テロリスト ゲーム般若の脅威! その3

 目が覚めて、時計を確認する午前9時


 昨日はフランスから来た少女、ゲーム般若が

ゲーム天狗に勝てない試合を挑み続けていた。


 あの2人、何時まで対戦をしていたのかな?

まさか、今もまだ続けてないよね。 


 気になって『ゲーム天狗放送室!』の

チャンネルをスマホで開いてみると、不毛な

闘いは未だ続いていた。


「馬鹿じゃないの!」 


 あまりにも馬鹿馬鹿しくなり、つい叫んでしまうと「どうしたの? 一騎」 


 僕の叫び声に、階段下から母さんが心配そうに呼び掛けてきた。


「ごめん、なんでもないんだ」 


「あなた、前にも夜中に叫んでたでしょ。

ビックリするから止めてちょうだい」

 

 やれやれ天狗さんのせいで、また母さんに

小言を言われてしまったよ。



 ──────────



 夕方になって僕は家を出る。


 昼を過ぎた頃に『ゲーム天狗放送室!』 のチャンネルを観た時には、天狗さんとソフィの生配信は終わっていた。


 今日の動画配信ないだろうけど、天狗さん

大丈夫かな? と心配になってハイツホンマに歩みを進める。


「はっ!」


 そう言えば、ソフィってどこに泊まったの?

まさか、僕がいないのをいい事に男と女の関係になってないよな?


 これは、天狗さんよりソフィの心配をした方がいいのかもしれない?


 そんな妄想に心をかき乱されながら、歩いている内に天狗さんの部屋の前に着いていた。


 ノックをして「天狗さん入りますよ~」と

小声で声をかけてみる。


 寝ていたら悪いので、そーっとお邪魔すると部屋は静まり返って、昨日の喧騒とは打って代わっていた。


 まさか、海外から来た娘さんを手込めにしてないよな?


 しかも、お面を着けたまま、2人裸で寝ていたりとか……。


 いやいやいや、僕は何を考えているんだ。

不安に駆られながら居間まで来ると、隣の部屋からゴソゴソ物音がする。


 天狗さん、僕が来たのに気づいたようだ。


「一騎か? 少し待っててくれ」 


 気だるそうに呼び掛けて、寝起きの歩みで

ヨロヨロと部屋から出てきた。


 あーあ、これはかなり付き合わされたな。


「朝起きて動画を視たら、まだ対戦してたので、悪いかなぁとも思ったんですけど、気になって来ちゃいました」


「ちょうど起きたところだ。

それにしても参った。 午前10時まで付き合わされた」


 昨日の午後7時に生配信をスタートして、

15時間もぶっ通しで対戦してたんだ。


 ソフィもソフィだけど、天狗さんも天狗さんで、よくやるよ。


「それでソフィは負けを認めたんですか?」


「寝落ちしたので、参ったしてはいない。

今、202号室で寝ている」


 天狗さんは、冷蔵庫からドクターペッパーを取り出すと目覚めの一口をつける。


「しかし、あの根性は見上げたものだ」


「旅の疲れもあるのに、異常ですよね」


「配信で我が相手にしないと言ったら、正体を明かしにフランスからやって来て勝負を挑み、勝てない試合を半日以上も続けて参ったしない」


「異常ですよね」


 この言葉は天狗さんも含まれる。


「うむ、大したものだ」


 どうやら、天狗さんには何か共感するものを感じてるようだけど、僕にはサッパリ理解出来ない。


 そんな会話をしていると、玄関の方から扉を開ける音が聞こえてきた。


「オー! マミヤ、キテクレタノデスネ」


 僕の両手を握ると、嬉しそうに喜んでくれて、昨日とは違って友好的な感じだ。


「おはよう、ソフィ」


「マミヤ、オネガイアリマス。

コノマチのオタクショップにツレテッテクダサイ」


 起きてすぐに唐突だね。

まあ明日は午前しか授業がないから、明日の

午後からだったらいいかな。


「うん、いいよ。 明日行こう」


「イマカラはダメデスカ?」


 さすがに、今は急すぎるな。

しかし、こう目を真っ直ぐ見つめられてお願いされると断りづらいな。


「ソフィよ。

今晩はお主の歓迎会を行うので、一騎の言う

通り明日にすればよかろう」


「カンゲイカイ?」


 ソフィは、歓迎会が分からないようなので、お客さんや新しいメンバーを迎えて親睦を深める交流会だよ。 と説明すると


「タノシソウデスネ」 と喜んでいる。


 紅美ちゃんと雪乃さんは、仕事が終わり次第

来てくれるけど、営業終了まで時間があるから、どう時間を潰そうかな?


「紅美ちゃん達、来るまでどうします?

ゲームでもします?」


「我は寝る。 ソフィの相手をしてくれ」 

天狗さんは、そう言い残して202号室に寝に行った。


 どうしようかな? 3時間も時間があるから、ゲームでもするかな。

 ま、どんなに付き合わされても、歓迎会の

時間までだしね。


「ソフィ、ゲームでもするかい?」


「イイデスネー!」


────────


 とりあえず3回対戦したけど…………

やっぱり弱い。


 これに付き合わされるのは、たまったもん

じゃないな。

 せっかくだし、アドバイスしてみるか。

それで少し強くなってもらおう。


「ソフィ、大攻撃ばっかり振り回すと隙が大きいから、隙の少ない小攻撃から繋げてみな」


「オー! ナルホド」 と素直に聞いてくれて僕のやり方を教えると、少しだけ動きが良くなってきた。


 1時間程すると天狗さんも起きて、僕と

ソフィのプレイを観戦している。


 僕の教え方に感心しているようで、ほう と頷くと、天狗さんもソフィに間合いのコツ

など教えてきた。


 そんな時間を過ごしていると、玄関の扉が開

いて


「天狗ちゃーん。

お店終わったから来たよー」

 

