接近! 天狗の素顔 天狗の正体《前編》


肌寒くなってきた秋の夜

閉店後の 『ルー デ フォルテューヌ』で、僕と雪乃さん、紅美ちゃんの3人で暖まりながら、ホットのアップルティーで談話をしていると

「天狗ちゃん、ほんとカッコいいよね。」

突然、のろけるように天狗さんを褒めだす紅美ちゃん。


それを聞いた僕と雪乃さんは、顔を見合わせて

「格好いいも何も、どんな顔しているか分からないよ。」

「そうですね。

肉体は素晴らしいですけど…

おそらく、顔はいかにも中年のオヤジって感じがしますね。」


雪乃さんの言う通りと、僕もウンウン頷く。

だいたい常に天狗面を着けてるのだって、顔に

自信が無いから、コンプレックスで隠す為に

着けてると思うんだ。

だって、食事の時も外さないんだよ。


「ハハハハ!」

雪乃さんと声を揃えて笑うと、紅美ちゃんは

ヤレヤレ何も分かってないね。といった感じで頭を左右に振る。


「紅美ちゃん、天狗さんの素顔見たことあるの?」

「うん、紅美は天狗ちゃんの顔しってるよ。」

「へぇー、どんな顔してるの?

教えてよ。」

それを聞いた紅美ちゃんは、勝ち誇ったように

にや~と笑って「えー、どうしようかな?」

と勿体つけて焦らす。


そして、「やっぱり内緒!」

と、教えてくれない。

何だろう、なんか面白くない。


考えてみると天狗さんの事って、顔だけでじゃなく他の事も知らないよな。

素顔・名前・年齢は知らない。

知っていると言えば

ゲーム配信者

女性の好みのタイプがリョウさん

今の仕事くらいかな?

あとは通販番組をよく視る癖に、紹介している

商品にケチつけるよな。


今まで気にした事が無かったけど、考えだしたら気になってきたぞ。

紅美ちゃんは紅茶を飲み終えると

「じゃあ、紅美そろそろ寝るね。

おやすみ~」

と一足先にアパートに帰った。


残された僕と雪乃さん

「…面白くないわね。」

「そうですね、僕もです。」

どうやら彼女も同じ気持ちのようで、天狗さんの愚痴でも言おうと彼女の方を振り向くと、

眉間にシワを寄せて下唇を付き出している。

不満の表れなんだろうけど…

なんて顔してるんだ、美人が台無しだな。


「こうなったら天狗の素顔、見てみない?」

「ええ!?」

さすがにマズイと思ったけど、確かに気になる。

紅美ちゃんの言う通り本当にカッコいいのかな?


「でもお面取ったら…

凄く怒りそうじゃないですか?」

「大丈夫よ。

前にいた所の社長にカツラ疑惑があったから、

試しに取ってみたら、本当にカツラだったけど

大して怒られなかったし」

……何言ってんの、この人


どうしようかなと迷ったけど、この際だから

雪乃さんの提案に乗ることにした。


「でも、どうやって素顔を見るんですか?」

僕と雪乃さん2人がかりで羽交い締めにして、

お面を取る?

リスクが大きいし非力な僕と女性の雪乃さん

では返り討ちにあうよな。

天狗さんって身体鍛えてそうだし


「まっ、力ずくでは無理でしょうね。

こうなったらサプライズ訪問しかないわね。」

「何ですかそれは?」

言葉の響きからして期待できそうなアイデア!

一体サプライズ訪問とは?

「簡単に言えば、天狗の寝ている時を見計らって、気付かれないようにお邪魔するのよ。」

「それって、不法侵入じゃないですか?」

「馬鹿ね、そう言えばそうだけど、訪問って

言えば違うでしょ。」

いや、違わねぇよ。


「それにしても、あんな部屋でどうやって

寝てるのかしら?」

あんな部屋?

ああ、配信部屋のことか

「天狗さんが寝てるのって、配信している

201号室じゃなくて、隣の202号室ですよ。」

「どうりで生活感がないと思ったわ。

部屋中が白い布で覆われて、家具もほとんど

無いから

それで202号室はどうなっているの?」

「ん?そう言えば、202号室って入ったことないですね。」

「あら、小僧も入ったことないの」

と聞かれて頷くと

「あの天狗の事だから、部屋に何があるか

分からないわよ。」


確かに天狗さんだからな。

これは下調べしておかないと危険かもしれない。

明日は大学の授業も無いから

『憩いの場天狗』が忙しい時間帯の午前11時を狙って2人で侵入することにした。

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