攻撃防御値を設定し忘れ、ハメ技の余地を残したんだろう。そして、レベル50越えたらボーナスタイムは終わりだよと…。


「夜になるとこのダンジョンは面倒だ。レベル50でも苦戦する、早めに帰ろう」


「え、そうなの!?」


 トラスタはゲームバランスがおかしいゲームとして有名だった。初心者が一所懸命、この初心者用ダンジョン『女神の下僕の森』をやり込むとする。ゲームであれば当然夜までやり込むやつがいるわけだが(ゲーム内時間と現実世界の時間進行は少し違うが)、なんと夜になると中〜上級者向けダンジョンになる。適正レベルは70以降。初心者や中級手前のプレイヤーなど即死だ。なんだその初見殺しは。


「あぁ、なかなか厄介な敵が出てくるし、お化け…レイスとかもいる」


「レ、レイス…」


 なるほどセリアはレイスが苦手なんだな。この初見殺しで死んでいった冒険者がレイスの仲間になって毎晩増えていく…という逸話は黙っておこう。夕方に差し掛かるし、あいつが出てくる頃かな。


「大丈夫、今から村へ引き返せば問題ない。ちなみに、この道中、ダマシウチスライムというのが出てくるが、騙されるなよ」


「ダマシウチスライム?」


「『僕は悪いスライムではない』と自己弁護してくるスライムだ。そこで冒険者が迷ったり、背を向けた時に騙し討ちをするんだが、この際ヒットした攻撃は全て会心の一撃になる。レベルに関係なく現存HPの60%を持ってかれる」


 ダマシウチスライム、こいつの厄介な所は、実は本当に「悪くないスライム」がいるのだ。性別が一応あって、雌のスライムだけに「悪くないスライム」がいる場合がある。しかし、そいつが本当に悪くないかどうかは、騙し討ちを食らうまで分からないし、複数体出てきた時は厄介だ。


「見分けるポイントはあるんだが…なんというかな…セリアが一緒にいると使いづらいというか…」


 正直今の段階でダマシウチスライムは仲間にしておきたい。幸いスキルにモンスターテイマーがあるし、今のレベルなら捕まえられるだろう。


「セリア、何があっても気を確かにしてくれよ」


「??」




 それから何体かダマシウチスライムを無慈悲に狩りながら、出口付近までやってきた。「悪くないよ」「悪くないのに」「卑怯者!」「鬼!悪魔!」「地獄に落ちろ!」「呪ってやる!」など散々な言葉をかけてダマシウチスライムは消えていった。ダマシウチスライムの怖い所は、騙し討ちを成功できずに死ぬ場合、こういう捨て台詞を投げてくる。そうすると人というのは不思議なもので、もしかしたら自分たちは罪のないスライムを殺めているのではないか、と自責の念にかられてき、途中から手をかけるのをやめてしまう。そうして騙し討ちにあい、残り少ないHPのまま夕方から夜になった頃、レイスなどに自分が狩られてしまうのだ。


「ねぇ、やっぱりなんか、かわいそうだよ」


 セリアさん、早速騙されているようです。ダマシウチスライムがこちらをじっと見ている。声をかけられてから1分は猶予がある。


「まぁもうすぐ出口だし、そうだな、もう使ってもいいか。セリア、少し離れててくれ」


 俺はなんとなく気が引ける思いをしながら、アイテムボックスからダマシウチスライムが「悪いスライムか」「悪くないスライムか」を見分けるアイテムを取り出す。


『魅惑の男性フェロモン:原材料不明。特定のモンスターとヒト型種族に有効』


「あぁーもう、えぇい!どうとでもなれ!」


「!!」


「悪いスライムじゃ…あ…あぁ…」


 ダマシウチスライムの頬?の辺りが少しピンク色に火照る。わかってはいたんだけど、セリアも頬をピンクにしている。


「テ、テイル…私…」


「ポーション飲んどけ」


 寄せてはいけないものを押し付けてきたセリアに無理やりポーションを飲ませる。この状態異常に対して即効性はないのだが、5分もすれば落ち着くだろう。


「さて、ダマシウチスライム。俺についてくるか?」


『ダマシウチスライムが仲間になった』




「テイル、さっきはごめんなさい。なんか…」


「あー大丈夫だ。ダマシウチスライムが悪いか悪くないかを見分けるには、『魅惑の男性フェロモン』というとんでもないアイテムを使うんだ。ただあれはヒト型の種族にも有効で、なんだ、その、さっきみたいにしてしまう。街中では当然使用禁止で、ダンジョンでもヒトに対して使うのは禁止なんだ」


 『魅惑の男性フェロモン』を使用し、その場にいるダマシウチスライムが頬?の辺りを紅潮させた場合、悪いスライムではなく、モンスターテイマーのスキルがあれば仲間にすることができる。ちなみに仲間にしなくても、悪いスライムでなければ攻撃してこない。ただ、ちょっと悲しげな瞳で見送られるが…。


「女性メンバーだけで使うと行動不能になって危険だから、使っちゃだめだぞ」


「はい」


 こうして初めてのダンジョン初日は、いきなりレベル50代、モンスター1体をテイムして終わった。





 この宿もベッドは1つしかない。モンスターは召喚せずに亜空間へ収納することもできるので、ダマシウチスライムはそこに送っておいた。「はじまりの村」の宿よりも広いベッドなのに、セリアは俺のすぐ横で寝ている。寝顔を見ながらふと思う。まだ会ったばかりなのに、セリアは俺のことをどう思っているんだろうと。


『魅惑の男性フェロモン』を使用した時、少し理性が飛びそうになった。さっきは説明しなかったが、男性もあのフェロモンの効果を受けてしまう。異性に対して積極的になったり、理性が外れやすくなる。そのまま情事に事が及んでも、お互いが認める仲になれば、事後でも罪には問われない。


 これはゲームではなくて現実世界なのだ。村の娘 セリアと結婚する、そのための好感度稼ぎやイベント、というのは確かに存在している(ようだ)、だけど、目の前にいるセリアはNPCではない。一人の人間であり、女性である。


「まぁ、そうはいっても『女神の下僕の森』で情事を重ねるわけにはいかないからな。あのペースで森を抜けてないと、俺は大丈夫でもセリアまで援護できるか、正直微妙だからな、今は」


 今晩もお楽しみはなしだ。

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