 閉店業務を済ませて、紅美ちゃんと雪乃さん

が迎えに来てくれた。


「この娘なんだね。

海外からのお客さんって」


「オー! アナタはクミデスネー」


 ソフィは、紅美ちゃんに抱きつくと

「アイタカッタデス」 と、ほほを擦り寄せて紅美ちゃんも「もー、変な娘だね」 とソフィの頭を撫でる。


 女の子の2人の仲睦まじい光景に、微笑ましい眼差しを送る雪乃さん


 彼女も2人の輪の中に入りたくて、ソフィに

「こんばんわ」 と挨拶をする。


 御姉様会いたかったです。 とか言われて、抱きしめて欲しいんだろうな。 

 けれど、ソフィはキョトンとして

「アナタはダレデスカ?」 と尋ねる。


「昨日、会ったではありませんか。

まあ、いいです。 

 私は『ルー デ フォルテューヌ』 の

麗しき婦長 青塚雪乃よ」 


 あーあ、なんか胸に手を当てちゃってさ。

うっとりとした顔で自己紹介始めちゃったよ。

 可愛い女の子見ると、私は素敵なお姉さん

ですよ。 ってアピールするんだから。


「ワタシは、ゲームテングホソシツのコト、

シッテマス。

アナタ、ゲームテングホソシツのヒトチガイマスネ」


「私も、れっきとした『ゲーム天狗放送室!』の一員です」


「ハイシンでアナタ、ミタコトナイ。

ダカラチガイマス!」


 頑なに雪乃さんは『ゲーム天狗放送室!』の

メンバーではないと否定する。


 ソフィの言い分だと『ゲーム天狗放送室!』という名で謳っているチャンネルなのに、動画配信に出たことのない雪乃さんは、メンバーではないと主張している。


 それに対して、雪乃さんは事情があって動画配信には出られない。 と説明しても、ソフィは「アナタ知らない」 を繰り返して譲らない。


「いや、だからですね……」


 お互いが引かない水掛け論になって、もう

埒が明かない。 


 そんな言い合いに見かねた天狗さんが

「そろそろ行くぞ!」 と切り上げて予約している居酒屋へ向かう。


 ────────


 ハイツホンマから歩いて5分の所にあるそのお店は、いかにも昭和の雰囲気が漂う居酒屋


 お世辞にも綺麗なお店とは言えない。

何でここを選んだの? 他にも綺麗なお店があったでしょ。 と思ったら

「オー! スゴイデス」 ソフィは意外にも

喜んでいるよ。


 席に着いて、まずは飲み物を注文

飲み物が全員分回ったので、みんなで乾杯


「かんぱーい!」


「お主は、日本の食べ物は何が食べれるのだ?」


「ニホンのタベモノ、キョウミアリマス。

ナンデモコイデス」


「そうか、焼き鳥あたりが無難だな」


 いろいろな種類の焼き鳥を注文、これなら

箸を使わないから、外国の人でも食べやすいしね。


「ソフィって日本語上手だよね」


「ワタシ、ニホンがスキダカラ、ニホンゴ

ベンキョシマシタ」 


 箸を使って器用にホッケを摘まむ。 


「箸も使えるんだね」 


「ハイ、ハシもレンシュ、シマシタ」


 箸を使えるようになった子供が自慢するみたいに、先っぽを当ててカチカチ音を鳴らす。


「ほう、大したものだ。

日本語も話せて箸も使えるとは」


 天狗さんに褒められて、「イエイエ」 と謙遜しつつも嬉しそうにホッケを食べる。


「ソフィ、聞きたいことがあるんだけど

『ゲーム天狗放送室!』がゲーム会を荒らしたって、動画で言ってたでしょ。 

あれってどう言うこと?」


「オー! ソレハデスネ。

アナタタチ、イツモタノシソウでワタシの

ココロ、カキミダシマシタ」


「?! それって、僕達が楽しそうにしているから、いても立ってもいられなくなって、あんな動画を出して気を引こうとしたの?」


「ハイ、ソウデス。

ワタシが『ゲームテングホソシツ』にイナイノハ、クヤシイ、イツモオモッテマシタ」


 やれやれ人騒がせな娘だよ。

海外のファンってのは、ありがたいけど。


「あと、天狗さんのゲームスタイルについては、どう思うの?」


 海外の女の子から見て、天狗さんのやり口は、どう見えるのか興味があって質問してみると


「テングサン、カチツヅケルのスゴイデス。

ワタシ、マケナイケド、カテナイ」


 なるほど、あのやり方は海外の人からしたらアリなんだ。

あとソフィ、君はどう見ても勝てないどころか負けてたよ。


「私の喫茶店で働く気はないかしら?

貴女なら、間違いなくメイド服が似合います」


 雪乃さんは『ルー デ フォルテューヌ』でメイドとして働くのを勧めたり、紅美ちゃんは「ソフィは彼氏いるの?」 となかなか興味深い質問すると


「テングサン、ミタイナヒト、カッコイイデスネー」 ソフィは天狗さんに身体を寄せると、

紅美ちゃんは「だめー!」 と天狗さんに抱きつく。


 紅美ちゃんもソフィも、何でこんな怪しい

奇人がいいのか教えて欲しいよ。


 そんな和気あいあいとした雰囲気の中で、

ソフィの歓迎会は深夜まで続いた。




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