「みんな集まれ、強欲フェスティバルが始まるよ」

ハイロック

第1話「ドームに行くだけで1万円もらえるyo」

「なんだこれ?」

 俺が、郵便ポストを開けると一通のはがきが入っていた。大概のはがきが企業のDMである昨今、あて名が手書きのそのはがきは珍しかった。

 興味を持ってそれを裏返すと、そこには企業のDMと同様に写真と印字された文字が並んでいる。

 なんだ、結局、DMか、つまんねぇなあという感想を持たざるを得ない。

 


「なになに、最高のお祭りの開催?」

 はがきの一番上には赤字の太文字ゴシックでドーンと「最高のお祭り開催」と書かれていた。あぁ、あれか、よく中古住宅業者とか、中古車屋さんが人集めに使う創業祭みたいなやつかな。と、パッと見はそう思えた。


——来場者すべてに1万円プレゼント――


 あっ?


 そんなバカな。いや確かにでも書いてある。最高のお祭り開催の下にでかでかと来場者全員に1万円プレゼントと書いてあるぞ。

 気になって続きも見てみる。


「大ビンゴ大会、優勝者には国産高級者レックスをプレゼント。そのほかにも豪華景品あり、おいおいまじか!」

 レックスと言えば、普通に買ったら1000万はするというあれだよな。

「ビンゴ大会前には、国民的人気アイドルの杉坂33と超イケメンユニットのフェロモンゾーンのLIVEもありだって」

 なんだなんだ、どっちもすげぇ人気のグループで絶対チケットが手に入らないって言われてる奴だよな。これは本当の話なのか?

 なんかのいたずらか?


 場所は文京ドーム。

 時間は3月3日の10:00からか。


 明後日じゃねぇか!


 いやずいぶん急だし、参加者全員に1万円だろ、こんな怪しい話、誰が信じるんだ。

「ま、なんかのいたずらだろっ」

 そう思って破り捨てようと思ったが、とはいえ参加するだけで10000円である。うーん、文京ドームならそれほど遠くないし、交通費2000円位でつくからおつりがくる。破ろうとした手が止まる。

 まあ嘘だったとしたら観光すりゃあちょうどいい。

 今年に入ってから騒がれてる例のウィルス騒ぎのせいで、ちょうど学校が全休になって、高校2年生のおれは暇を持て余しているところである。


「タケフミでも誘ってみるかなあ」

 さすがに一人で行くのもあれだし、もしかすると友達のタケフミもこのはがきをもらってるかもしれない。

 

 そうしてスマホを取り出そうとする前に、俺の目にはがきのある文面が目に留まった。

「このはがきをみて質問のある方はこちらまでお電話を、03-XXXX-1111 『厚生労働省』……ん、厚生労働省!!」

 なんだっ、なんで、厚生労働者からこんな手紙が。

 さらによく文面を見ると、一番下にこんなことが書いてあった。

『このはがきは、3年以内に献血をした人の中から抽選で選ばれています』

 

 献血ぅ――!

 やっててよかった、献血ぅ―!


 あれ、おれ献血なんかしたっけ?

 うーん、そういえば去年学校に献血カーが来てて、興味本位でやったような気がするな。


 それでも、もしかしたら詐欺かもしれないし、一応この番号をネットで調べてみよう。いや番号を調べるのではなくて、厚生労働省のページに行ってと……。

 03-XXXX-1111……。

 マジやん!

 マジで厚生労働省の番号やん!

 じゃあなにこれ、マジで本物なのか? すげぇ、超ラッキーだ。


 それでも、この番号を勝手に使っているだけのいたずらかもしれないからな、かけてみようこの電話に。

 はがきを握って部屋に向かい、俺はスマホに、厚生労働者の番号を入力していく。


「現在、大変回線が混雑しておりつながりにくい状態となっています。お待ちいただくか、もう一度おかけ直しください」


そりゃそうか……。同じような奴が結構いるんだろう、なにせ会場は文京ドームだ。5万は入るからな多分。


 何度かチャレンジした結果、ようやくつながって音声ガイダンスのあとに厚生労働省の担当の人間が電話口に出た。

「すいません、最高のお祭りというはがきが厚生労働省さんから届いたんですがお間違いないですか」

「あ、はい、当選者さまでいらっしゃいますね。確かにそういったはがきをうちから送らせていただいています」

「あぁ、じゃあ本当なんですね。このはがきは!? 文京ドームに行けば1万円もらえるし、杉坂のLIVEやるんですね!?」

 何を隠そう俺は杉坂のファンなのである。

 全くチケットが手に入らなかったのだが、まさか献血しただけで行けるとは。


「あ、はい、間違いないですよ。ただ特にLIVEの方はシークレットとなっていますので、外部に漏らさないようにしてください。もし発覚した場合LIVE自体が中止になる可能性もありますので」

