僕らの町に青塚雪乃がやって来た 《中編》


紅美ちゃんと天狗は並んで隣町に来る間も

ずっと話をしている。

「楽しそうね。

まるで恋人同士のデートみたい。」

よく観察すると紅美ちゃんの方から天狗に、

ずっと話しかけている。


2人は不動産屋があるビルに入ったので、

向かいのコンビニで待つことにした。

いつ出て来るか分からないから、雑誌コーナーで見張っていれば大丈夫でしょう。

そう思って窓の外に目を向けて見張る事5分


ああ退屈だわ、同じ景色を見続けるのは、

あまりにも退屈なので、暇潰しにでもと男性誌を何気なく手に取ってみる。

掲載されているグラビアアイドルに目が止まり

いつの間にか彼女達に点数を付け始めると

これが意外と楽しくて、3冊分の採点が終わり、時計を見たら1時間も経過していた。


「しまった!」

もう2人は出たのかしら?

不安になって窓の外をみたら2人がちょうど

不動産屋から出てきたところなので、ホッとすると

「危ない危ない本来の目的を忘れていたわ」

引き続き見守りましょうと、店を出る。



次はどこへ行くのかしら?

5分くらい後をつけると、チェーン店の喫茶店に入ったので名案が浮かんだ。


「これはチャンスよ!」

私も店に入り偶然を装って紅美ちゃんに接近、

彼女が気が付いて声を掛けてもらい一緒にお話をする作戦

「これでいきましょう。」


早速店内に入ると、甘くない氷が沢山入った

珈琲牛乳みたいなものを注文

席を探す振りをしながら紅美ちゃんを探す。

いた、私の可愛いターゲット♥️

愛しの紅美ちゃんを確認したので、

あとは近くを通って気付いてもらうだけ、と

横を通り過ぎてみるけど…

天狗とのお話に夢中で全然気付いてくれない。


「どこに座ろうかしら?」

と声にしてみても気付いてくれない。

なかなか手強いわね。

こうなったら仕方がないわ。

紅美ちゃんの座っているテーブルに身体を、

ぶつけてっと

ドン!


「ご、ご免なさい。」

「あれ?雪乃ちゃん?」

「あら、紅美ちゃんに天狗さんも偶然ね。」

見事な体を張った演出でやっと気付いくれたわ。

「どうしたの?」

「私、引っ越してきたのが昨日の今日でしょ、

これから住む町を色々見ておこうと散歩してたら疲れたので、お茶でもしようかなって」

「へぇー、そうなんだ。

じゃあ座って一緒にお話しよ。」

「あら、いいのかしらお邪魔でなければ、

お言葉に甘えまして」

ようやく席を一緒にできるわと、紅美ちゃんのお隣に座る。


紅美ちゃんのお話は、買い物に行く途中で猫とお話していたら、いつの間にかいっぱい集まって、皆の話を聞いてたら夜になっていたとか、

近所のお婆ちゃんから新しい料理を教えてもらったなど、可愛いらしいお話を沢山聞かせてくれて、私はウンウンと頷いて、天狗は黙って聞いている。


ああ、ほのぼのするわね。

「紅美、トイレね。」

彼女が席を立つと天狗と2人きりに、

私の方からは特に話すこともないので外の景色を眺めていたら窓ガラスに写る天狗は、サンドイッチを食べている。


本来は、驚くことではないかもしれない。

でもこの人、お面着けてるわよね。

なのにどうやって食べてるの?

気になって、よく見てみると天狗面は、腹話術人形のように口もとの左右に縦の切れ込みがあって、口に合わせて上下に動くようになっている。

そこまでしてお面外したくないの!


天狗野郎がサンドイッチを食べ終わると

「お主、我々の後を付けていただろう」

なんて言ってきたので、

ドキッ!

なかなか鋭いわ、私の尾行に気付くなんて

でも、ここは誤魔化さなければ

「何の事でしょう?」

「とぼけても無駄だ!

お主の目的は何だ!」

紅美ちゃんと天狗の関係がはっきりしない

以上、彼女が可愛いいから私の恋人にしたいので邪魔しないで、なんて言えないし

天狗は凄い威圧感で凄んでくる。


どうしたら、きり抜けられるか色々考えていると

「おまたせー」

紅美ちゃんがタイミングよく帰ってきてくれて

、ホッとすると


「我も厠へ行ってくる。」

入れ替りで天狗野郎もトイレに立ったので、

これはチャンス!

その間に、紅美ちゃんと天狗野郎の関係を聞き出しましょう。

「あの、お聞きしていいかしら…

紅美ちゃんと天狗さんって、仲良さそうだけど

お二人はどのような仲なのかしら?」

仲良さそうと言われたのが嬉しかったのか、

紅美ちゃんはニコッと笑うと

「えーっとね、

紅美は天狗ちゃんのことが大好きなの。」

嗚呼、やっぱり恋人同士なのね。

心の中で愕然とすると

「でもねー、天狗ちゃんは紅美のこと大事な

妹だって言うの」

あら、そうなの良かった。

まだチャンスがあるのね

取りあえず天狗は殺すリストから外しておくわ。


次に不動産屋での事を聞き出そうとしたら、

天狗がトイレから戻ってきたので、これ以上の

詮索は諦めた。

チッ、まだ聞きたい事があったのに戻って来るのが早いわね。

「紅美、帰るぞ」

天狗野郎に呼ばれて紅美ちゃんも後を追って席を立つと

「雪乃ちゃん、またねー。」

と2人は店を出た。


残念

でも、これ以上後を付けたらストーカーに

なってしまうわね

今日のところは諦めて帰りましょう。

青塚雪乃は珈琲牛乳みたいなものをズズズと

飲み干して店を出た。

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