月下の歌姫 エリザベートのカラオケでライブ その1

 ちょっとエッチで素晴らしい内容の絵里の

写真集を見終え、最後のページをめくると封筒が入っていた。


 なんだろう? と気になって封筒を開けてみると、中に1枚のチケットのような物が入っている。



エリザベート 『月下の歌姫が送る夜想曲』

招待チケット


2/10 入場料2000円


場所 ダークカラオケ アビス


20時より開場




 なんだこれは?

チケットなのは分かるけど………。


 ピラピラとチケットを振りながら眺めていると、スマホのメール着信音が鳴った。


「絵里からだ、タイミングがいいな。」



 ナイト、ご機嫌いかがかしら?

私の写真集『エリザベート 月と星の微笑み』

が、50部全て完売致しましたので記念ライブを開催します。


 写真集の中に入れてある封筒に、チケットが封入してますので、それを持ちまして参加のほどお願いします。


 当日、貴方に会える事を心より楽しみに

待っています。


 貴方のエリザベートより。 



 なるほど、限定ライブのお誘いだったのね。


 付き合いで写真集を買ったけど、この際だからライブにも入ってあげるか。


 でも、この事は紅美ちゃんには知られないようにしなければ、これがバレて不機嫌になられたら僕の株が下がっちゃうからね。


 しかし、まあなんだ。 絵里の行動力には感心するよ。





ライブ当日  ダークカラオケ アビス


 ここのカラオケは、ダークファンタジーの

世界観をモチーフにしたお店で、アニソン好きやゲーマーが集まるのでも有名なんだよ。


 それに一般のお客さんがあまり来なくて、

限定されたオタクに理解がある、素晴らしい

お店なんだ。


 開演30分前 


 店に着いて、受付カウンターに並ぶと僕の前に5人並んでいて、絵里ともう1人スタッフが来場者のチケットを確認しながら会計をしている。


 列に並んでいる僕に絵里が気付くと、嬉しそうに笑顔で 「ナイト、来てくれて嬉しいわ」

と迎えてくれる。


 こう、喜んでもらえると悪い気はしない。


 今日の彼女の衣装は、いつものゴスロリ服

より控えめなデザインのドレスで、幼い容姿の絵里が少しだけ大人びて見えた。


 背中が空いていて色っぽく、グラマラスではない彼女なのに、僕の目にはセクシーに映る


 なぁんて、言ったら変態ぽいって言われちゃうかな?


「今日の絵里、大人ぽっくて素敵だね」 

 と思ったままの感想を伝えると絵里は、

「やだぁー、もう」 と照れ笑いをして両手で僕の手を取り握りしめる。


 その手は小さくて柔らかく、思わず僕も照れ笑いしてしまう。


 彼女の手が僕の手から離れると、何か白い紙のような物がポトッと落ちたので、何かな? と気になって拾い上げる。


 どうやら、絵里が僕の手を握った時に忍び込ませたのだろう。


 折り畳まれた白い紙を広げてみると白紙に42と書かれてる。


 何かの抽選番号かな? と渡された紙を

見ていると「ウフフフフ」 と、絵里は含みのある笑いと流し目で僕を見送り、次の来場者のチケットの確認をする。




 7階のパーティールームが会場だと言われたので、エレベーターで7階まで行き、突き当たりの部屋に進むと『月下の歌姫が送る夜想曲』

と扉に看板が掲げられていた。


「ここだな」 扉を開けて部屋の中に入ると、照明が落としてあって薄暗い。


 まずは、壁を背にして部屋の中の観察を始める。


 どのくらいの来場者がいるのか数えてみると、すでに40人以上がいて写真集には50部限定と記載されてあったから、今の時点で大方が来ているようだ。


 カラオケボックスのパーティールームを借りきって、ライブを開催するとは考えたよな。


 部屋を見渡すと小さいながらもステージも

あるし、椅子やテーブルも取り払われていて、

優に50人以上は入れるようにしてあった。


 ステージ側の両角には、等身大の甲冑騎士が飾ってあり、逆さに立てたツヴァイヘンダーの柄頭の上に両手を重ね押さえている。


「カッコいいね」 僕はこういった中世の西洋の剣や鎧とか好きなんだよね。

 まあ、ゲームが好きな人ならば、みんなこういうの好きだよね。


 左の騎士を間近で見ると今にも動きそうな

迫力がある。

 

 そして右の騎士を見てみると……ん?