「そ、それはもちろん、絶対に漏らしませんよ。いやあ国がこんな政策やるなってびっくりですよ」

「当日の体調などに特に気を付けてくださいね。ウィルスなども流行ってるので万全な体制で会場に来るようにしてください、体調が悪い場合には無理はしないでくださいね」


「いえいえ、七難を排して会場に向かわせていただきますよ。なにせ参加するだけで10000円で、杉坂のLIVEですからね」


「……そうですか、ではあさってのご来場をお待ちしております」


 そうして電話を切った。


「母さん、俺、明後日ちょっと出かけるからね」

 部屋から出て階段を下りて、夕飯の準備をしている母にそう伝えた。


「ええっ、ちょっと用がないなら変な外出するんじゃないわよ、状況わかってんの?」

「学校だよ、学校。なんか一部の生徒だけ行かなきゃいけないんだってさ」

「……そうなのぉ? まったく急に休校にしたと思ったら、今度は来いだなんて、学校もいい加減ねぇ……」



 そして、2日後の3月3日。


 俺は朝九時には、文京ドームのあるお茶の橋駅についていた。案の定というかなんというか、そこに向かうであろう客であふれており、ウィルスの影響なのかみなマスクをしていた。もちろん俺も例外ではない。

「思った以上に、人多そうだなあ。それにしても政府は集団で集まるのは自粛しろと言っておきながら、こんなイベント企画するんだからわけわからんよ」

 そんな独り言を話していると、俺に声をかけるものがあった。


「あれ、なんでお前もここにいんの?」

「おぉ、タケフミじゃん。なんだお前も献血したんか?」

「ん?献血? いや俺はなんかアンケートを書いたのがあたったとかで杉坂のLIVEに来たんだけどな」

 アンケート? なんだ、そんなことでもこの最高のお祭りに参加できんのか?


「とりま、目的はドームで杉坂か?」

「そうだよ、ラッキーだよな。しかも1万円もらえるんだぜ。最高の祭りだよなこんなん」

「……そうだよな」

 一瞬何か、変な感じがしたが、そうだ確かにこれは最高の祭り、こんなラッキーなことはない。俺は行き会ったタケフミと合流して、ドームに向かう人込みの流れにに入った。


 ドームに向かう人の流れは濁流の様であったが、逆にそれ以外の街の人々とか車どおりはとても少なかった。

「みんな、やっぱウィルス警戒してんだな」

「そりゃあ、そうだろ。俺だって、この祭りがなければ来ねぇよこんな人込み……」

「そりゃそうだわ」


 やがて人込みはドームに着いた、警官がやたら配置されているのが気になる。ウィルス対策なのか、入場口の係員はみな真っ白な防護服を着て対応している。

 そんな警戒しなくてもいいと思うのだが。


 ドームに入って俺たちは2階席へと案内される。うーん確かに席順の指定はなかったが、最悪の席だった。全然、杉坂のLIVEが見えないじゃないか。それに2階席から見えるステージはずいぶん簡素だった。

 チャリティイベントなんだから仕方ないだろうが、大型モニターの一つもない。

 これではほとんどライブの状況が見えないじゃないか。


「俺は一応グラス持ってきたから見えるぜ」

 健文は用意周到だった、手にしているオペラグラスを自慢げに見せる。それにしてもすごい人数だ、ドームの観客席はおろかグラウンドまで人で埋まっている。

「おっ、どうやら始まるぞ」

 ドームのグラウンドを見下ろすと、ちょうどセンターの守備位置あたりにあるステージに完全防護服姿の人間が現れた。もちろん、顔は見えない。

 そいつはスタンドマイクに近づくと、声を発した。


「ええっと、皆さんよくお集まりいただきました。いや、なぜ集まってしまったんでしょうか。私はとても残念です」

 変な挨拶だ、何を言ってるんだ?

 しかしこの声に聞き覚えはあった。この活舌の悪さは間違いなく現内閣総理大臣だった。厚生労働省主催の企画だからわからなくはないが、わざわざ首相が来るまつりか?


「わたくしは申し上げました、ここ二週間が山場であると、コロナウィルスの蔓延を防ぐために、この2週間国民の皆様にはなるべく外出しないようお願いしたはずです」


 ざわざわと、周囲の人間、ドーム中の人間が何かを言葉にし始める。動揺か、怒りか?俺自身も状況が全くの見込めない。


「でもわかっていました、いくら学校を全休してもあなた方のような人が絶対に、人込みのある所に出かけて、クラスターを形成するのだと。私は確信していました」

 なんだなんだ、クラスターってなんだ? それより杉坂はいつ出てくるんだ?


「だから、そういう意識の低い人たちをこの場に集めることにしました。あなた方はここから出ることはできません。ウィルスの騒ぎが収まるまで絶対にこの場に残っていただきます。これで、もう日本国民への感染リスクは極限まで下げられました」

 はあ?

 ふざけんなあという怒声とともに、首相の元へと駆け寄っていた複数の人間たちが首相の周りにいた防護服姿の人間たちに一斉に射撃されて死んだ。

「ま、マジかよ」 

 俺は、隣のタケフミ目を見合わせた。


「皆さん、安心してください、参加賞の1万円は必ず出ますからね」

 首相は目の前で起きた惨劇にかまうことなく、そうマイクに声を発した。



「皆様が、無事生きてここを出れた後ですけどね」

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「みんな集まれ、強欲フェスティバルが始まるよ」 ハイロック @hirock47

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