第11話 スライム狩り

「セリア、とりあえず装備はこれをつけてくれ」


『狩人の防具:全ステータス+20の補正値、レベルに応じて基礎ステータス×1.5%のボーナス補正値(上限100)』

『聖剣の贋作:攻撃・素早さ・魔力 +20の補正値』

『可愛いショートブーツ:可愛さ+20、靴ずれ防止、防臭、美脚効果』


「テ、テイルはなんでこんなにいい装備を…」


 村育ちのセリアはレベル8だ。この歳までろくに経験値を稼いでないし、魔法も鍛えてない。何が適正なジョブがわからないから、とりあえず今のレベルでも装備できて全体的にステータスが上がるやつを取り出した。これは上級者が初心者をチームに入れた時に贈る定番セットと言われている。可愛いブーツは俺の趣味だ。


「まぁこんなレベルだけど色々と旅してたからな。気にするな。それに明日にはレベル50になってる。その装備もそのうち変えることになるさ」


 セリアは色々と納得してないようだったが、俺が「女神様に見抜かれちゃったな〜」とか独り言をぼやいてみたら、テイルは世界を救う勇者でレベルや実力を隠していたけど、女神様がヘルプした、ということでなんとなく納得したらしい。うむ、ご都合主義とチートは適正に組み合わせると話が早く進んで助かる。”設定”をいちいち考えるのは面倒だと、「はじまり」先生も話してたしな。


「それで、もうおやつの時間ですが、今日は何を狩るんですか?」


「女神の下僕の森でスライム狩りだ。とは言っても狩るスライムは決まってる。低レベル冒険者でも安心して高い経験値を取得できるスライムなんだが、いかんせん物理防御・魔法防御ともに高くて逃げ足が早い。ちょっとアイテム屋に寄るぞ」


「スライム??」



 ネクスト村にはダンジョンが1つしかない。初心者はたいてい、森に行くまでのフィールドで穴掘りをするか、採取、または森の入口付近にいる弱いスライムを狩って地道にレベルを上げる。さっきギルド受付嬢のフランさんが、俺が明日にはランク付きの冒険者になると聞いて冗談だと思ったのはそのためだ。俺のレベルは3、セリアは8。15以上に上げるには1〜2週間かかる。


「んー、あったあった。ジャスト爆弾。これ1,000箱ください」


「え、1,000箱?本当かい?1箱20本入っとるよ?1箱200Gだから、20万Gになるけど...」


 ジャスト爆弾はこけしみたいな筒に割り箸みたいなのが刺さった爆弾だ。投げたり、設置しておいて衝撃で爆発したりする。ただダメージは強くなく、弱小スライムを倒すにはややコスパが悪い。なにせお祭りの時にバチバチ爆発させて盛り上げる道具だからだ。地球で言うところの爆竹。1本10円程度か。爆竹は安いのだと2円もしないから、まぁまぁの値段だな。


「えぇ、大丈夫です。ジャスト爆弾大好きなんです。はい、20万G」


「はぁ、変わりもんだねぇ。一応まだ在庫あるけど、品薄になるから必要なら早めに声かけておくれよ」


 俺はそそくさとジャスト爆弾をアイテムボックスにしまう。


「……テイルのアイテムボックス…そんなに入るの?」


「ん?あぁ、けっこう拡張したからな。あー…なんだ。女神の祝福を昔もらったんだ」


 アイテムボックスは Trackトラック・ Starスター・ Onlineオンラインを始めたら最初に課金すべき項目なのだ。これをするかどうかで、効率の良い狩りができるか決まり、レベル上げスピードに影響する。課金しなくてもクエスト報酬で女神のボーナスというのがもらえて、それをアイテムボックス拡張に割り振ることにより拡張できる。これも無課金ユーザーの最優先事項だ。



 相変わらずポカンとした顔をしているセリアを連れ、『女神の下僕の森』を進む。セリアにも装備させた『聖剣の贋作』はダブリアイテムで、俺も装備する。ついでに『聖なる盾の贋作』『聖なる登山靴の贋作』『聖なる兜の贋作』も装備している。これらは『聖なる』シリーズに似てもにつかない外観と性能なのだが、剣のようにステータス上昇のバランスが良く、レベル3から装備できるので勝手がいい。全部揃えるのは割と苦労するのだが、チーム内に持ってる上級者がいると、初級者を育てるのに楽なのだ。


「あーいたいたアイツ。いぶし銀の色したやつ、ニゲアシスライム」


「ニゲアシスライム?」


「そうそう、物理・魔法防御が高くて逃げ足が早いやつ。ほらもう逃げた」


「え、あれじゃ戦えないじゃん」


 低レベルの「スライム#001」という敵を適当に倒しながら進んだダンジョンの中枢。木と木の間に「森の真ん中」と書かれた看板、その真下にそいつがいた。「スライム#001」というのは、トラスタの制作会社が以前作っていたRPGに出てくるスライムで、そのRPGが泣かず飛ばず、最後の賭けとしてトラスタが制作され、前作のモンスターをそのまま移植したらしい。だからトラスタははじめ低予算でバグだらけ、シナリオもネーミングも適当なのだ。


「大丈夫だ。ここは一定エリアから敵が逃げて消えるか、倒してから10〜30秒ごとに敵がリスポーンする。途中、全く出現しなくなる時間もあるが、暗くなる前には狩り終えるだろう。こうやってここにだな、ジャスト爆弾をおいておくんだ」


 そう、ハメ技である。このダンジョンのニゲアシスライムは、2本の木に挟まれた看板の下に出現する法則がある。基本的にダンジョンは一定周期で再構成されるのと、必ずしも同じところにニゲアシスライムが出てくるわけではないが、このようないくつかのポイントを見つければ、しばらくは狩りができる。この出現場所にジャスト爆弾を設置すると、ニゲアシスライムが出現した瞬間に爆弾にささった割り箸が反応して起爆するという仕組みだ。


「でも、スライム#001でも倒せないような爆弾でしょ?」


「スライム#001というか、たぶんこの爆弾で倒せるのはニゲアシスライムだけだ。どういうわけか、ニゲアシスライムはこの爆弾が弱点の1つなんだ」


 正確には、ニゲアシスライムはアイテムそのものによるダメージに弱い。例えば木の棒をぶん投げて当てても、一発で倒せる。しかし素早さが早すぎるので当てられるのは上級者以上くらいだ。木の棒を置いただけではダメージ判定にならない。仕掛け攻撃をするアイテムで一番格安なのがこのジャスト爆弾なのだ。


「テイルって物知りね」


「女神に祈った回数が多いおかげだな」


 本当の所は、制作陣のモンスターステータス・パラメータの設計ミスじゃないかと言われている。要は単純にアイテムによるダメージ判定について、失念してただけなのではと…。でも俺はもっと違うことを思う。このハメ技ができてしまう点を考えると、おそらくは「はじまり」先生がわざと設計ミスしておいたのではと。気づいたプレイヤーへのサービスとして、このハメ技があるのかもしれない。


「よし、じゃぁセリア。魔導書でも読書しながらニゲアシスライム狩るぞ。経験値もいいんだが、落とす金もなかなかいい。こいつらの主食は銀らしいからな」

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