 なんだろう? 左右の騎士、同じデザインの甲冑と剣なのに、何か違うような気がする。


 右の騎士は左の騎士に比べて、迫力が無くて小ぢんまりしているように見える。


 なんだろう? 離れて見てみると右端の

騎士と左端の騎士の大きさが明らかに違うのに気が付いた。


 左の騎士のツヴァイヘンダーは胸の高さの

位置に柄頭があるのに対して、右の騎士の

ツヴァイヘンダーは顔の前、目線の高さに柄頭がある。


「なんか変なの?」 あまりにも気になるので、右の騎士を観察しようと近づいたら


 「本日はエリザベートの写真集完売記念

『月下の歌姫が送る夜想曲』にお集まり頂き

ありがとうございます」


 ちょうどアナウンスが流れて、照明も消えたので客席側に戻る。


 静寂に包まれる会場、スポットライトが扉に当たり、1分程してから絵里が入場。


 いつもの銀髪のツインテールから、金髪の

ツインテールに変わっている。


 自分の胸もとに両手を重ね、祈るような姿で一歩進んでは立ち止まり、また一歩進むと立ち止まるを繰り返し、ゆっくりとステージへと

向かう。


 壇上に上がった絵里は、膝を立ちのポーズになって天を仰ぐように上を向き、自分の世界観に陶酔している。


「私、エリザベートが御送りする

『月下の歌姫が送る夜想曲』にお越し下さってて、ありがとう」


 立ち上がってから挨拶をして、いつものように貴族の礼をすると 「オオオーーー!!!」


 沈黙が破れ、会場は割れんばかりの賑わいで

盛り上がる。


 来場者に手を振る絵里はアイドルのようで、

会場はほとんどが男性だなぁと思っていたら


「あの娘、大したものね」


 隣から僕に話しかける声がするので、

誰だろう? と振り向くと雪乃さんがいた。


「雪乃さん! 何で、ここにいるんですか?」


「何言ってんの? あの娘の写真集、アンタに注文してもらったじゃない」


 あっ! そう言えばそうだった。


 雪乃さんに話したら「見せろ見せろ」 と

しつこくて、見せたら見せたで

「欲しい欲しい」 うるさいので、もう一冊

買おうとメールで確認したら、1人1部まで

なのと、女性には販売してないから天狗さんの名前を使って買ってあげたんだ。


「可愛い娘がいれば馳せ参じる。

それが私、青塚雪乃よ」


 やれやれ、ぶれない人だなぁ。


 そんな会話をしていると、ベートーベンの

『エリーゼの為に』がエレキギターのイントロで奏でられ、いよいよ1曲目が始まるんだな。


「聞いて下さい『エリザベートのために』」


「小僧、それじゃあ」


 雪乃さんは人を掻き分けながら、ステージ前の最前に割り込んで行く


「たくましいよ。 本当に」


 ステージ上には絵里とギターリストがいるのだけれども、よく見てみると……

「あれ?!」激しくギター引いているのって、

三笠くんだよね。


 サングラスに黒の革ジャンを着ているので、

いつもと違う格好しているので分からなかったよ。


 そして、絵里の歌声は可愛らしくて、僕は

上手だなと感心してしまう。


 絵里が4曲続けて歌うと、一旦休憩に入る。


 雪乃さん以外に知ってる人いないかな?

周りを見渡してみると、雨竜君と山田君がいた。


 彼等がいるのは当然だよね。

2人とも、僕と視線が合って気付いてくれたので、挨拶がてら話そう。


「やあ、雨竜君、山田君」


「間宮君も来てたんだ」


「うん、絵里から来るようにってメールが

送られたからね」


「そうなんだ」


「三笠君、凄いね。

カメラマンをやったり、ギターも弾くんだ」


 僕がそう言うと、2人は顔を見合せ表情を

曇らせる。

 何となく、彼等から気まずい空気を感じたので 「ご、ごめんね。 僕、何か変な事

言ったかな?」


「いや、間宮君じゃなくてさ、三笠の奴だよ。

今日のライブの事と写真集を作る話って話

アイツ、俺達に黙って企画したんだよ」


 あれ? いつも仲がいい3人なのに、雨竜君

なんか三笠君に対して不満そうだ。


「抜け駆けはしない、俺達3人は隠し事は無しで、相談して物事を決めようって……アイツが言い出したクセに勝手なんだよ!」


 事情はよく分からないけど、隠し事をしないのが3人のルールなのに、三笠君は雨竜君達

に相談しないで、今回の企画したのか。


 まあ、言い出しっぺが約束破ったら、そりゃ怒るよね。


「いつの間にか、エリシアをエリザベートって呼んでるしアイツのやる事、ぶれてばっかりなんだよ!」


 山田君も困った顔して 

「隆幸君、絵里ちゃんが関わると回りが見えなくなるからね」 と呆れてる。


 隆幸君? ああ三笠の名前か


 話の途中で、雨竜君の視線が別の方へ移る。

何か見つけたようで、僕も彼の視線につられて目を向けると、その先には雷堂がいた。


 彼の周りには誰もいなくて、不機嫌そうに

立っているけど、彼が不機嫌そうなのはいつもの事だ。


「また後で」 と雨竜君達は、雷堂を避けるように、その場を離れた。


 この前、雷堂とは言い合いになったから、

仲直りって訳ではないけど、いい機会だから

話しかけてみよう。


「こんばんわ」


 僕が挨拶をすると雷堂は「ああっ!」 と

威嚇するように睨み付けてくる。


 なんか、いつもケンカ腰なんだよな。

ま、前回はケンカしたようなものだから、

仕方無いか。


 それでも、いつまでも後を引いて会うたびに気分が悪いのも良くないしね。


「この前の対戦、ありがとね」


 前回の『狼達の午後』 での試合のお礼を伝えると、彼は拍子抜けた感じで僕を見る。


「風祭くんは? 今日は一緒じゃないの」


「…………アイツは来ねぇよ」


「何か用事でもあったの?」


「そもそもアイツは、姫に興味が無ぇんだ」


 意外だな。 風祭君って絵里の言う事なら、何でも聞きそうだから関係者として、この場に居るかと思ったのに


「じゃあ、君は1人で来たの?」


「悪ぃかよ」


「いや、僕も1人で来たんだよ」


 雷堂は仲間ではないけど、何となく今の彼と気持ちが共有できる気がするので、隣に並んで一緒にライブを楽しもうと思う。


「何、勝手に隣に来てんだ」


「いいからいいから、1人で来た者同士で絵里の晴れ姿を一緒に観ようよ」

 

 チッと舌打ちすると諦めたのか、それ以上は何も言わなくなった。



 中休憩が終わると、次はプロジェクターを

使って写真集作りの回想が始まった。


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