夜は明けない

「なあ……、なんで俺が罪を犯す瞬間を話したと思う? ましてや、刑事にさ」


 1週間前の出来事を洗いざらい話し終えて、僕は座っている同級生に近寄った。

 ついさっきの口調や雰囲気とは打って変わっていることについて、僕自身も驚かせられる。


「それはさ……、お前を彼女美月の元へ連れて行くためだよ! お前は……、美月みづきを、俺の彼女を殺した!!」


 僕は黒く鈍く光っている拳銃を握っており、口径は同級生の脳天を指していた。


「違う……、違う! あれは……、事故だ! 銃が暴発したんだ!」


 焦って口元がもつれて、何を話しているのかがよく分からない。しかし、言い訳をしていることに怒りを募らせた。


「嘘を吐くな! お前は報告書に虚偽を述べ、美月の葬式にも来なかっただろう!? その場に居た上司にも口止めを掛けた!

 お前は、俺の大切な彼女ひとを奪いやがった!」


 同級生刑事は逃げようとするも、手と足が拘束されているので逃れようがない。刑事とは到底思えない、強張った声と、引きつった表情。あの時、あの瞬間を忘れはしない。


 5ヶ月前。

 ひょんなことから、僕は彼女が出来た。それが美月だ。

 両親を早くに亡くした僕に優しく接してくれて、兄姉を持ったらこんな感情につつまれるのかと幸福感に満たされた。

 彼女と付き合うという行為に対して特にメリットはなかったが、幼子のような愛らしい笑みと、清楚な性格に心惹かれた。休日には一緒に出掛けたり、買い物に付き合わされたり、料理もしてくれた。

 そんな彼女の口癖は、

「人は何かにすがっていないと、生きていけないんだよ」

 僕は美月に縋っていた。心の拠り所は、失いたくなかった。


 幸せは長くは続かない。この言葉は真実であった。

 夜、橋の高架下の河川敷を二人で散歩していると、人影が幾つか見えた。その直後、美月は宙で舞いながら、予想もしなかった死を迎える羽目になった。

 美月の死に顔は、頭ごと切り取って大切にしたいほど美しかった。


 殺したのは、指名手配犯を追っていて、誤って美月を撃った、この同級生刑事だ。

 出世欲に駆られ、自分の未来にも影響を及ぼすと考えたコイツは、警視総監という義父の名誉を利用し、口封じに成功した。全てが許すまじ行為だ。


「美月はこんなこと望んじゃいないだろう。だが!」


 この言葉を最後に、俺は引き金を引いた。

 軽い破裂音が響き、同級生とも、一介の刑事とも思わない屍体へ、言葉を吐き棄てた。


「こうでもしないと許せないんだよ」


 お人好しという偽りの仮面を脱ぎ捨て、かたわらに置いていた、美月の遺品の眼鏡を掛け、立ち去った。

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マル秘 僕の(狂)生活日記 朝陽うさぎ @NAKAHARATYUYA

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